第41話
俺は、3人を連れて、ライの示す方向に進む。
歩きながら3人と色々と話してみたが、どうやら、シュナ村に紐づいている精霊は、この場に来られないようだ。
しばらく歩くと、何か声が聞こえる。
「誰か! 誰かいるのか!」
呼びかけると、応じる声が聞こえた。
「その声は、ヨーヘイ!? こっちよ! 来て!」
声は、ミシズだった。駆け寄ると、霧の中から姿が浮かびあがる。
「こら、ダメだって! ヨーヘイも来たから、落ち着いて!」
ミシズは、じたばたと暴れる誰かを、押しとどめようと抱きかかえている。それは……
「……ジル!?」
ジルが、ミシズを振り払おうと、じたばた藻掻いていた。
「ミシズ、これ、どういう状況!?」
「私にも分からない! いきなりの霧で、皆の姿が見えなくなって、あたりを探していたら、この子だけを見つけたの」
俺はしゃがんで、ジルと視線を合わせる。普段喋らず、自分から意思表示をすることも少ないジルが、何か突き動かされるように、藻掻いて手を伸ばしている。
俺は、その右手を、両手で包むように柔らかく握った。以前、エレナがやっているのをまねるように。
「ジル、どこかに行きたいの?」
ジルは、こくりと頷く。
「じゃあ、俺たちが付いていく。一緒に行こう?」
「ちょ、ちょっと!?」
ミシズが慌てるのを、視線で押しとどめる。
「俺にもよく分からないけど、この状況を作った何かが、ジルを呼んでるんじゃないかな? だったら、俺たちも一緒に行って、その何かを確認するのが、解決の早道だと思おう」
「……まあ、確かに合理的ね」
ミシズはため息を一つついて、ジルを抑える手を緩めた。
そして、俺はジルの手を握って、ジルの歩調に合わせて歩き出した。
ミシズは、後ろからついてきながら、俺に声をかける。
「この状況、きっと何らかの精霊の仕業だと思うわ。強力な力で結界を作り、精霊と親和性の高い存在だけを、招き入れたのよ、きっと」
なるほど、だから、俺とジルが呼び込まれたのか。そうすると、ミシズも親和性が高いってことか。さすがエルフ。
他の村人がいないのはともかく、ルイもいないのは……残念でしたね、ルイ先生。
ジルの行きたがる方向に進んでいくと、霧が薄くなった気がした。
「……ミシズは、契約している精霊の力は使える?」
「駄目ね。私は、土地に根差した精霊しか、契約していないから。あなたは……三体
いるのね」
ミシズは、ふよふよ浮かぶクロマル達を見る。
「精霊相手は、あなたに任せるわ。生き物が相手なら、“これ”が少しは役に立てると思うけれど」
そう言って、ミシズは手中の弓を示す。その時、ライの警告が響いた。
『……何かくる! 気を付けろ!』
「精霊が、何かくるって!」
俺の言葉に、ミシズが瞬時に反応し、背の矢筒から矢を抜き、弓弦につがえる。
霧が薄れた向こう側から、浮かび上がる巨体。3mはあろうかという人型の何かが近づいてくる。
「なんだ、あれ!?」
見えたのは、岩の塊だった。ムギの使う土人形に似ているが、全身が岩で作り上げられている巨体。
どこに目があるのか分からないが、頭部がこちらを向いて、俺たちのことを認識したようだった。
「おそらく、ゴウレムの類よ! 頭部に土の精霊を宿した精霊石を埋め込み、使い手の意のままに操作する技!」
ミシズは、冷静に説明してくれるが、そのゴウレムとやらは空を仰ぎ、口もないのに轟と吠えた。とても、友好的には見えない。
ジルを庇うように身構えていると、ミシズじゃいきなり弓を放った。
弓は一直線に飛び、相手の頭部に当たった。が、当たっただけだった。かつん、と軽く弾かれ、矢が落ちる。
「矢では、どうにもならない! あれを倒せば、多分この空間から抜け出せるはず!」
そして、ミシズは俺の方を見る。
……あ。俺がどうにかする流れか、これ!?
ええい、腹をくくるしかない!
「……ジルを頼む!」
ジルを押しのけるようにミシズへ預けて、石巨人の側面に回り込むように、俺は走る。
石巨人は、俺の方に頭部を向けるが、足はジルに向かって進んでいる。
やっぱり、ジルが目的か!
(ライ!)
俺の求めに応じて、ライが走る。そして、電撃を纏ったその爪で敵の頭部を引き裂く。
だが、攻撃は、わずかに相手をのけぞらせた程度。
電撃も、効果があるようには見えない。やはり、ムギの土人形のように、大地に流れてしまったのだろう。
だが、それでも相手をひきつけることは出来た。石巨人は足を止めて、こちらに向き直り、ゆっくりと近づいてくる。
よし。このまま、ジルとミシズから遠ざける。俺は、走りながら、足元の石を数個拾う。
(フー! 例のやつ、行くぞ!)
『うん!』
俺はフーに呼びかけながら、拾った石を放り投げる。
ようし、ここ最近の、試行錯誤の成果を見せてやる!




