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第11話 宇宙の果て

第1章最終話です。

「落ち着いてくださいアポロ様!」

「ヤマモト! どういう事だ!」

リリにたしなめられているアポロ。

 ヤマモトは言葉を選んでいるようだ。

「彼女が自分でやりたいと言ったんです。」

「だからって…」

 あの皇宮騒動から半年、暗黒帝国の動きは収まっており、トラネコヤマモト卓急便は発展を続けて事業規模は倍になっている。仕事の内容にも変化があり、銀河連邦発展の為の、他銀河交流の超長距離運送の依頼も打診されるようになってきた。その仕事を受けると、パーコが手を上げたのである。

「超長距離運送に携わったら、ウラシマ効果でどんなに短くても往復20年はかかるだろう!」

「パーコがもっと期間が短くなる技術を開発した、と言っています。その検証の為にもまず今回の仕事を請けたいと言ってるんです。」

「それにしたって! オレのほうが老けちまうじゃねえか! ……よし。わかった。オレも行く」

「バカな事を言わないで下さい! 皇族の方がそんな事許されるわけがないでしょう!」

「あいつ…なんでそんな仕事を請けるって言い出したんだ…せっかく…」


 この話の1週間前。

 洗面台の前でつぶやくパーコ。

「悪影響はないだろうけど強化剤も、ちっと控えるかなあ…」


 そのまた3週間前。

ネイル『パーコ様。皇族特別承認権限が付与されました。おめでとうございます。』

「ふぇ!?」

突然、ネイルから告げられて、なんの事だかわからず戸惑ったが、

「あ…」

と、何かに気付いてお腹に手を当てた。

ネイル『同時に、第1の鍵が開錠されました。』

「第1の鍵? それってあの部分の?」

『はい。』

「くわしく解説して?」

『申し訳ありません。それ以上の情報はありません。』

「やっぱりそうなのね。あと4つ開錠されないと情報も開放されないようになってるわけか…」

 ネイルの機体には、実はまだパーコにもネイル自身にもわからない部分がある。仕様書や設計図にも記載がなく、その部分は空白になっており、いかなる方法でも内部解析ができないようになっている。その部分に繋がっていると思われるコンソールには、5つのインジケーターがあり5つとも緑に光っていた。それが今回一つが赤色に変化している。

「アポロが言っていた五大元素の力と関係してるんだろうか… でも何故皇室の能力と関係が…?」


 現在のシーンに戻る。

どなりこんだアポロの後ろ、ドアが開きパーコが入ってきた。

「話がある。一緒にネイルに行こう」


 ネイルの操縦室で二人になると、パーコが指示する。

「まあ、ここなら盗聴の心配はないだろうけど、一応。ネイル、盗聴防止よろしく」

『承知しました』

「アポロ、あたしもネイルの皇族特別承認権限貰ったよ」

「へ? …へ!? へえええっ!?」

 ポカンとしたアポロも、その意味に気付き驚き、ぱああああっと笑顔になる。

「ぱああこおおお! へぶっ!」

「寄るな暑苦しい、てかあついっ」

 喜んで抱きつこうとしたが、パーコに顔をつかまれた。感情爆発したアポロは、また体温も上がっている。

 平熱に戻そうと深呼吸していたアポロの顔に、ぎゅっとかみ締めたアゴの筋肉が浮かぶ。

「超長距離の話を受けようとしているのはその為か」

「そう。このままだとあんたの所も皇位継承権とかって争いの元になりそうだし、今はなりを潜めている暗黒帝国の脅威にもさらされるかもしれないし」

「外に出てるほうが危険じゃないのか?」

「暗黒帝国がアタシとネイルを狙っていたのは、まさに超長距離まで手を伸ばす為だったと思う。だから他の銀河まで手は伸びていないと思うよ」

「暗黒帝国の手はなくても、未知の危険が…」

「アポロ」

「?」

「あんたはアタシの自由な所が好きって言ってくれたよね。自由ってそんな未知の冒険をする事じゃないのかい?」

……ふっ と言ってアポロは肩をすくめた。

「あーあ。次に会う時ゃもうでかくなってるって事かぁ。写真撮っといてくれよな」

「それなんだがな。」

パーコがにやっと笑う。

「アタシも皇族特別承認権限貰ったんだよ?」

「さっき聞いたが?」

「てことはアタシもオーバードライブモード使えるんだよ?」

「……?」

「多元宇宙エネルギー接続翼の技術を応用して、トリニティ・マイクロ・ブラックホールエンジンのオーバードライブモードで次元跳躍航行すれば、ウラシマ効果なしで超長距離航行が可能なんだ」

