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第38話

「……やります!」

 今、この状況下で使える、最大の火力で、相手を一気になぎ払う。そのためには……

(ライ! 俺に“憑依”してくれ!)

『……わかった』

 ライは少し嬉しそうに応じ、俺の体へと重なっていく。


 脊髄を通り、体の奥底まで、何かが染みわたる感触。同時に、全身に沸きあがる力。

 この力でできることをイメージする。まずは、視界の中に入った一体の敵に向け、手を伸ばす。そして、掌と相手の間に繋がる糸、あるいは通路を思い浮かべて、その道筋に沸き上がる力の一端を、流した。

 森の中を、閃光と轟音がほぼ同時に走る。掌に生まれた電撃が、一直線に相手を撃ち貫いたのだ。そして、電撃に焼かれた敵は、苦悶の表情を浮かべながら消滅する。

 これなら、いける。

『なんだ、“憑依”!? 雷の精霊とか!?』

『人間の精霊使いが、まさか……』

 エルフたちのそんな声が聞こえたが、今はそれどころじゃない。


 敵は多い、ちまちま一体ずつ相手をしている暇はない。視界だけでなく、ライの力で拡張された感覚で、周囲の幽霊ども全員を捉える。そしてその全てに対しつながる、通電経路をイメージする。俺を中心に、敵のすべてに繋がる不可視のラインを。

「……いけっ!」

 俺の体の中の力が、雷に変換される。そして、繋げられたラインを通じて、高電圧高電流の電撃が流された。

 先ほどよりも更に激しい光と轟音が、森を駆け抜ける。

 あまりの光量に、自分でも目が眩んだが、視界が戻った時には、脅威となる相手は、すべて消え失せていた。


「……き、きっつー……」

 ライとの“憑依”を解除した途端、虚脱感でへたり込んでしまう。頭の血管の拍動とともに、ひどく頭が痛む。


「お、お前!? “憑依”なんて高等技法、いつの間に!?」

 ルイが体を支えてくれているが、まともに応じる余裕がない。

「まあ……ちょっとね……」

 座りこんで、しばらく息を整えることに集中する。横でムギたちが心配そうに見ているので、軽く手を振って無事をアピールしてみる。


「……助力に、感謝する。おかげで、命を拾うことができた」

 エルフのリーダー格・カバナが腕を抑えながら、こちらに声をかけてきた。

「感謝されるいわれはない。我々は、この子を救いにきただけのこと」

 カランがカバナに応じながら、ジルを腕の中に抱きかかえる。

「……その子は……」

「状況は認識しているさ。お前らが焚いた精霊寄せの香に、反応して呼び寄せられてきたんだろう?」

 怒りのこもったルイの言葉に、カバナは苦々し気に頷いた。

「その通りだ。このようなことになるとは、想定していなかった」

「あの幽霊どもも、どうせ香で呼び寄せちまったんだろうが! 明らかに、協定への違反行為だ!」

「……言葉もない」

 項垂れるカバナに、カランは冷徹に告げる。

「グラフ様に仕えるものとして、貴公らの所業は認めるわけにはいかぬ。即刻、領外への退去を求める」

「異論はない。だが、死者の弔いと、けが人の手当が終わるまでの間は、滞在を認めていただきたい。」

 よく見ると、5人いたエルフたちのうち、生き残ったのはカバナの他に、ジルを守っていた女エルフと、弓を手にした男のエルフの2人だけ。そした誰もが、傷つき血を流している。

「……分かった」

 そのあり様に、カランも、拒絶できないようだった。


 その後、待機していた村長たちを呼び寄せ、けが人に対する応急手当を終えると、生き残った全員で、一度村に戻ることとなった。

 “憑依”の影響で疲労困憊だった俺は、村長の肩を借りながら、なんとか村までたどり着くことが出来た。だが、夜明け頃に村の入り口にたどり着いたあたりで意識を失った。

結局次に目覚めたのは、その日の夕刻近くになってからだった。


「……まったく、お前は無茶しやがって!」

 夕刻、目覚めた俺を待っていたのは、ルイのお説教だった。

 

