第37話
村長を先頭に、急遽編成されたジル捜索隊が、森を進んでいく。
メンバーは、村長、ハンスたちの森の地形をよく知っている狩人組から3名、そしてカランにルイ、最後に俺の、合計6人だ。エレナもついて来ようとしたが、村長とカランの説得でなんとかなだめておいてきた。
なお、ムギたちも、しっかりついてきている。
「本当に、こんなところまでジルが来ているのか?」
「いや、間違いない。見ろ」
狩人組の男の、いぶかし気な言葉に、足元を注視していたハンスが何かを指さした。
指し示す先には、ぬかるみに刻まれた小さな足跡があった。
「……子供の足あとだ」
全員顔を見合わせ、村長が大声であたりに向かって声を上げる。
「ジルー! どこだー! 返事をしてくれー!」
(ムギ、ジルがどこにいるか分かるか?)
俺の問いかけに、ムギが申し訳なさそうに答える。
『香の臭気が強すぎて、細かな気配を感じるのが難しいのです……申し訳ありません』
くそ、本当余計なことしてくれるな、あのエルフたち!
ムギたちの感覚だと、この先が香の発生源のようだから、目的地は分かっている。進むしかないか。
更に進もうとしたとき、ルイが何かに気づいた。
「おい、この先、やばいかもしれない」
見れば、肩にルイの鳥型精霊が止まっている。ルイの精霊が、何かを感じたのか?
クロマルの方へ視線を向けると、真面目な顔をしてこくりと頷いた。
『この先から、香とは別の、すごい嫌な気配がしてる』
俺がクロマルの言葉を伝えると、カランは剣を抜いて先頭に出た。
何も語らず、皆の顔を眺めた後、俺たちは先程よりも慎重に進んでいく。
異変は、程なく訪れた。
木々の向こうがほのかに明るくなり、そして怒号のような叫びが響く。
「……戦闘か」
カランの声に、全員の体が強張る。
「村の者は、ここで待機だ。ルイとヨーヘイは一緒に来い」
「……わかった」
カランは、身を屈めて木々の陰から陰へと体を隠すように前へ進む。俺とルイは、その様子をまねるようにして後ろについていく。
進んだ先には、倒れた大木によって開けた空間が広がっていた。その中心には、焚かれた焚火と野営の道具。そして、エルフたちが円陣を組んで、戦っていた。
その相手は……
「……幽霊!?」
エルフたちの頭上を舞い飛ぶ、半透明の影。十体以上の死者たちが、エルフたちを取り囲み、挑みかかっている。
エルフたちも、周囲に精霊を呼び寄せ、その力で迎撃している。風の精霊が霊体を切り裂き、木々の精霊が蔦を伸ばしてからめとる。
だが、多勢に無勢、明らかに幽霊たちのほうが優勢だ。既に二人ほど、倒れているのが見える。
「あそこ!」
隣のルイが示した先、とりわけ幽霊たちの攻撃が集中している場所で、一人のエルフがうずくまっていた。手傷を負っているのか、立ち上がれないようだが、土の精霊の力で、防壁を巡らせ、敵の攻撃を必死でしのいでいる。そのエルフの腕の中に、ジルの姿が見えた。
「ジル!」
気が付けば、体が動いて、木陰から飛び出していた。
「おまっ……ばっ……」
ルイになにか言われた気がするが、気にしない。
(ホノー! 頼む!)
『任せろ!』
ホノーが眼前に炎を走らせ、前方の敵を散らして道を作る。その道を全速力で駆けぬけた。
『なんだ!?』
『あいつは……!?』
エルフたちが何かを言っているが、気にしない。土の防壁の隙間を縫って、倒れたエルフのそばにたどり着く。
「ジル!」
『貴様、一体……?』
うずくまったエルフは、女性のようだった。その腕の中のジルは、目を閉じて呼びかけに答えない。
『この子なら大丈夫。気を失っているだけだ』
女エルフの言葉に、少し安心する。が、状況的には全く安心している場合じゃない。
(みんな!)
俺の思いに応じて、みんながそれぞれ敵を迎え撃つ。
ホノーが、その炎で牽制するが、敵は怯まずに攻撃を続けている。
ホノーが炎で牽制する横で、フーが衝撃波を出して相手の攻撃を弾く。
『ちょ、ちょっと、これ、多くない!?』
『泣き言言っても、しょーがないよ!』
ムギが石人形たちを盾にする蔭で、ミーズが水を高圧で撃ち出していく。ライは、軽々と飛び跳ねて、雷を纏った爪で敵を切り裂く。
だが、それでも相手は多い。
「ヨーヘイ!」
松明を振り回して幽霊をはねのけながら、カランがそばにやってきた。その背後にはルイもいる。
「この幽霊ども、なんなんだ!? 尋常じゃないぞ!」
ルイも精霊を使って敵を攻撃しているが、決定打を与えられていない。
「あなた方は一体!?」
残っているエルフたちも、俺たちのそばによってくる。
「話はあとだ! このままでは、磨り潰される! ヨーヘイ、お前の力で何とか突破口を開けないか!?」
カランの言葉に、一瞬躊躇する。だが、すぐに腹は決まった。出し惜しみしてる場合じゃない。




