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第2話

 目を開けると、俺は草原に寝転がっていた。空は晴れていて、雲一つない快晴だ。上半身だけ起して周囲を見渡すと、少し離れたところに森が広がっている。

 体を触ってみるが、変なところはないように思える。服は、はねられる直前に着ていた安物のスーツのままだ。ただ、ポケットの中には何もない。財布もスマホも家の鍵も、何もない。

「よし、状況を整理してみよう」

死んだと思ったら、自称創造神に生き返らせてもらって、異世界で暮らせと言われました。なお、体には何か特典があるといわれましたが、不明です


 空は高く、周囲は草原、遠くには森。実感はないが、本当にここは異世界なんだろうか。

……再び寝転がってひと眠りして、目を覚ましたら全部夢だった、ことにならないかなぁ。どうしていいかわからなすぎて、現実逃避したい気分がもりもりわいてくる。

「だが、そういうわけにもいかないよな」


『トラブルにあったら、まずはトラブルを分解するんだ。そして、できることを探す』

 上司からのアドバイスが脳裏に浮かぶ。圧が強くて、正直苦手な人だったけど、言ってることは正しいと思う。

 右も左もわからない、多分異世界。これからどうなるか微塵もわからない。でも、今できることはあるはず。立ち上がって、周りを見ろ。そして、生きるために必要な水と食料を探そう。

「よし! まずは水と食料!」

 ぱん、と両手で顔をはたいて、勢いよく立ち上がった。記念すべき、異世界での第一歩!


 そこでようやく、異変に気付いた。


 空に”何”かが浮いている。

 頭の上からさらに1mほど上、半透明の丸っこいふわふわが、いくつかふよふよ漂っている。

『ヘンなニンゲンがやってきたー』

『ヘンなニンゲンだー』

『ヘンなふくー』

 しゃべった!? 音ではなく、自分の声みたいに脳内に直接声が響いたように聞こえた。

「な、なんだこれ!?」

 俺の焦った声に、ふわふわたちが反応する。

『……ヘンなニンゲン、ワタシたちがみえる?』

『タダのニンゲンが、ワタシたちのことみえるわけないー』

『みえても、きこえるはずないー』

 ふわふわたちはけらけらと笑うように漂う。

「いやいや、見えてし、何言ってるかも聞こえてるし」

 馬鹿にされてる気がして、思わず突っ込みを入れてしまった。すると、ふわふわの動きが激しくなった。

『みえてる! こえもきこえてる!』

『ヘンなニンゲン、スゴい!』

『きこえるニンゲン、スゴい!』

 ふわふわが俺の周囲をまとわりつくように飛び回る。

「ちょ、やめ!?」

 咄嗟に手で払おうとしたが、手をすり抜けていく。実体が無いのか?

 

「……あのー、そこで何をしてるんでしょうか?」

 ふわふわたちの声とはちがう、はっきりとした声が背後から聞こえた。

 振り返ると、子供が二人立っていた。

 一人は中学生くらいだろうか、金髪をおさげ髪にした少女。もう一人は小学生低学年くらいの、赤毛で短髪の子。きれいな顔立ちをしているが、男女のどちらかはぱっと見でわからない。

 おさげ髪の子は片手に籠を持ち、もう片手で赤髪の子の手を引いている。

「え、あの、その……こ、このふわふわは何かな?」

 めっちゃキョドってしまった。そして、女の子からはめっちゃ不審な目を向けられてしまう。

 だよね、うん。元の世界だったら間違いなく不審者だよ俺。事案だね。

というか、相手と普通にしゃべって意思疎通できている。明らかに日本語じゃない言語なのに、すんなり理解できて、すんなり言葉がでてきてる。ひょっとして、これが創造神の言っていた特典なのか?

「……ふわふわって、なんのことですか?」

 籠を体の前に置き、年下の子を背後に隠しながら少女が答えてくる。うわあ、めちゃくちゃ警戒されてる。気持ちはわかるけど、つらい。

「いやだから、このふわふわして漂っているやつ」

「……ひょっとして、精霊が見えているのですか?」

 精霊!? 精霊と来たか!

「……え、お前ら、精霊なの?」

 ふわふわたちに問いかけると、ふわふわたちは更に騒がしくなった。

『そうだよ、ニンゲンたちはワタシたちを“せいれい”ってヨぶんだー』

『ワタシたちは“かぜ”だよ、ふきぬけるんだよー』

 なるほど、風の精霊ってことか。だが本当かぁ?

『む、しんじてないなー』

「じゃあ、試しに、ここで風とか起こしてみせてくれないか?」

『いいよー』

 俺が指さした先で自称風の精霊たちが集まってくるくる回りだすと、途端に旋風が沸き上がった。風でちぎれた草花が舞いあがっていく。

「おお、すげえ! すごいなお前ら!」

『でしょでしょ』

『えへん』

『ワタシたち、えらい、すごい!』

 俺の言葉で調子に乗ったのか、ふわふわ改め風の精霊たちは更につむじ風を強くしていく。

あまりの風の強さに、少女らが悲鳴を上げてその場でうずくまる。

「わああ、やりすぎ! ストップストップ、止めて!」

『はーい!』

 俺の要望に素直に応じる精霊たち。つむじ風が途端に収まる。つむじ風の中心付近は、軽く地面がえぐれていた。


「君たち、大丈夫!?」

 うずくまった子らに声をかけると、小さいほうの子を守るようにしてうずくまっていた少女が顔を上げた。

「は、はい……」

「ごめん、怖がらせたね。立てる?」

 手を差し出すと、少女は素直に手を取ってくれた。

「かごが……折角薬草を摘んできたのに……」

 どうやら、さっきまで手にもっていた籠が風で中身ごと飛んでいってしまったようだ。悪いことした。

「ちょっと待ってね……なあ、この子の籠、どこにいったか分かるか?」

 精霊に尋ねたら、即レス。

『わかるよー』

「風でここまで運んでくれないか? あと、籠から飛び散った薬草も集められないか?」

『はーい、おまかせー』

 再度風が吹き、遠くで籠がふわりと舞い上がって近づき、そしてゆっくり落ちてきた。先ほどの暴力的な風とは違う、やさしい風だ。

 飛び散った草も次々と籠の中に納まっていく。

風の精霊、器用だな!?

『えへん』

 なんか偉そうにしている風の精霊。

精霊が見えたり、話ができるこの能力、おそらくは自称創造神の言ってた“特典”なんだろう。まあ確かに便利そうだ。


 呆然とした顔の少女たちに素直に頭を下げる。

「ごめんね、迷惑かけちゃったね」

 少女はぶんぶんと顔を振りながら、やや興奮した様子で俺に問いかけた。

「……い、いえ! あの、今の、精霊がやったんですか?」

「あー、そうだね、そうなるね。」

「じゃ、じゃあ、おじさんは精霊使いなのですか!?」

……“おじさん”はショックすぎる。

「えーと、“おにいさん”はね、精霊使いってわけではないと思うけど、精霊のことは見えるし、話すこともできるみたいなんだ」

少女に答えながら、おじさんではないという精一杯のアピールを少女にしてみる。

 少女は何かを思いつめるような表情で籠を見ていたが、不意に顔を上げて俺に言った。

「あの、お願いがあります! 村を、みんなを助けてください!」

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