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第44話

「……イ」

 どこか遠くから声がする。

「……ヘイ……きろ……お……」

 なんだか、眠りに落ちる直前に聞こえる幻聴のような、起きているのか、まだ夢の中なのか、判然としないあの感じ。

 うーん、もう少し、寝ておきたい気分……

「……おい、起きろ! ヨーヘイ!」

 ビビビッ、と横っ面を盛大に叩かれる感覚に、一気に目が覚める。


「はっ!?」

 気が付くと、俺は、道外れにある木を背に寄りかかるようにして寝ていた。あたりを見れば、俺と同様の恰好でジルとミシズがいる。

 そして目の前には、俺のをひっぱたいたと思しきルイ。

「これは一体……」

「まだ、寝ぼけてるのか? じゃあ、今度は、拳でいくか?」

「起きてるから、やめて!」

 グーパンの態勢に入ったルイを制止しながら、慌てて立ち上がる。


「ジル、起きて、ジル!」

 横ではエルザに起こされたジルが、眠そうに目をこすっている。

「……夢だったのか、あれは?」

 周りの声で気が付いたのか、ミシズも立ち上がってあたりを見回している。俺の頭上には、ライ、フー、クロマルもちゃんといる。

「……何があったんだ、ルイ?」

 俺が問いかけると、ルイは肩をすくめた。

「こっちが聞きてえよ。霧で何も見えなくなったと思ったら、お前と、ジルと、ミシズだけが、消えていた。慌てて、みんなであたりを探していたら、三人ともここで昼寝してた、ってわけだ」

 気づけば、ムギとミーズとホノーのシュナ村紐づきトリオも、姿を現して、こちらを心配そうに見つめている。

『ああ、ヨウヘイ様……ご無事で本当に良かった……』

(俺たち、どうなっていた?)

『我らにも分からん。霧が出たと思ったら、いきなり、ヨーヘイたちの気配が消えたのだ。契約の繋がりは、そのまま続いていたから、生きているとは思っていたが』

 涙目のムギにかわり、ミーズが答えてくれた。


 そのとき、俺は、足元に転がっていた包みに気づいて拾い上げる。

 間違いない、あの魔女からもらった剣だ。


 やはり夢じゃなかったんだ……


 その日は、予定より大分遅れていたが、日も随分と傾いていたため、そのあたりで野営をすることになった。村人たちが、村から持ってきた天幕を広げ、薪を拾ってきて火を焚き、食事をとる。寝る時は、火は絶やさず、夜通し交代で見張りを立てることとなった。

そして、真夜中、俺の見張りの順番が回ってきたとき、ルイがやってきた。


 火の前で座っている俺の左横に腰をかけると、いきなり本題に入ってきた。

「……で、何があったんだ?」

「“霧の魔女”に、お茶に呼ばれた」

「はあ?」

 意味が分かってないルイに、最初から話す。“霧の魔女”を名乗る老婆が、ジルと俺の顔を見たくて呼んだこと。それは、創造神の導きだということ。そして、老婆から剣を貰ったこと。

「……意味が分からない」

「本当、そうね」

 頭を抱えるルイに同意しつつ、俺は横に置いていた包みを開き、出てきた剣を火にかざす。焚火の光を反射して、刀身は金色に輝いているように見える。

 俺が手渡すと、ルイもその刀身を火にかざして、じっくりと観察する。

「……これ、まさかと思うが、全部精霊石で出来てないか?」

「そうなの?」

 言われても、見た目ではよく分からない。だが、確かに、剣から精霊の気配が漂っている気がする。

「魔女の剣か……問題は、なんでこいつを預けてきたのか、だ」

 焚火を見ながらルイが教えてくれた話では、 “霧の魔女”は、数少ない第七位階に列せられた精霊だという。伝承や、童話にも出てくる存在だが、現代でも遭遇の記録があるという。遭難者や、獣に襲われた人なんかを、代償と引き換えに助けてくれる、のだそうだ。

「代償って?」

「大抵の場合、その人たちが、たまたま持っていた精霊石を要求してくる。なので、“霧の魔女”は精霊石を集めるもの、ってのが、常識だ。ただ、集めてどうするのかについては、諸説ある。食べるか、ただ飾って楽しむのか、あるいは、もっと大きな目的があるのか。そういえば、死んだ家族をよみがえらせるため、なんておとぎ話もあったな」

 ルイが教えてくれた話を思い返しても、ピンとこない。少なくとも、茶菓子は普通の焼き菓子だったから、精霊石しか食べない、ってわけでもないだろうし、剣は棚にしまい込まれてたから、飾って楽しむ説もなさそうだ。

