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第18話

「ムギ、足止め頼んだ!」

『はい!』

 俺の指示に、ムギが大地に触れて新たな人形を立ち上がらせる。今度は、全身を硬い岩石で固めた石人形。人よりも大きな体躯のものが、同時に4体。

 想像以上に、ムギの力が向上している。


 石人形たちは、ムカデにぶつかり、首根っこを摑まえるようにして抑え込む。

 ムカデたちは、ふるい落とそうと酸をまき散らすが、土人形より耐久性が向上した石人形たちは、何とか耐える。とはいえ、石人形たちだけで、倒すのは難しそうだ。

 だが、石人形はあくまで時間稼ぎ。本命は、別だ。


 フーとミーズがかき集めた頭上の黒雲から、スコールのような雨が降り出した。すさまじい雨脚で、視界さえ白く霞む。そして、頭上でフラッシュのような閃光が走り、間髪入れずに轟音がとどろく。


 よし、お膳立ては整った。ずぶ濡れのまま、俺は切り札に向かって叫ぶ。

「クロマル!」

『お任せあれ!』


 クロマルが不運の精霊だ。力をつけた今なら、その不運を相手に押し付けることが出来るはず。そして、この状況における最大の不運は……


 より深くつながったせいか、クロマルの行動が見える、何をしようとしているのかが分かる。

クロマルは、目前で石人形と絡み合っているムカデたちを、視界にとらえた。そして、視線にこめられた理外の力で、相手に災厄を招き寄せる。

『落ちちゃえ!』

 頭上の暗雲で、紫電が走る。刹那、視界いっぱいに広がる光と、耳をつんざく爆音。

 雲の中で蓄積された電気エネルギーが、落雷となり、精霊喰いたちを撃った。


 視界が回復したとき、最初に感じたのは焦げ臭さ。雨のベールの向こう側で、石人形と絡み合ったままムカデたちが黒焦げとなって煙を上げている。

 だが、ただ一体だけはまだ動いていた。

 ひと際大きな個体、焦げて分かりにくいが、きっとクーとムーを喰った、あの赤黒いやつだ。

『まだ生きてる! しつこいってーの!』

 クロマルがいらだちの声を上げる。

 全くもって同意だ。

 だから、もう一撃を加えて、終わらせよう。

「ムギ、もう一度足止めを!」

 俺はムギに石人形での足止めを指示しながら、落雷でくすぶる地面に目を凝らす。


 落雷の瞬間から、視界の隅にかすかな燐光が見えていた。先ほどの落雷の紫電の色に似た、淡い光。その光を纏った、小さな獣がいた。

 落雷の跡にうずくまる、猫のような、狐のような獣。

「お前は、雷の精霊だな?」

俺の問いかけに、獣はかすかに頷いた。

「俺は洋平だ。雷の精霊、俺と契約してほしい。俺の力をやる代わりに、あの精霊喰いを倒す手助けをしてくれ」

 落雷から生まれたのなら、クロマルのように、僅かな時間しか存在できない精霊かもしれない。だから、この取引に乗ってくれる気がした。

『……わかった』

 商談成立。

「よし、お前の名前はライだ。ライ、俺の手を取ってくれ」

 ふわりと浮き上がったライが、お手をするように俺の掌に前足を載せる。

俺の血に触れ、ライとの繋がりが生まれる。後は、ムギたちと同様に、力のありったけを流し込むだけ。

『うぉぉぉ!?』

雄たけびのような声を上げ、ライの体が変化する。四足獣から、耳と尾をもつ獣人の姿に。

「ライ、お前の雷で、あいつを今度こそ焼き尽くせ!」

『承知した、ヨウヘイ』


“豪”とライが吠える。

それに呼応して、暗雲から稲妻が轟いた。今一度の雷撃は光の柱となって、石人形ごとムカデに直撃する。その衝撃で視界は白く染まり、俺の体は吹き飛ばされて転がった。


「いててて……」

 立ち上がって見ると、ムカデのいたあたりクレーターのようになり、ムカデたちの黒焦げになった残骸が散乱していた。


『どうだ、お望みどおり、焼き尽くしたぞヨウヘイ』

 獣人姿のライが腰に手を当ててにやりと笑う。

 俺は無言で親指を立ててそれに応える。

 頭上で、戦いが終わったことを察したフーとミーズが、雲を散らしていく。暗雲から一転、夕焼けに赤く染まった空が広がっていた。


(クー、ムー。仇はとったよ)

 赤銅色の空を見ながら、俺は心の中でつぶやいた。

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