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第20話

 精霊喰いとの闘いから、一週間が過ぎた。

 領主への報告があるとかで、カランは村に着いたその日のうちに、帰っていった。


「……そうだ、お前に、これを」

 その別れ際、カランは俺に硬貨の入った袋を手渡してきた。見ると、金貨が5枚入っている。

「精霊使いへの報酬だ。グラフ様からの預かったものだ、遠慮なくとるがいい」

「はあ……ありがとうございます」

価値が全然分からないが、きっとかなりの金額なんだろうな。

「それから、こちらも渡しておこう」

そう言って、更に一つの石を手渡してきた。黒焦げになった、野球ボールくらいの大きさの丸い石だ。

「なんです、これ?」

「お前が仕留めた、“精霊喰い”の精霊石だ。バラバラになった残骸の中に転がっていたので、拾っておいた……ああ、その顔つきだと、精霊石が何かも分からんか。」

「はい」

「仔細はルイにでも聞いてくれ。では、いずれまた」

 そう言い残して、カランが颯爽と去っていった一方、疲労困憊状態のルイは、まともに歩けるまで、シュナ村に逗留することになり、今にいたる。


 というわけで、療養中のルイのもとに、日々の食事を届けるついでに、色々精霊の話を聞くのが日課になっていた。

「……それで、昨日はどこまで話したっけ?」

 ベッドの上で胡坐をかいてパンをかじりつつ、ルイは俺に聞いてきた。

「はい、先生! 『精霊喰いは、精霊を喰って体内に精霊石を作る』ってあたりまでです!」

「だから、先生はやめろよ。多分、お前の方が年上だろ?」

 げんなりという顔をするルイ。実は、その顔を見たくて、わざと言ってたりする。

「……えーと、そうだな、精霊喰いは精霊を喰うと、その力を石の形に凝縮して、ため込む性質がある。なので、精霊喰いを倒すと、体内からその力の塊が見つかる。それが精霊石だ。通常は不可視・不可触の精霊だが、精霊喰いに喰われることで、物質として、この世界に還元されたもの、とも言われている」

 俺は、ポケットから黒焦げた石を取り出してみる。

 あのムカデが喰らってきた精霊が姿を変えたというなら、この一部は、クーやムーなのだろうか……

「……精霊石は、色々な使い道があるから、高値で取引されている。その大きさなら、金貨で100は下らないだろう。あんまり、人前で出すんじゃないぞ」

「あ、うん。ありがと」

 ポケットにしまい込む俺に、『礼を言われる筋はねえよ』と嘯きながら、ルイはパンの最後のかけらを飲み込んだ。

「……ところで、精霊石の使い道って、何があるの?」

「一番多いのは、俺の指輪みたいに、精霊使いの導具に加工することだ。土地や縁の縛りなしで精霊を宿す依り代となるし、精霊が力を振るう際の、体力消費を肩代わりしてくれる。使い捨てるやり方もあるが、まあ、そのあたりはいいか」

 なるほど、精霊使いにとっての、いわば魔力タンクになるのか。

「まあ、お前のその特異体質だと、無用の長物なんだろうがな」

 ルイはジト目でこちらをにらんでくる。


 実は、ルイ先生の精霊講座を受講している中で、俺の力について、話してしまった。

 もちろん異世界からやってきたなんて話は伏せているが、俺の血に精霊を活性化させる力があるらしいことは、一通り説明した。

 最初に聞いたとき、ルイは驚愕し、そしてしばらく、頭を抱えてしまった。

 曰く、俺のような能力を持った人間の話は、伝承やおとぎ話の中には存在しているらしい。だが、ルイの知る限りで、信頼できる記録はない。だからこそ、この能力が世の中にどのような影響を与えるか、計り知れないとのことだ。

「……念のため、もう一回言っておくが、他の精霊使いに、お前の力のことはしゃべるなよ。下手すれば、殺されて、血の最後の一滴まで絞りつくされかねないぞ、お前」

「う、うん。わかった」

 薄々そういう可能性もあるかなー、などと思っていたが、改めて告げられると、ぞっとする。

 同時に、わざわざ注意喚起してくれるあたり、やっぱりこいつはいいやつだ、と確信する。

「……なんだよ、その目つきは?」

「別にー」

 俺の生温かいまなざしに、ルイは不審げな顔をしていた。


 精霊喰い退治を終えて、変化した日常がある。

『おはよっ、ヨーヘイ』

 翌朝、目覚めた俺を覗き込む笑顔。今日は、クロマルか……

「おはよう、みんな……」

 部屋の中には、クロマルのほか、ムギ、ミーズ、フー、そしてライがそれぞれの姿でくつろいでいる。

「いや、だから、この部屋の中に6人は狭いって!」

 俺の突っ込みに、クロマルは顔を近づけてきて、小ばかにしたようににんまり笑う。

『私たち、体があるわけじゃないんだし、別にいーじゃん』

「……心理的に、狭苦しいんだよ……っていうか、近い!」

『んー、なにがー?』

「顔が、近い、って言ってるの!」

 正直言って、大きくなったクロマルは、めちゃくちゃ可愛い。小さかった頃と同じ、ギャルっぽいムーブをされると、正直どきどきしてしまう。

『んもう、ヨーヘイってば、キョドってるー。かわいー』

 なんで、服の胸元に指をひっかけて、にじり寄ってくるんだよ!

『私には触れないのにー、なんでそんな下がるのぉ? どうしたのー?』

 蠱惑的な笑み。こいつ、わかっててやってるだろ、お前!

 その時、助けが訪れた。


『いい加減になさい、クロマル。ヨウヘイ様をそれ以上困らせてはいけませんよ』

『あだだだ、痛い痛い痛い!?』

 ムギが、クロマルの髪を掴んで引っ張り上げる。笑顔のままなのが、実際コワイ。

「あ、ありがとう、ムギ」

『いえ、ヨウヘイ様のためですから。うふふふ』

 涙目のクロマルを羽交い絞めにするムギ。

 精霊同士だと、普通に触れるんだし、本当に狭苦しく感じないのだろうか。

『えーと、御不満でしたら、こういうこともできますよ!』

 ぽふん、と軽い音を立てて、ムギの姿が変わる。人間サイズから、掌におさまるくらいの三頭身サイズに。

 おお! 可愛い! コンパクト!

『え、そうですか? 可愛いですか? えへへへ』

 差し出した掌の上で、ムギが照れたように笑う。

『……』

 その様子を見ていた、他の精霊たち。不意に黙ったかと思うと、ぽふぽふと立て続けに姿を変える。みんな揃って、ムギと同じ三頭身サイズだ。

 おお! 可愛いなぁ!

『……そ、そんなに褒めていただけるなら、しばらくはこの姿でいましょうかね?』

 うんうん、よいよい。なにより、部屋の圧迫感が段違い!


 こんな風に、精霊が5人になって、しかもみんなが常に俺の近くにいるので、ずいぶんと騒がしくなった。

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