「俺が言いたいのは、代償と引き換えに精霊石を求める存在が、なんで精霊石を寄越してきたのか、ってことだ」

 ルイが、ずばし、と俺を鼻づらを指さすものだから、思わずのけぞる。

「……その点は、私も気にかかっていたわ」

「「!?」」

 不意に背後からかけられた言葉に、俺とルイはびくりと反応する。振り返ると、いつの間にか、ミシズが立っていた。


「お前、いつからそこに……」

「別に構わないでしょう? 私もあの場にいたのだから、話に加わる権利はあると思うけど」

 渋い顔したルイの言葉を、涼し気に受け流しつつ、ミシズは俺の右横に座った。

「……“霧の魔女”は、人の命を救う代償に精霊石を求める。なら、精霊石を与える代償に、求めるものは……」

「……人の命?」

 誘導されて答えた俺の言葉に、ミシズはかすかにうなずいた。

「順当に考えれば、そうよね。誰かの命を救え、ってところかしら? 何か、心当たりはない?」

「……俺も、同意見だ。“霧の魔女”が、代償なしに寄越すなんてあり得ない。お前、何か面倒なことを押し付けられたんじゃないのか?」

 二人同時に左右から問い詰められても、俺には心当たりなどない。

 大体、あの婆さん『創造神のお導き』としか言ってくれなかったわけで。

「そう、それ! ねえ、ヨーヘイ。あなた、なんであの時、“霧の魔女”のことを、『創造神の関係者』なんて、言ったの?」

「なんだそれ? おい、ヨーヘイ、どういうことだ?」

 やばい、いきなりの話に、目が泳ぐ。咄嗟に、言い訳を考えるが、この二人を同時に納得させられるような言い訳が思いつかない。

 えーと、えーと……無理だな、うん。


 俺は観念した。

 

 結局、俺は二人に洗いざらい、話してしまった。俺の出自から、創造神との関係までを。


「……というわけでして」

「……」

「……」

 二人、顔を伏せたまま、ノーリアクション。

「えーと、出来れば、他の人たちには、あんまり言いふらさないで欲しいかなー、って……」

「……言いふらせるか、こんな話!」

 ルイの怒号が響いた。

「ルイ~、もう遅いしみんな寝てるんだから、静かにしないと~」

「お前が、訳の分からん話を、するから、だろうがっ」

 ルイは、俺の首根っこを掴んでぐいぐい絞めつけてくる。ちょ、ギブ、ギブ!

「……整理すると、あなたは異世界の人間で、死んだところ創造神に助けてもらって、あまつさえ精霊と対話したり、血で精霊を強化する力を貰い、何か役目を与えられて、この世界に送り込まれた、そういうこと?」

 ミシズは、俺の説明を簡潔にまとめてくれた。首を絞められて声を出せないので、コクコク首を縦に振る。

「……巡礼団本部に報告なんかしたら、こっちの正気を疑われるわよ」

 ミシズはその場で頭を抱えてしまった。

「まあ、普通に考えて、狂人のたわごと、だな」

 ようやく俺の首を放してくれたルイも、ぴしゃりと断じる。


 ……ですよねー。うん、自分でもそう思う。

「ただ、こいつの頭がおかしいと、切り捨てるわけにもいかない。あれだけの精霊と契約して、平然としているこいつの異能は、創造神からの賜りものと考えれば納得できる。それに、“霧の魔女”の件も、創造神から役目を与えられている、って話を、補強している」

「そうね。あの時、“霧の魔女”は彼とジルを招待したと言っていた。そうすると、あのジルにも、なにか役目が与えられているのではないかしら?」

「ああ、確かに。くそ、情報が断片的すぎる、“霧の魔女”に直接問いただせればな……」

 ルイとミシズが、何故だか盛り上がっている。両方とも、議論好きなのかも。


 二人で盛り上がられると寂しいので、俺も少しは混ぜて欲しい。そう言ったら、かなり本気目に、ルイに頭を殴られた。


「……とにかくだ! 俺は、お前の話を、信じたくないが、信じることにする」

 殴られたあたりをさすりながら正座している俺を、仁王立ちのルイが見下ろしてくる。

「状況的に、あなたの話を補強する材料があるしね」

 横で同じく腕汲み仁王立ちのミシズ。

「お前の話は信じるが、協会には報告しないでおいてやる。俺の正気も、疑われるしな」

「私も、巡礼団には言わないでおく。精神異常者として、収監されたくないもの」

 いや、それはありがたい。二人の、自己保身が垣間見える点は、さておき。


 そこで、ルイとミシズはしゃがみこみ、両側から俺の肩に手を置きながら、こう言った。

「だからな、今後は、お前の知ってること、洗いざらい話せよ? な?」

「そうね、情報の共有は大事だわ。死活問題、だからね?」

 ……なんで二人、そんなに、圧が強いの? あと、二人とも、なんか仲良しになってません?

「……ああ、おかげさまでなっ!」

 俺のこめかみに、ルイの両拳がぐりぐりとめり込んで、大変痛かった。


 その後、俺たちは火を前にして、色々なことを喋った。


 俺が元いた世界の話、ルイの協会での学徒時代の話、ミシズが生まれた村の話、三人で、呆れたり、怒ったり、笑ったり。

 誰かと、こんな風に他愛のない会話をしたのは、本当に久しぶりな気がする。


 気が付けば、次の見張りの人を起こすのも忘れて、夜が明けるまで三人で話をしていた。


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