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第10話 帝国の逆襲

投稿少々遅くなりました。

ネイル『皇室専用回線からパーコ様に通信が入っています。お繋ぎしますか?』

 あれ?いつものアポロならノーザンクロスから直に連絡が来て、ネイルも間に入らないんだがと思いながら返事をする。

「つないで」

「私は皇室近衛隊長のヨークというものだ。大事な話があるので、皇宮に一人で来てほしい。」

 挨拶もなしに喋りだした。画面に映ったのは高級な鎧を纏ったガタイの良い、もみあげのもじゃっとしたタレ目の四角い顔の男。ヤマモトのような可愛げのあるタレ目ではなく、柿の種のような怒ったようなタレ目である。

 直に話したいという事は、通信では話せないほどの事なのかと思ったが、

「アポロが来た時に話せないの?」

と聞くと、ヨークの表情が一瞬イヤそうに見えた気がした。

「アポロ様の事で、皇室としての話だ。ご本人は存じ上げてない。」

 あーこれは例の護衛と一緒で、身分違いのシモジモの者が、皇子に近づくな、って話かなーと思い、こっちとしても迷惑かけてるし会わないようにするって言えば安心するかな、とパーコも思った。

「わかったよ。今から行けばいいのか?」

「かまわん。待っている」ブツン。

 ヤマモトが心配そうにパーコを見る。

「なんかヤな感じだな。一人でだいじょうぶか? 皇宮とはいえ、テッツォみたいなのもいたし。」

「個人用バリヤも貸してもらってるし平気でしょ。まぁ…たぶんアポロと会うなって言われるんだろうけどな。」

「向こうが会いにきてんだけんどなw」

「こっちのスタンスを伝えるだけだ。アポロの行動はむこうにまかせるだけさ」


 皇宮に着くと、発着場所にゼタオンを寝かせて乗せたドロ・シップがあった。まあ、遺跡の産物とはいえ、長く皇室が研究してきたものだから所有権は皇室にあるんだろうな、などと考えながら着陸する。

 ドロ・シップの泥は落ちなかった。何らかの形質変化が起きて剥がれなくなったらしい。名前もそのままドロ・シップになってしまった。

 パーコが皇宮の建物への通路を歩いていると、入口の前にモニターに映っていたヨークという男が、アポロの護衛と同じ宇宙服仕様の鎧を着た数人と共に立っている。

「こっちだ」

 ヨークと皇室の護衛に挟まれて建物に入ったが、前に謝礼をもらった時と違い、エレベーターに乗ると地下へと降りていった。何か嫌な予感がする。

 エレベーターを降りて何もない通路をしばらくあるくと、ヨークが振り返る。

 手には皇室の紋章の入った古代の「スマフォ」と呼ばれたものと同じ位の板があり、個人用バリヤの腕輪にかざされた。するとパチンといって腕輪が勝手にはずれ、そのタイミングで首の後ろを手刀で叩かれ、パーコは意識を失った。


 アポロは全速力でノーザンクロスを飛ばしていた。個人用バリヤに異常があった時に連絡が来るようになっており、加えてノーザンクロスには分かるネイルの場所が皇宮だったので、非常に危機を感じていた。

「おおっぴらに動きだしたって事はなりふり構わなくなったって事か…くそっ」

亜空ドライブアウトをして発着場所が見えると、ノーザンクロスからの専用回線を使ってネイルに命令する。

「ウェイクアップ、ヴィクトリア!」

 しかし、ネイルは反応しない。近くに止っているドロ・シップから、何らかのフィールドがネイルを包んでいるらしい。ノーザンクロスに通信が入る。

「アポロ様。もう目を覚まして下さい。下賎の者に触れすぎてお目が曇ってしまっているんです。」

「ヨーク・オーク・デノリッヒ! 貴様だったのか! パーコはどこだ!!」

「この女があなたを狂わせた元凶です。あなたを拘束した後、排除します」

「ふざけるなああっっ!!」

 その時、アポロの脳裏に、気絶したパーコがアポロの専用シートに固定されて、隣にこちらを見ているヨークの姿が浮かんだ。

「そこか!!」

アポロの視線がズームするように、ドロ・シップの一番上の操縦室の窓の中にその姿を確認した。

「パーコーォォ!!」

 真直ぐ操縦室へ飛ぶノーザンクロスの下から、太い光線が襲う!

ズバアアァァン!!