「なんだよ早くいえよっ!」

と喜びそうになるアポロを制すると、

「でもこれってヤバいでしょ」

「確かに…戦略的にもこれは」

「暗黒帝国もそれに気付いてたかも。だから、本格的にトラネコヤマモト卓急便を皇室御用達、銀河連邦指定輸送機構にしてほしい。それで…ネイル」

『はい。こちらが3MBHエンジンの設計図になります。』

「さすがに多元宇宙エネルギー接続翼の秘密は公開できないから燃料バカ喰いの部分は工夫してもらうしかないけど、皇室やら連邦に費用手伝ってもらってウチの他の船にもこのエンジンを搭載すれば、ウィンウィンと思うのよね」

「うーん。しかしこれを暗黒帝国に盗まれたら」

「あ、セキュリティもちゃんとしとくよ? 敵の手に渡ったらくしゃっと重金属の玉になっちゃうから。」

「……人口天体の時みたいにか」

「あんな規模にならないよ。エンジン1台分だもの。これから超長距離運送の具体的計画を組んで準備したり、新エンジンの組上げと搭載の手間を考えたら、出発は3ヶ月後だ。」

「産んでから出発できないのか?」

「もう色々計画は始まってるし、この子の安全を考えたりあたしの体調を考慮したら、早く出発したほうが安全だ。」

「…わかった。……そっかー。そーかーー。んーーー。立ち会いたいなあ産まれる時に」

「あんたが立ち会ったら病院が火事になっちまうよw。次元跳躍航法でも往復1年はかかるから、次に会う時は首が座った頃だ。ちゃんと抱かせるから体温調節覚えろよ? 強化剤銜えて抱きたくないだろ?」

「わかった。じゃ練習しよう。」

アポロがパーコの腰に手を回す。

「あっ、ネイル、オールシャットアウト」

『承知しました。』

 勝手にドアが開かないようにした。

 壁のカメラのランプも消え、ヤマモトの祖父の額にも何故かシャッターが降りた。


 トラネコヤマモト卓急便が、皇室や銀河連邦の庇護に入った情報が流れた頃、どこかでゴーシ大元帥、ヨーク、フォッターなどを筆頭に、白や黒の硬質の防護服を纏った兵隊達が額づいて、青い光の輪郭がわずかに映ったフードを被った人物が空中に浮かぶ画面の指示をあおいでいた。

「そうか。どうやら次の段階に進んだようだな。もうあの『船』もあの女も狙わなくて良い。危険な『智慧の実』を砕いてしまう事に専念せよ。

そして『水』を導き、見届けよ。」

 そう告げると画面は空中から消えた。振り返ったゴーシ大元帥が問いかける。

「ヨーク、あの船の能力は稼動できているな?」

 ヨークがうやうやしく返事をする。

「はい、あの時点で開放しております。丁度証拠も隠滅できました。銀河帝国軍団長」

「そんな肩書きはもうありません。大元帥と呼びなさい。」


3ヵ月後。

「ほんとに大丈夫なんだろうな。1年で帰って来られるんだろ? やっぱオレも一緒に」

「だーもうしつこい。逆に邪魔だっての。この仕事の為にネイルの端末も増やしたんだから。いざって時はネイに手伝ってもらうから。」

 パーコがネイルの下でいつまでも別れを惜しむアポロと苦笑いのヤマモト社長と、先にお腹の大きくなったリリ副社長の前で振り返ると、パーコの後ろに控えていた女の子の姿をしたアンドロイドが挨拶をした。

『ネイルの端末2号機のネイです。パーコ様の事は私にお任せ下さい。全て予定通り運航すれば、こちらの時間で354日と13時間±42分後には帰還致します。』

「お、おう」

 アポロはたじたじとなって返事をした。

「あ、そうそう」

ヤマモトがネイの自己紹介を聞いて思い出したように声をだす。

「船舶登録書類の船名、訂正届け出したぞ。これからはちゃんと正式名称コスモス・ネイルだ。」

「今かよ! おせーよ!!」


 ネイルの艦橋から伸びたエレベーターに乗ったパーコは、振り返って

「じゃ、ちょっくら行ってくるわ!」

と言って出発した。

「ネイル、亜空ドライブスタート、空間転移後オーバードライブモード、次元跳躍航行に移行!」

『承知しました。亜空ドライブスタート。空間転移まで10秒。安全ベルトを着用下さい。5、4、3、2、1、転移します』


目指すは遥か彼方の銀河系。前人未到の宇宙の果て!



これにて第1章終了です。

次話からは「第2章 フェイト!」を始めます。

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