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第1話 しみったれた仕事

楽屋落ちパロディSF小説です。

某テレビ番組のように、ご先祖さんから子孫にわたる物語。

知ってる人しか知らないあの話の裏設定と、シニアニヤニヤネタ満載。

 無限に広がる大宇宙。

 今日も今日とて宇宙の亜空間を、凸凹コンビがにぎやかに、宇宙(そら)の彼方までぶっとび中。


 外観は蝸牛(カタツムリ)の殻からまっすぐ前に細い首を伸ばしたような外観の宇宙船、その首の先端にある第一艦橋。

 その操縦席後ろの一段高い所にある椅子に、地球人から見ればネコにしか見えない小学生位の背丈のベストを来た生物が坐っていて、ヘッドセットのマイクに話しかける。

「毎度トラネコヤマモト卓急便をご利用下さいまして誠にありがとうございまぁす。只今現地到着まで3パーセクとなりましたぁ。亜空ドライブ解除からそちらに到着するまで、10分程で到着予定でぇす。ステーションV2にてお受け取りの準備をよろしくお願いいたしまーあっす♪」

 すると下の操縦席に座っていた、ゴーグルを前頭葉の上に着けた頭の後ろで指を組んで、黒のTシャツに裏地にボアがついた同じ意匠のベストを引っ掛け、革の短パンにガンベルトを巻いたガラの悪そうな若い女が、横を向きながら独り言のように悪態をつく。

「ケッ しみったれた荷物1コじゃ後が続かないじゃん。もっと大口の依頼を取れないんかい…」

 ベストを着たネコ…ヤマモトが、ため息まじりに返す。

「そんな依頼がホイホイ取れたら苦労しないっての。第一今回は小さな荷物なのに割がいいじゃねえか。ていうかこの仕事が決まったの、ある意味パーコが原因だろうが。

 まあなんにしろ、小さな事からコツコツと、ってね。じいちゃんの教えにまちがいはないんだから」

 ガラの悪い女…パーコが艦橋の後ろの壁の、ヤマモトの星の正装らしい青い制服に黄色いタスキと青い船形帽、七三分けみたいな額の模様の目玉の大きなネコの肖像画をそっくり返って見ながらヤマモトにまた噛み付く。

「おまいのじいちゃんて宇宙ドラッグステーション『ヤマモトキヨシ』を創立した偉い人だろ? なんでその孫が追出されてこんな所で『宇宙卓越急速配達便』なんて仕事やってんだか」

「追出されたんじゃない! 専用流通部署の責任者しながら跡継ぎ修行なんてチマチマやってられるか! じいちゃんみたく宇宙を駆け回って、宇宙流通業の王様にオレはなる!」

パーコ「わーったわーった。まぁたはじまった大風呂敷が。

 でもまあ、あたしのネイルに出会っちゃったからなあ。会社の船なんて遅くてやってらんないわな…

って、あーーー!!! オマエ、船舶登録書類の船名、早く訂正届け出せよ!!

 この船はなあ、宇宙の爪号(コスモス・ネイル)であって、宇宙の蝸牛号(コスモ・スネイル)じゃねーんだよ! 書き間違いやがって、急げよな!」

「見た目カタツムリみたいな船じゃねーか。お客様も覚えやすいし」

「ばかたれ! カタツムリなんて名前じゃ、遅いイメージにしかなんねえだろうがタレ目ネコ!」

「オレはタレー(もく)ネコ科トラネコ族の由緒正しいヤマモト家の末裔だっつの! オマエなんかと一緒にすんなメカヲタク性悪つり目女!」

「なんだとクソネコ! ヒゲむしるぞこの野郎!」

「バカやめろ平衡感覚がおかしくなる! ぐわーっ」

ネイル『亜空ドライブ終了。通常空間に出ます。安全ベルトを装着して下さい。』


 かくしてベルトをつけずに出た為に、二人はコックピットで目を廻して、宇宙ステーションV2に到着。

現在ターミナルの中を、自走コンテナを引き連れて荷物受け渡し場所へ徒歩で移動中。

 ひげが縮れたヤマモトが若干よろけながら前足、失礼腕にツバをつけて猫手でひげをしごきながらぼやきつつ、もう一方の手に持った用箋バサミの伝票を見ながら通路を進む。

「ああひでえ目にあった。ったくヒゲがこんなんなったらまっすぐ歩きにくいんだぞもう」

 後ろをついて歩くパーコも後頭部をさすりながら、そのまた後ろをついてくる自走コンテナをみながらぼやく。

「イツツ… しかしコイツ、入札の時から勝手に動きやがって…あれがなきゃこんな仕事受けなかったのに…」


 荷物の入札は請負場所に複数の運送業者が荷物の前でセリのようにして仕事を請け負う。運送会社は自社が最も早く安く安全に運べる事をアピールし、オーナーがそれぞれと交渉し、一番良いと思う会社を選んで締結となる。


