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第67話

 ……あれ、そういえば、何の話をしてたんだっけ?


「……そうそう、“精霊喰い”対策! テトの話からすると、当初の計画は、難しくない?」

「凍らせて、動きを止めるのは、あの大きさ相手では難しそうだな……テト、ヤツの動きは素早いのか?」

「水中を泳ぐのは素早いようだが、陸に上がれば鈍重だな。子供でも、本気で走れば逃げ切れる程度の速度よ」

 テトの返答を受けて、ルイはしばらく考えこんだ後、口を開いた。

「……なら、当初の計画から、一部変更だ。俺とテトたち、それからレプティルたちで、陸に上がった“精霊喰い”を、足止め。お前は、高台で待機していて、奴を狙い撃つ。どうだ?」

「ほう。拙僧らも、戦力に数えてくれるのか?」

「……なんだ、不服か? 助太刀してくれるんじゃなかったのか」

「滅相もない。有難いことだと申しておるのよ」

「なら、決まりだ」

 テトとルイはにやりと笑いあう。うーん、この二人、やっぱり似た者同士かもしれない。


 事態が動いたのは、村について二日後のことだった。

 明け方、“白い鼻”が俺達の下にやってきた。

「物見から報告がありました。湖に白波が立っています。奴が来る兆しです」

 俺たちは、頷きあうと、事前の打ち合わせ通りに動きだす。

 まず、ルイとテト、それとアフラは、レプティルの戦士数名を引き連れて湖岸に下りていく。“精霊喰い”が上陸したら、挑発を繰り返して、キルポイントの空き地へ誘導する役目だ。

 そして俺は、単独で高台へ向かう。事前に確認した狙撃地点で待機して、ルイたちがおびき寄せるのを待つのだ。


 とはいえ、高台のまでの道のりがきつい……出来るだけ平坦な道を選んでいるとはいえ、岩場をよじ登るようなものだし、高所なせいか、息も切れる。

『ヨウヘイ様、おつかまり下さい』

 ムギの石人形の助けを借りながら、ようやく狙撃地点に辿りついた時には、眼下では“精霊喰い”が上陸していた。

 

 それは、竜とは似ても似つかない醜悪な姿をしていた。強いて言えばオオサンショウウオに似ている。黒い塊のような巨体に比べて、手足は小さく、陸上では、腹をすりながら這うように進んでいく。

 目を凝らすと、テトとアフラが先陣を切って立ち向かっているのが見えた。鉄杖を振るい攻撃し、時折炎の精霊の火炎で焼いているようだが、殆ど効いている様子がない。

「ん? なんだ、あれ……?」

 攻撃されるたび、“精霊喰い”の体からぼたぼたと何かが落ちている。表皮、だろうか?

『はん! ぬるい炎だぜ! 俺に任せてもらえりゃ、丸焦げにしてやんのによ!』

 ホノーがしゅっしゅとパンチを繰り出しながら自身満々で嘯くが、横ではミーズが冷静につぶやく。

『そんなわけなかろうに……しかし、あの“精霊喰い”、何やら様子がおかしいな』

「何やらって、何?」

『ううむ……なんというか、よく“見えない”のだ。薄皮一枚、覆われているというか……』

「?」

 要領を得ないミーズの答えに、俺が首をかしげると、横合いからムギとクロが口を出す。

『ヨウヘイ様、あの“精霊喰い”は、我々の知覚では、認識し辛いのです』

『そうそう、すっごく、わかりにくいの。おかげで、不幸の気配も、伝わってこないもん』

 なるほど、珍しくクロが気配を察知してくれなかったのは、そういうことか。

 なんだろう、精霊に対するステルス機能でもあるのか……?


 そんなことを考えている間に、サンショウウオもどきは、キルポイントに向かって近づいていく。

 俺は、用意していた弾丸代わりの鏃を取り出し、構えた。

「ライ……頼む!」

『……うん』

 周囲の大気に、ライの力が溢れて、全身の毛が逆立った。見えないけれど、鏃を握った腕の先に、ライの作った多重電磁加速場の存在を感じる。

「ムギ! フー!」

『はい!』

『まかせてー!』

 ムギの作った石人形が、俺を守るように支え、フーが、俺の周囲に衝撃波から守る空気の防壁を編み上げる。


 射撃準備は、完了だ。俺は、ホノーに指示を出す。

「打ち上げろ、ホノー!」

『応よ!』

 ホノーが喜々として、火球を空に打ち上げる。

その光は、朝の光の下でも、赤々と輝いた。


 打ち合わせ通りの合図に、眼下の皆が気づき、全員が逃げだす。

 敵が突然四方に散ったせいか、オオサンショウウオもどきは、しばらくその場で立ち尽くす。

 その隙を逃すわけにはいかない。


「いけぇっ!」

 放たれた鏃が、音速を超えた速度で飛翔する。

 ムギとフーの力のおかげで、衝撃波にも吹き飛ばされることなく、なんとか耐えた。

 ようやく目を開いて、眼下の様子を見て、愕然とする。


 オオサンショウウオもどきは、まだそこにいた。

 弾が着弾したのか、胴体部分が深く抉れて、その下から赤黒い何かが覗いている。周囲には、表皮らしき黒々とした破片が飛び散っている。

だが、それだけだ。

 痛みか、怒りか、あるいはその両方か。身を震わせて、甲高く奇怪な叫びを上げてのたうつ。


 あれでも、効かないのかよ!?

「なら、もう一発……!」

 もう一撃を放つため、意識を集中する。


 その時、奴の目がこちらを見ていることに気付いた。

 偶然じゃない。赤黒い眼の、縦に割けた瞳孔が、確実に俺を見ている。そこに知性は感じられなくても、あふれるような憎悪だけは、はっきり感じられた。

 ぞっと肌が粟立ち、次弾を取り出す手が、止まる。


『ヤバいよ! ヨーヘイ! 早く逃げて!』

 クロマルの叫びで、はっと意識が立ち戻る。

 見ると、オオサンショウウオもどきの口が四つに裂けて大きく開いて、こちらを狙っていた。黒々とした口の奥が、なぜか燐光を放っている。

 ……怪獣が、口を開いてやることなんて、大抵決まってるよな。


「ライ! 憑依!」

『分かった!』

 憑依が完全になる前に、俺は駆け出す。転びそうな岩場であっても、手をつきながら転がるようにして、全速力で走った。

 どれだけ余裕があるのか、分からないのが、怖い。

奴に背を向けて、目の前の崖へ向かう。崖の先を思って、わずかに躊躇するが、背中から感じる圧力に押されて、そのまま大地を蹴って、宙に飛び出した。当然、体は落下する。だが、落下の恐怖よりも、なお恐ろしいものが迫っている。

 次の瞬間、先程まで俺がいた崖の上を熱波と衝撃が溢れ、山が崩れ落ちる。

 その熱と衝撃にもみくちゃにされながら、崩落する岩と共に、俺は落ちていった。


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