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第76話

 カランの連れて来た兵士たちが、盾を構えて槍を構えている。だが、兵士たちは20名。それに対し、エルフたちはぱっと見で1000人はいるだろう。攻めてこられたら、一瞬で吹き飛ばされるな、これ。

 

「村の者達は下がって、家に入っておれ! 指示があるまで、外に出るな!」

 カランの指示を受けて、村人たちが慌ただしく去っている。

「カラン様……」

「村長、お前も下がっていろ。何かあれば、村人をまとめて西へ逃げろ」

「はっ……」

 グエル村長が、エレナとジルの手を引いて家へ戻っていく。すれ違い際、エレナが俺の方をちらりと見た。


 不安げな顔のエレナを安心させようと、俺は精一杯のカラ元気を出して、にやりと笑う。うまくいったどうか、分からないが。


(……クロマル、どうだ?)

『んー、今すぐ危険な感じは無い……かな……?』

 この反応なら、いきなり問答無用で襲われることは無いだろうが……さてどうしよう。


 迷う俺をよそに、カランが兵士たちの前に歩み出ると、大音声で呼びかけた。

「私は、領主グラフ=メトラル様より、この地の治安と税を預かる者、従士のカラン=アドラブール! エルフの方々よ、如何なる仕儀があって、干戈を手にしてこの地を犯すのか!」

 その声に応じるように、軍勢の奥で何者かの号令が響くと同時に、目の前の隊列が一斉に割れた。そして、出来上がった空間を道として、一人が前へと歩み出る。

 出てきたのは、武具ではなく、まるで宮中にいるかのような華麗な装いをした、男性のエルフだった。申し訳程度に胸当てを身に着けているが、帯剣もしておらず、明らかに戦う装いではない。

「ご丁寧な挨拶痛み入ります、カラン=アドラブール殿。私は、此度の大巡礼団の統括役を仰せつかった、ハジマ=ガダダと申します。まずはこのような大勢で押しかけ、お騒がせしていることを、謝罪いたします」

 謝罪する、などと言いつつ、ハジマは頭を下げる仕草すらない。その慇懃無礼っぷりに、後ろ姿しか見えないが、カランの中で何かが一段階上がった気がした。


「まだ答えを聞かせてもらっていないぞ、ハジマ=ガダダ殿。如何なる仕儀があって、この地に参られたか!」

 ハジマは、額に指を当てながら、やれやれ、といったふうに頭を振る。うわ、大げさすぎてむかつくな、アレ。

「お互い、理性的に話し合いをいたしましょう、カラン殿。そのように猛々しい振る舞い、外交とは呼べませぬ」

 嘲りを含んだその言葉に、カランの何かが更に一段階上がった気がする。


「……やばいな、相当怒ってるぞカラン」

 ルイがぼそりとつぶやいた。

 うん、俺もそう思うわ。

 その時、テトが俺の耳元に口を寄せて、ぼそりとつぶやいた。

「……拙僧、保険を掛ける必要があると見た。そこで、一つ提案があるのだがな」

「はい?」


 そんな俺達をよそに、ハジマの言うところの『外交』が続く。

「御存知のように、我々巡礼団は、創造神に仕え、精霊が招く災禍と不和を解消するために働いております。決して、グラフ=メトラル様や、メンデル王室の御統治を脅かすものではございません。その旨、既に書状にて、王家の方々にはお伝えしております」

「当家には、そのような知らせは届いておらぬ」

「おそらくは、王室からメトラル家への知らせが、いまだ届いておらぬだけ、かと。火急の事態でしたので、何かと物事が滞っているのやも、知れません。いやはや、ご容赦願いたい」

「書状が届くよりも早く、軍勢を動員させておきながら、よく言う!」

 カランの怒気の籠った言葉に、ハジマは嘲りの混じった微笑で応じるのみ。

「……やれやれ、カラン殿の短気が暴発する前に、本題に入るといたしましょう。我ら巡礼団は、この村に居られる2名の方々を、我らの国に客人としてご招待したく、参上しました」

「招待だと?」

「はい。バフロス討伐に功のあった精霊使いのヨーヘイ様、そしてバフロスの贄とされかけた、精霊の申し子のジル様、その御両名を」


 ……俺と、ジル!?


 突然のことで面食らう。

 いや、なんとなく俺が狙われてる気はしてたが、ジルも!?


「招待などと、片腹痛い! 誠に言葉通りというならば、何故に兵を率いて威を示す! それとも、剣を持って脅して拐かすことを、貴様らの国では礼儀と言うのか!」

 カランの言葉に侮辱を感じのか、ハジマが一瞬苛立つが、すぐにまた顔に微笑みを取り戻す。

「これは、ただの備えです。我が女王が申しますことには、『彼の方々は、災禍を招く兆しあり』とのこと。そのような災禍から、お二人を、ひいては皆さまを守るための備えです」

「災禍だと?」

「然様。先のバフロスの一件同様、お二方の周辺には、災禍が頻発しているご様子。そうした事例が、今後も続くと、我が女王はお考えです」


 気が付いたら、ルイが思いっきりこっちを見ていた。

「……な、何?」

「……奴らの言い分にも一理あるな、と」

 その視線に耐えきれず、俺は目をそらす。



「そうした災禍をそちらの御領内からうち祓い、かつ、お二方を安全に本国にお連れするため、必要な措置であること、御考慮頂きたい」

 言葉を終えて、慇懃に一礼するハジマ。カランは一度の沈黙の後、怒号と共に言い放った。

「笑止千万!」

 その声は、後ろで聞いていた俺達をもびくりと震わす程の怒気と圧力にあふれていた。

「貴様らの言い訳など、人買い共の甘言とさして変わらぬ稚拙で愚劣な代物だ! 如何なる理由があろうと、グラフ様の許しを得ずに、我が領の民を連れ去ろうとする者は、これを略奪者とみなす!」

 カランは、するりと剣を抜いて、切っ先をハジマ達エルフの軍勢へと向けると、号令した。

「総員、戦闘準備!」

 呆然と眺めていた兵士たちが、慌てて剣と盾を構える。

 その様子を見て、ハジマは再び嘲りの含んだ表情でカランを見る。

「……こちらは女王より、多少の無茶をしてでも連れてくるよう申しつけられております。そのために、大巡礼団の力を行使することは厭いませんが? よろしいので?」

 エルフの兵士たちが、一斉に手にした武具を構え、威圧してきた。

どう見ても、カランの連れて来た兵士の百倍以上の人数がいる。だが、それでも、カランは不敵に告げる。


「それが、どうした?」

 あたりの空気が張り詰める。一触即発ってやつだ。いつ戦闘が始まってもおかしくない。

 恐ろしいが、流石に当事者として、見てるだけってわけにはいかない。

 俺は、腹筋に力を籠めて気合を入れつつ、歩み出た。

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