 ベッドの上で正座しながら、ひたすら反省の意を示し、耐える。

 初対面時にやった『積極的謝罪』戦法を再びやってみたのだが、『お前、それで説教切り抜けようとしてるだろ?』と見抜かれてしまい、真っ向から御小言に立ち向かわざるをえなくなったのだ。

「“憑依”ってのはな、命を削る行為だ! 精霊石の補助なしでやるなんざ、ただの自殺行為だ! 今回生き残れたのは、奇跡みたいなもんだからな!」

 あまりの剣幕に、『前にもやったことがある』なんて、言えねーなこれ。ハハハ。


 正直なところ、肉体的な疲弊は、前回ムギと“憑依”した時よりだいぶマシになった気がする。なにせ、前回は自力で一歩も動けなかったが、今回は村長の肩を借りたとはいえ、自分の足で村まで帰ってこれたのだ。

これはもう、俺の精霊使いとしての力が、着実に成長しているってことではなかろうか! ふふん。

「……おい、人が懇切丁寧に説明してるのに、なにをにやにや笑ってんだコラ」

 あ、やば。

 額に青筋を浮かべたルイの説教は、そこから更に続くことになった。


 そんな個人的災難以外の、事件の顛末はこんな感じだ。


 まず、ジルはあの闘いの中にあっても、無傷だった。カランに抱きかかえられて村に戻った際、エレナは泣いて喜んだらしい。

 エルフたちにとって、精霊寄せの香でジルがやってきたのは想定外のことで、森の中から裸足のジルが現れた時には、相当困惑したようだ。その直後、幽霊の大群が襲ってきた時も、無関係な子供は守らなければならないと、全力で庇ってくれたらしい。


 そして、生き残った3人のエルフのうち、比較的傷の浅かったカバナともう一名は、一通りの手当を終えた後、村から去っていった。去る間際まで、俺と何やら話がしたい素振りを見せていたようだが、カランとルイが頑なに許可しなかった。

「どうせ、“憑依”までやらかしたお前のことを、根掘り葉掘り調査しようってことだろう」

 ルイはそう言っていた。


 残る一人のエルフ、ジルを庇ってくれていた女エルフは、足に手ひどい傷を負っていたため、歩けるようになるまで村でしばらく療養することとなった。

 名前は、ミシズ。口数は少なく、何を考えているのかよく分からない。

 ルイからは接近禁止を厳命されているが、同じ村の中で暮らすのだから、そのうち顔を合わせる機会も増えるだろう。


 精霊たちはというと、まずは香の影響がなくなったことで、みんな安心したようだ。そして、ホノーは以前活躍できなかった鬱憤を晴らせたのがうれしいのか、近頃上機嫌だ。村のみんなの勧めで始めた炭焼き仕事も、喜々として手伝ってくれている。

 とりわけ態度が変わったのが、ライだ。好き勝手に行動しているのは相変わらずなのだが、どうも最近俺との距離が、近づいている。寝ても覚めても、必ず俺の周囲にいるようになった。これも、“憑依”した影響なのだろうか?

 識者のムギに質問してみたら……

『……知りません!』

 無茶苦茶ふくれっ面でぷい、と顔を背けられてしまった。

 本当、なんなんだろう?

『ヨーヘイって、オンナ心が分からないオトコだよねー』

『然り』

 クロマルとミーズにそんな事を言われたりもしたが、本当なんなんだよ!?


 それが、事件の後始末にかかるすべてだ。


 ただ、少し気にかかることもある。あの時、森に現れた大量の幽霊たちだ。

 カバナの話だと、精霊寄せの香を使用して、幽霊たちを呼び寄せたという事例は、初めてらしい。香が原因でないのなら、幽霊たちは、何故集まってきたのか?

 それに、幽霊たちの出どころも、気になる。飛び回る幽霊たちの服装から考えると、あれはアダンたちが倒した野盗たちではなかったか。幽霊は、生前の心残りを果たすために行動するはず。エルフたちを襲うのが、あいつらの心残りだとは思えない。

 何か、外部的な要因があるような気がするのだが、それが何かは分からない。もやもやするが、情報が少なすぎる。今は、棚上げにしておくしかない。


 ともあれ、村に平穏が戻り、俺の日常は続いていく。


 秋の気配が深まり、村には収穫の季節がやってくる。

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