表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/103

第29話

 一晩眠ると、筋肉痛は何とか一人歩ける程度に回復していた。元の世界にいた頃は、筋肉痛になると2、3日引きずっていたものだが、これも創造神のギフトのおかげだろうか?

 そして、エレナに付き添われて集会場にたどりつくと、アダンとベルがグエル村長たちを前に、説明を始めていた。

「……野盗たちの襲来を、ヨーヘイさんが察知してくださいまして。それを私どもがお聞きし、追い払う手伝いをした次第です」

 滔々と語るベルに、グエル村長は半信半疑という表情で問う。

「しかし、何故お二人がそのような危険な真似を……? 我々にも話して頂ければ、お手伝いできたのに」

「皆様にはお話ししていなかったのですが、我々は行商だけでなく、時には傭兵として戦に立つこともございます。ヨーヘイさんは、精霊のお力でそのことをお察しになり、まず我々に話を持ち掛けてくださったのですよ。皆さまを危険にさらすまいという、ヨーヘイさんの心遣いですな」

 ベルがこちらをチラ見した。

 その視線が、『余計な事言わず、こちらに話を合わせろ』って言ってる気がする。

「我々としても、日ごろお世話になっている村の一大事ですし、一肌脱いだというわけです。幸い、野盗たちは手傷を負わせたら、逃げ散っていきましたので、もう危険はありませんよ」

 あの血だらけのあり様を“手傷を与えた”で押し通そうというあたり、面の皮が厚いなあ。

「ふうむ、そんな危険なことになっておったとは……」

「いや、しかし何事もなくてよかった。さすがヨーヘイ、わが村の救い主だな」

「ベルさんたちにも、迷惑をかけちまったようだね。すまないね」

「野盗たちも馬鹿だなぁ、うちみたいな貧乏村襲っても、金なんかないのになぁ」

 一応納得したらしい村人たちが、安堵の言葉を漏らしている横で、再びこちらをチラ見するベル。“これでいいですね?”と念押ししているようだ。

 うーん、さすがに“村人まとめて皆殺しにされかけた”なんて、言えないし、この説明でよしとするしかないか。

 俺は、同意を示すため、少しだけうなずいた。


 その日の午後、ベルたちの出立を見送ることになった。俺を含めた手空きの人たちが、入口まで見送りに出る。


「それでは、お世話になりました。近いうちにまた会いましょう」

 見送りの人々と握手を交わすベルとアダン。

 と、ベルが俺の耳元に顔を寄せてささやいた。

「……森の死体は、片づけておいてくださいね」

 言われるまでもない。午前中のうちにムギにお願いして、悪狼の時と同じ要領で埋めておいた。

ムギの目を通じて確認すると、俺が倒したシャガラの他に、10人ばかりの遺体が転がっていて、改めてこの二人の腕前に恐ろしくなった。

 敵には回したくない。


 そして、ベルたちは去り、野盗をめぐる騒ぎは一応終了したのだった。


 と思ったのだが、精霊たちには妙な影響が残った。

『ヨーヘイ! もっと俺を使ってくれ!』

 ホノーが、若干据わった目で俺にそう訴えてきた。

いやもう、訳が分かりません。

「……なんで? どうかしたの?」

 そう聞くと、ホノーは唇をかみながら、こんなことを答えてきた。

『だって、俺だけなんの役に立てなくてよう……』

 どうやら、シャガラとの戦いで、活躍できなかったのが口惜しかったらしい。

『ムギはヨーヘイに憑依して、クロマルやライは雷落とすのに役立ったのに、俺はぶん殴られて倒さただけ……情けなくってよう……』

 なるほど、喪失した自信を取り戻すため、役に立ちたいのか。

「えーと……じゃあ、お茶を飲むためのお湯でも沸かしてもらおうかな」

『そういうんじゃなくて! もっと、ガーっとなって、グォー!ってなるやつがいい!』

 うん、分からん。

 改めて、ホノーに細々と聞き取りすると、どうも、戦闘行為での活躍を所望しているようだった。

 とはいえ、この村にいる限り、そんなホイホイ戦うような機会はないぞ。


「うーん、戦いたいなら、訓練を積むとかどうだ」

『訓練?』

「そう、他の精霊……例えば、ライを相手に模擬戦闘したりとか」

 そう言ってライの方を見たら、シャドーボクシングしながら、ちらちらホノーの方を見ている。めちゃくちゃやる気ですわ、これ。

 しかし、ホノーは視線をそらす。

『いや……ライの姉御はちょっと……手加減とか、してくれないんで……』

 ライが目を丸くして固まる。ショックだったらしい。

 うーん、となると、何をどうしていいものやら。

『ホノー、我儘を言って、ヨウヘイ様を困らせてはいけませんよ』

 と、ムギがホノーをたしなめつつ、ずいっと俺の横に出てきた。実体があれば、腕でも組みそうな勢いと近さだ。

『訓練を積みたいなら、私が土人形でお相手しますから、ヨウヘイ様のお手を煩わせてはなりませんよ』

『……へーい』

 ムギに言われて、しぶしぶといった様子のホノーが下がる。そしてムギは、なぜだか俺を満面の笑みで見つめてくる。

 これは、ほめてほしいのか?

「えーと……ありがとうな、ムギ」

『いいえ! 私はヨウヘイ様と契約した身ですので! 何なりともお申し付け下さい!』

 尻尾があればパタパタ振ってそうなくらいの、喜色満面っぷり。圧がすごい。

『あー、またムギがヨーヘイの一番そばにいる-』

『そうだよー! 私たちもそばにいたいのにー!』

 クロマルとフーの不満げな声に、ムギは涼しい顔だ。

『何を言うのです。私とヨウヘイ様は、憑依して一心同体となったのですから、常にお側にあるのは当然です』

『じゃあ私も憑依する!』

『私も、私も!』

『なりません。ヨウヘイ様のお体にご負担がかかります。相応しい時機、というものがあるのです。そのように安易にするものではありません』

 ぶーぶーと声を上げる二人に、ムギは涼しい顔で受け流す。

 どうも、“憑依”したことが精霊たちの中でステータスになってしまったようで、精霊たちの中でのムギの発言力が更に大きくなったようだ。

 ……率直に言えば、彼女面というか女房面感が増した気がする。この先、変なトラブルにならないといいなぁ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