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第48話

 夕刻、宿営の準備が整って、焚いた火の回りに村の皆が集う。

「鹿の毛皮を売った金で、買ってきたぜ」

 一人が、酒を出すと、なんとなく宴会が始まった。俺も、帰り道で適当に買ってきた腸詰やら、焼き菓子やらを出して、みんなと分けあう。

 見れば、シュナ村以外の村々も、それぞれで集まって同じように夕餉を楽しんでいる。


 大分気温が下がってきたが、それでも炎と人の熱気で、十分温かく、良い雰囲気だ。


 俺の隣では、エレナが甲斐甲斐しくジルの世話をして、ミシズがその様子を微笑みながら見守っている。


 ああ、こんな楽しくて、穏やかで日々が、ずっと続けばいいのに。素直に、そう思った。


 やがて宴は終わり、片づけが終わると、みんな就寝の態勢に入る。といっても、簡易的なテントの下で、毛布に包まり横になるだけだが。

 俺も、グエル村長の隣で横になる。若干アルコールも入ったので、このまま目を閉じたら、秒で眠れそうだ。

 おやすみなさーい。


 だが、眠ろうとした途端、クロマルの声でたたき起こされた。

『……ねえ、ヨーヘイ。少し……ううん、すごく、嫌な感じがする』

 このタイミングでかっ!


 勢いつけてがばりと起き上がると、ほろ酔いで眠ろうとしているグエル村長をたたき起こす。

「村長! 精霊が危険を感じてる! 念のため、みんなを起こして!」

「な、なんじゃあ? ヨーヘイ、一体何事じゃ?」

「いいから、頼んだ!」

 外に出て、あたりを見回す。幾人かが、火の回りで酒を飲んだり、語らったりしているが、不審な様子や気配はない。

 こんな町中で、危険生物が出るとは思えないし……危険の素は、一体なんだ?

 寝込みを狙って、泥棒でもやってくるのか?

(クロマル、嫌な感じはどっちから来る?)

『方向? うー、それがよく分かんないの……どっち~、っていうより、あっちこっちのいたるところ~っていうか』

 クロマルも不安な様子で、周囲をきょろきょろと見回している。他の精霊たちも、周囲を警戒する。

 俺は、地面に転がっていた石を、いくつか手にとる。

「ヨーヘイ、何事?」

 弓を手にしたミシズが、俺の隣に立つ。

「不幸の精霊が、何かを感じてるんだ。きっと、何かが来る」

「……分かったわ」

 ミシズは矢筒から矢を引き抜きながら、周囲を油断なく伺う。と、不意に鋭く声を上げた。

「上!」

 俺が上を向くのとほぼ同時に、矢の放たれる音が響いた。

 夜の暗い空の向こうに、舞う影に、矢が吸い込まれる。奇妙な叫びを上げて、影が落ちてくる。そして、思いのほかに大きな音を立て、地面にたたきつけられた。

「うぇ……!?」

 地面に叩きつけられて、血反吐をまき散らしているのは、人の大きさ程もある巨大な蝙蝠だ。ミシズの矢が頭部を貫通している。

「な、なんだぁ!?」

 いきなり大きな物音に、他の天幕に寝ていたよその人達も起き出してきた。


「一匹じゃないぞ!」

 ミシズが二の矢を番えながら、注意を促す。見れば、頭上には、多くの影が舞っている。

 ミシズが第2射を放ったが、舞うように交わした巨大蝙蝠たちが、次々と急降下してきた。

 巨大蝙蝠たちは、手近の人間に、襲い掛かる。一体が、火のそばに座っていた男を蹴爪で掴むと、そのまま上空へ舞い上がった。

「うわぁぁ!」

 掴まれた男は必至に暴れて、巨大蝙蝠の拘束を振り払ったが、その結果落下し、大地に叩きつけられ、動かなくなる。

 宿営地は、大混乱になった。


(フー!)