 ところが今回、いつもよりも小さな、地球のファミリーコンパクトカー位のコンテナの前に全員そろった所で突然、パーコの左腕に装着されたネイル端末ブレスレットの3Dディスプレイに十文字のマークが浮かび上がり、自走コンテナが勝手にパーコの前に移動してしまった。それを見たギャルソンコバヤシと名乗るオーナーは一瞬驚いた顔をしたが、にっこりと笑い、サイズより高めの料金支払いを約束し、残りの業者にも足代と言って満足して帰れそうな金額を配って仕事受諾となったのである。

 ネイルに荷物を積み込んだ時もなんとなく、ネイルが「♪」って感じでいるような気配や、コンテナとネイルの荷物データのやり取りもいつもより多いような、話し込んでいるような… いや機械だしコンテナに人格付与AIは組み込まれてないし…あれ? ひょっとして荷物ってそおいう?


 などと考え事をしながら歩いてると、突然通路の十字にさしかかった所で横道の向こうから警告音を発しながら結構なスピードでフォークリフトがつっこんで来た!


 パーコの後ろの自走コンテナに無理やりフォークを差込み持ち上げると、そのまま来たのと反対の通路を走り出す!

「こ の や ろ おおおおお!」

ぶち切れてパーコが後を追う!


「まてえぃ!!」キキキキキィィィッ!!

 3本目の十字路をつっきろうとした時、フォークリフトの前にトラックが止り、フォークリフトも急ブレーキをかける。

「とうっ!」と言って、キャリーバッグをさげた男が一人、トラックのコンテナの上に飛び乗った。


サングラスを掛けて、往年のヒーローを意識したような長髪にしたかったが若干縮れ毛の為アフロっぽくなってしまったヘアスタイルの若い男は、『装着!』の掛け声とともにパンツ一丁になり、キャリーバッグを開けると一番上にあった何かの装置を後方にセット、次に筒状のカーテンを下げた3台のドローンがフィーンンとバッグから浮かびあがる。

(前の前の時にパンツ一丁になった段階で回りにいた人に取り押さえられた事があるからだ。)

(ていうかだったらドローン出してカーテンに入ってから着替えろよ!)

カーテンの中で宇宙刑事スーツに着替え始め、終わると自分でナレーションする。

「宇宙刑事シャイバンは、装着! の掛け声とともに1ミリアワー(36秒)で素早く着替える事ができるのだ!」

ドローンからカーテンが落ち、キャリーバッグから空中に投射されたシャイバンの映像が、カーッ! カーッ! カーッ!の効果音とともに、3台のドローンカメラの映像を左から、右から、正面からと切り替えながら写し、「宇宙刑事、シャイバン!」と名乗ってポーズを決めると、正面カメラ映像がスッと引いて着替え中に後ろにセットした装置から火柱がズドーン! (前はこの時点でテロと間違われて拘束された。)

今回は今の火柱で気がついたV2の警備員がこちらに向かって駆けつけてくる。

「あれ?」

しかし前にいたはずのフォークリフトもコンテナもコンテナ強奪犯もパーコたちもいない。(36秒も過ぎれば当然なんだが)するとシャイバンマスクの通信装置に相棒宇宙婦警アミーの声が響く。

「マッキー着替え終わった? もう荷物取られたお客さんと一緒に、どろぼうさんたちを追いかけているから、案内で確認してかけつけてちょうだい!」

「アミー! 装着したらシャイバンと呼べ! ってやばい!」

目の前には警備員が迫っている、あわててスーツの入っていたキャリーバッグに爆発効果演出装置とドローンとカーテンを仕舞ってまたがると、「シャイバンカー! チェンジ!」とポーズとともに叫ぶ。すると持ち手はハンドルに、タイヤは本体から伸びて地面に向かって側面が90度下を向くと、ホイール部分が輝き出しミニミニ推進機に変化、ちんまりと本体に腰掛けたシャイバンはシャイバンゴーグルに浮き上がったARの矢印方向にフィーンとすべり出した。


アミーとパーコと、二本足では間に合わないので用箋バサミを首から下げ、四足で追いかけるヤマモトが、もうすぐ壁際にフォークリフトを追い詰めようとしたその時、

ドカーン!