光線が直撃したノーザンクロスの、展開していた羽根が吹き飛び、落ちてゆく。

直撃した光線は、ゼタオンの手首から発射されたものだった。稼動しないはずの光線を放ったゼタオンは寝たままで、ドロ・シップから伸びた幾筋ものパイプが繋がっている。腕以外は動いていない。が、ネイルも包んでいるフィールドを形成しているドロ・シップは稼動していて、ゼタオンのエネルギーはそこから流入しているようだ。

 落ちてゆくアポロの視界に、ドロ・シップの操縦席に坐るフォッターの姿も見えた。

「おまえ…まで…」

フォッターは皇室の護衛の一人であり、皇室専用船の専属船長でもある。どこへ行くのにも彼が操縦する船に乗ってきたのだ。

「くっ……そおおおぉぉ!!」

ノーザンクロスのコックピットを開いて、アポロは飛んだ。

 ゼタオンの光線で火がついたのか、炎にまかれている。いや、アポロの体から炎が吹き出ている!

「うおおおぉぉぉ!!」

しかし、空を飛行する事はなく、ゼタオンの胸の、付け直した丸い操縦装置の上に落ちて、爆発を起こした!

がしゃああんん!

 操縦装置が吹き飛ぶと、アポロの姿がない。

 ゼタオンの胸に付けられた装置の後ろに元々あった表示窓状の部分に、日輪のようなマークが浮かび上がっている。中央の円が輝き、その周りの太陽フレア模様が燃えるように動くと、アポロの髪型みたいたギザギザの渦巻きのような形に変化する。

 腕一本しか動いていなかったゼタオンが、のけぞるように身じろぎをすると、顔の上部を覆っていたディスプレイ状の板がバリィン!とはじけ飛び、巨大ロボットらしい光る目が中に見える。ディスプレイ状の板を固定していた枠はまるでアメフトのフェイスガードのように顔の前に残ったままだ。額と腰の操縦装置も同じく弾けとんだ。そしてグオオオーンという音とともに胸の装甲が左右に割れて広くなり、上に向かって伸びていた肩部分は90度回転して斜めに突き立ち、上腕部、足の脛部分が胸の装甲同様変形して太くなり、

ガッシイィィーン!!

という音とともに変形が完了した。

 どうやらゼタオンはアポロを取り込み、別の存在になってしまったようだ。

ゼタアポロンとでも呼称しよう。

「あ…あ…アポロ様は、さすがヨナ様の直系……」

 目を見開いたヨークは、起き上がって繋がったパイプを千切りながら操縦室を振り向くゼタアポロンを呆けたように見つめていた。すると、ゼタアポロンの胸のマークから、燃えさかるシャボン玉のようなものが発射された。操縦室の窓に触れると、ジュワアアアと溶かしてパーコの坐ったシートを無傷で中に取り込むと、ゼタアポロンへと返ってゆく。パーコを取り込んだ後の操縦室は燃え上がり、阿鼻叫喚の体になっている。胸の中にパーコが入るとゼタアポロンは腕を振りかぶり、操縦室を殴りつけて吹き飛ばしてしまった。ドロシップは断末魔のように、大量の光る弾を吐き出し、それは四方八方へと散りながら空へと消えてゆき、ネイルを包んでいたフィールドも消失して沈黙した。


 「ん……うーん」

 パーコが意識を取り戻し、首の後ろに若干痛みを感じ手を当てると、シップのようなものが貼られていた。

「気がついたか。他に痛い所はあるか? ジュース飲め」

 寝かされていたベッドの横に、心配そうにこっちを見る毛布をひっかけたアポロがいた。

「なんだその頭……てかオマエなんかコゲ臭いぞ」

あちこち若干コゲて縮れた頭は、宇宙刑事を思い出す。

「あーすまん。オマエが目を覚ますまで心配でシャワーも浴びてなかった。

……今回の事は本当にすまなかった。」

「そこまでこじれてたんなら早く言ってくれればいいのに。近づかないようにするって言いに行ったんだぜ?」

「ちがう! ちがうんだ。……何があったか一から説明する。」

「?」

「まず…暗黒大帝ヨナだが、あれは実は、100年君臨した最後の銀河帝国皇帝だ。」

「はあ!? 銀河帝国が銀河連邦になったのって、100年も前だろ? 合わせて200年以上生きてるって随分長生きだな?」

「単に皇帝の名を騙っているのか、何らかの方法で生きながらえたのかわからんが、皇室内部にもそれを信じ、暗黒帝国に通じていたものがいた。だからよく情報が漏れたんだ。」

「あっ! じゃあ銀河帝国暗殺部隊って、元からヨナの手下だったってことか!」

「そうだ。連邦になって消滅したと思ったが、暗黒帝国で続いていたということだ。

「顔の四角い隊長も暗殺部隊だったのか?」

「いや、彼は純然たる皇室付きの軍人だったが、どうも銀河連邦になったのに元々不満を持っていて、帝国復活を望んでいたようだ。そこにつけこまれて暗黒帝国に洗脳されたらしい。」