 手にした石を空中に撒くと、フーの力で加速された石が、巨大蝙蝠を撃ち貫く。

 だが、敵の数が多い。足りなくなった石を拾いながら、それに、今まさに人を襲っているヤツには、誤射の危険があるので狙いづらい。

「ヨーヘイ、後ろ!」

 ミシズの声に、咄嗟に振り向くと、目の前に蝙蝠の爪が迫る。

「うわぁ!」

 咄嗟に避けようと、後ろに転ぶようにのけぞるが、間に合わない!

 敵の爪先が鼻先に迫った瞬間、ムギの呼び出した石人形が、大蝙蝠の横っ面を殴り飛ばした。

『ヨウヘイ様! ご無事ですか!』

「た、助かった……ありがとう、ムギ」

 大きな姿になったムギが、優雅に一礼する。

『お役に立てて光栄です』

 ……フーの力だけで、迎撃するのは難しいようだ。俺は、立ち上げると、他の精霊たちにも指示を出す。

(ムギは守りを固めて! ミーズとホノーとライは、人間を巻き込まないようにして、蝙蝠たちを射ち落して!)


「みんな、こっちじゃ!」

 グエル村長たちが、逃げる人々をまとめて、町の中心部へ避難しようとしている。大蝙蝠たちは、その人の流れを追うように動く。

敵の動きがまとまってくれるなら、重点的に迎撃しやすい。

「みんな、迎撃!」

俺の指示で、まるで高射砲みたいな勢いで、炎と水と雷の飛礫が撃ち出される。

弾幕によって、翼や体を撃ち抜かれた蝙蝠たちが、次々落下していく。

「……やれやれ、凄まじいな」

 ミシズが、俺の横で矢を番えながら、歎息する。


『西側から、もっと大きいのが来る!』

 再び、クロマルの警告が響く。

 俺は、もう一体ムギの石人形を呼び出し、西側に警戒させる。

「ミシズ、今度は西側!」

「なんだ!?」

 俺とミシズの視線の先、何か生き物の走る音が響く。次の瞬間、さらなる脅威が現れた。


 轟という吠え声と共に、現れる四足歩行の獣たち。以前、森で見かけたことのある姿だ。それが、一度に三頭。

「悪狼!」

 ミシズが吐き捨てながら、矢を放つ。だが、その矢が弾かれる。見れば、頭部と胸元に、帷子上の装甲が付けられている。それどころか、三頭中二頭には、鞍と騎手が乗っている。

「鎧!? 軍用の重騎兵!?」

 鞍つきの一頭に向かって、石人形を組み付かせて、その動きを止める。だが、残った二頭のうち、もう一頭の鞍つきは、逃げる人々の方へ走っていき、最後の鞍なし一頭は、俺達に一直線に向かってくる。

(ライ!)

 蝙蝠たちに放っていた、ライの弾幕を、今度は突っ込んでくる魔狼に差し向ける。

 放たれる雷撃の弾幕。多少は弾かれたが、鉄の装甲を抜けた電流は、相手の肉体を苛む。悪狼が、悲鳴を上げてよろける。

「ふっ!」

 動きが止まった悪狼の眼に、ミシズの矢が突き刺さって悲鳴をあげる。

「ヨーヘイ、残りは任せた! 私は、もう一頭を追う!」

「頼んだ、ミシズさん!」

 駆けだすミシズを背に、俺は拾った大き目の石を、フーの力で撃ち出す。

加速して放たれた石は、目を射られた一頭の頭を、打ち割った。


 残り一頭の方を見ると、悪狼と石人形は、絡み合うように格闘している。

 鞍の上の騎手は、どこにいった? 巻き込まれて、押しつぶされたか?

『気を付けて! 右方向、剣を持った相手が来る!』

 クロマルの示した方向に、剣を手にした男はこちらに向かって走り寄る。

 咄嗟に、足元の石を拾ってアンダースロー気味に投げる。フーの力で加速された石は、胸元にあたり、相手はもんどりうって倒れた。


 気が付けば、ミーズとホノーの弾幕も止んでいた。あたりには、逃げ遅れた人と蝙蝠たちの死体が折り重なっている。頭上に蝙蝠たちの姿はない。全滅させたか、あるいは逃げたのだろう。


 俺は、ミシズの後を追うことにした。

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