という轟音とともに壁からドリルが突き出した。ドリルはガボラッと4つに裂け、フォークリフトはコンテナを載せたままその中へ走りこむと、中から人が出てくる。白い硬質の防護服を纏った銃をかまえた兵士っぽい3人と、マントをつけた黒い武士の甲冑のようなアーマーをまとったでかい笑い顔の男が告げる。

「これ以上追ってくるなら容赦しない。コンテナの事はあきらめるんだな。」

額に青筋を立ててパーコが返す。

「あ? ダレだてめえら、人の商売の邪魔しやがってただじゃおかねえぞ?」

「名乗るわけがないだろう。生意気言ってると撃ちますよ?」

と、黒鎧は後じさりながらドリルの中に入り、銃口をこちらに向けたまま兵士も入ると、またガボラッと閉じてグイイインと回転を始める。

「うわっっ!」

抜けた穴から空気が漏れ、穴の周りのものを宇宙空間に吸い出そうとする。

が、穴の開いた壁の隙間からバシバシと線が伸び、ドロリとした補填材が覆うとたちまち硬化する。まるで血管の血小板のようだ。


空気の流れが治まった所でヤマモトがホッと息をつくと、後ろから若干気の抜けた声がした。

「あー。とられちゃったねえ。」

振り向くと、スーツを着た3人の目つきの鋭い男が左右後ろを囲む、山○製パンのロゴマークみたいなヘアスタイルの、金の縁取りのTシャツの若い男がちょっと困ったみたいな表情で立っていた。

「ああすまない。オレが受取人のアポロだ。搬送中に襲撃てのがパターンだが、船が早すぎたみたいだね。はははっ。まさか受渡し直前に横取りしてくるとは。」

パーコがギロリとにらみながら話しかける。

「へえ。襲われる危険性がある荷物だったんだ。危険物割増料金もらってないんだが?」

横の護衛っぽい人がパーコを睨むが、アポロは苦笑いしながら答える。

「いやあ、相手をあざむく為に普通の荷物の体で卓急便さんに頼んだんだが、どうやら身内に情報を漏らしたヤツがいたっぽい。すまん。追加で料金は払うよ。」

ヤマモトがアポロに問いかける。

「お荷物をお渡しできなかったのですが、よろしいのですか?」

するとパーコの横にいたアミーが1歩前に出て頭をさげながら言う。

「ここからは警察の仕事になります。配送の方々はご苦労さまでした。」

「なあ。あのコンテナの積荷はなんだったんだい?」

とパーコがアポロに聞くと、

「すまないがそれは答えられない。」

「まあいい。じゃあ、どこに持ってかれたか手掛かりはあるのかい?」

「とったヤツに心当たりはあるが…」

「あの荷物、なんでだかアタシの船と仲が良いみたいなんだ。

場所もわかるかもしれないぜ?」

そういってパーコが顔の前に持ってきたネイル端末3Dディスプレイに浮かぶ、方位磁石のように動く十字の輝きをアポロに見せると、依頼人と似たような笑顔になり、

「ふむ。では追加料金は配送料の倍、危険手当も最大の倍額で案内をお願いできるかな?」

「合点承知! まいどありっ!!」

「ちょちょちょまてっっ!」

勝手に承諾するパーコの手を引張って壁際に移動したヤマモトがヒソヒソ声で話し出す。

「あの人ってたぶん、皇太子のアポロ様だぞ? ガキの頃皇室も参加された財界の集まりにじいちゃんに連れてってもらった時に、オレと同じ位の年だったアポロ様を見た事がある」

「へー そうなんだ。」

「へーじゃねえよ! という事は今回の件は連邦がかかわるような面倒事じゃねえか! 最大級に危険があぶないぞ!!」

「だからこそ稼げんじゃねーか。今までだって仕事で宙賊けちらしてやって来たし、お前流通王になるんだろうが。ビビんじゃねえよ」

「宙賊相手と規模がちがう! 持ってったあいつら見ただろ? あいつら宇宙規模の軍隊だぞたぶん」

「ばーっか。アタシのネイルは宇宙最速最強だっての。それに……」

「?」

「コレが気になるのよ。」

そう言ってパーコは、ネイル端末ブレスレットのディスプレイに浮かぶ、どこかを指し示す輝く十字を見つめた。

さわがしい声に振り返ると、やっと追いついた宇宙刑事と、それを追いかけて来たV2の警備員でにぎやかな状態になっていた。


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