「シモジモと馴れ合うアポロの態度も、気に喰わなかったんだな。」

「仲の良かった護衛のフォッターまで洗脳されてしまっていたのはショックだったよ…」

「…あたしが関わらなければ、そんな思いもしなかったかもな。」

「そうしたらオレも皇室も、ヨナの手先になって銀河連邦が暗黒帝国に乗っ取られてたかもしれないぞ。パーコがそれを止めてくれたんだ。感謝しているよ。」

 アポロの煤のついた顔だが輝くような柔らかい笑顔に、パーコは思わず見とれた自分に気がついて赤くなった。珍しい可愛らしい反応に、アポロも愛しさを感じて顔を近づける。

「パーコ…」

いつもなら茶化して拒絶するパーコだが、アポロの真直ぐな視線に縫いとめられたようにアポロの顔を見ている。二人の距離が縮まってゆく…

バァン!!

「パーコ!! 無事か!! あっ!」

ノックもせずにドアを勢いよく開けて飛び込んで来たヤマモトだったが、二人の様子を見て固まる。

「ヤマモトォ…」

ぐるーっと首を廻してアポロが睨むと、ヤマモトの頭の上にポッと小さく火がつく。

「へ? あちちっ!」

燃えてるのに気がついたヤマモトはあわてて頭を手で叩いて火を消す。

目をまるくしてアポロを見ているパーコ。

「え…何をしたの?」

振り返ったアポロは、頭をコリコリとかきながら、

「んーとな。皇室の人間は代々人にない力を持っているんだ。一般人にも念動力やテレパシーが使えるのがいるが、ほら、ミューズのサイボーグ教師なんかそれを集めて悪用してただろ。」

「ああ、そういえば」

「皇室の人間の場合、五大元素に基づく能力が強く発現する。その力が皇族の証明と思っている皇室関係者も多い。」

「五大元素?」

「地の力、水の力、火の力、風の力、空の力の五つで、オレは火の力を持つ。」

「あっ、あんたの異常な体温もそのせいなのか」

「ああ、感情で暴走したりするから気をつけているんだがな。まあ今回はそのお陰でパーコを救い出す事ができたが…しかし…」

 何か考え込みそうになったアポロだったが、意識を切替えたらしく立ち上がって

「あー病室に汚れたまま入ったのはまずったな。ちとシャワー浴びてくるわ。ヤマモト、あと頼む」

といって入口に歩き出す。が、ヤマモトとすれちがいざま小さな声で

「次からはノックしろよな」

と横目で睨みながら廊下にでた。ヤマモトは

「ゴメンナサイッ!!」

と閉まったドアに向かって頭を下げた。


 シャワー室に向かって歩きながらアポロは考えていた。

(能力を発現した状態でゼタオンに激突したのに壊れずに逆に合体? してしまった。銀河帝国以前の遺跡のはずだが、何か皇族…いや、帝国の成り立ちに関係があるのだろうか…)


 その後、銀河連邦宇宙軍も皇宮に駆けつけ、施設内全てくまなく調査された。

天皇皇后、皇女をはじめ皇室関係者は建物内に催眠ガスを撒かれ眠らされていた。

大破したドロ・シップの操縦室には、ヨークと共にいた近衛兵の遺体はあったがヨークとフォッターの遺体はなかった。

 ドロシップと元に戻ったゼタオンは、アポロ監修のもと皇室によってどこかの奥深くに封印された。


 皇宮内の病院施設で検査を受けていたパーコは、問題ないと診断を受けると仕事に戻るといって帰り支度をして、ネイルに向かって移動した。

ネイルの前で見送るアポロ。

「じゃ、またな。」

「ああ。何かある時ゃ必ず連絡しろよ。ウチの連中からの呼び出しがあったらまずオレに確認しろ」

「もう皇室にはあやしいヤツはいないんだろ?」

「いや…断言はできない。注意するにこした事はない。」

「わかったよ。まあ個人用バリヤもちょっとイジらしてもらったからそうヘマはしないよ。アタシとあ…アンタしかはずせないようにしたから」

「じゃあオレにも作ってくれよ。そしたらエンゲージリングってことで。」

「オマエバリヤなんかいらねーだろが!」

……

ヤマモトがまた半目でみながら

「あのー。早く出発したいんですがー。遅くなるとリリにしばかれますんでー。」

というと、

「お? もう尻に敷かれてんの?」

と、二人が振り返ってニヤニヤしてきた。

「そ、そーいうんじゃねーよ!」

「わーったわーった。続きはネイルで聞くわ。じゃな! また」

「おう」

いつものような軽い挨拶の後、ネイルは空高く飛んでいった。

次回、第1章最終回になります。

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