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第12話

「実のところ、この村以外の領内の村々でも、精霊の異常は発生していた。グラフ様の指示を受け、我々が調査したところ、この村近くの森の先、古くはエプトと呼ばれた山に原因がある、と判明したのだ」

 エレナが出した茶を飲みながら、カレンは説明する。

「エプトっていうのは、この森の先にある山の名前ですか?」

「ああ、その通りだ。ルイの話では、“精霊喰い”と呼ばれる魔獣が住み着いているのではないか、ということだ」

カランが顎で示した先では、ルイが出された茶をふうふう必死に吹いて冷ましている。猫舌らしい。

「あの、ルイさん?」

「なんだよ?」

「精霊喰いって、どんな姿をしてるんですか?」

「お前、そんなことも知らないのかよ……」

 半分小馬鹿にしたような口ぶりだが、ルイは説明してくれた。

 曰く、“精霊喰い”は、年を経た獣が変化したもので、通常の食べ物だけでなく精霊を食べるようになったものの総称。そのため、姿かたちは元になった獣に準じるが、大抵は元の獣よりも大型化する。知恵を得て、分別を持つ個体もあるが、多くは攻撃的。精霊を食べるだけでは飢えが満たされず、時に他の獣や人を襲って喰う。

「どうしたらいいんです、そんなの?」

「退治するにきまってるだろう」

 こともなげに言い放つルイ。

「どんなに力を持とうと、ただの生き物だ。首を切るなり、心臓をつぶすなりすりゃ、死ぬさ」

 そりゃ、そうだが。そんな簡単にいくものか?

「はっはっは、心配すんな、あのカランが一緒なんだぜ? 竜相手でもなけりゃ、遅れはとらないさ」

いや、そうはいってもねぇ。

「カラン様はすごいんですよ、ヨーヘイお兄さん!」

 お茶を注いでいたエレナは力説する。

「たったおひとりで、北の境からやってきた亜人の群れを押し返したり、ムシナ村に出た火を吐く魔獣を打ち取ったり、すごく、すごいんですよ!」

 興奮気味に話すエレナに、カランが苦笑いする。

「いやいや、北の境を超えてきた亜人には、他の従士たちも参列し、皆で立ち向かったのだ。ムシナの魔獣も、吐いたのは火でなく毒気の混じった酸の類だったしな。そんな大層なものではない」

 それにルイが呆れたように応じる。

「とはいえ、一番強い亜人達の長は一騎打ちで仕留めたし、魔獣もたった一人で首切り落としたのは事実だろ。十分に大層だよ」

「……まあ、そうかな」

 少しはにかむカラン。

 うーん、この人、とんでもなく強いのか?

「おほん。ともあれ、だ。我々としては、領内の精霊の不調を取り除くため、エプト山に赴き、“精霊喰い”を排除したいのだ。ついては、君に助力を頼みたい」

 カランは俺の目を見て言った。




「……さて、どうしたものか」

 断るわけにもいかず、俺も同行することに決まった。

メンバーは、カランにルイに俺、そして道案内役でハンス。

さすがに即出発、というわけにもいかず、今日はゆっくり休んで、明日の早朝出発することとなった。

「ううむ……なあムギ」

『なんでしょうか、ヨウヘイ様』

「俺たちで、“精霊喰い”に勝てると思う?」

『正直、ヨウヘイ様と精霊の力だけでは厳しいかと。ですが、あのカランという剣士の力量は目を見張るものがありますから、あるいは』

 ううん、やりようはある……のかな?

創造神の言葉を思い出す。


『“精霊食い”には気を付けなさい。今のままだと、死は不可避。挑むのなら、戦う手段を用意すること』


戦う手段……カランがいれば、何とかなるのだろうか? 俺が精霊たちの力を使って、後方支援に徹し、カランがとどめをさす、そんな形でいければいいが。

大丈夫なのだろうか、不安は残る。

『それよりも、ヨウヘイ様。今のまま山に行きましても、私やミーズの力は使えませんよ?』

「へ!? なんで!?」

『クーやクロマルたちと違い、私たちは村の土や井戸を起点に力を振るっています。森までは届きますが、山は、あまりに遠いのです』

 ムギの横で、ミーズがうんうんと頷いている。

 マジか!? それは死活問題だぞ!?

『ご安心を。方法はございます。畑の土か、石をお持ちください。それを媒介にして、御力添えができるかと思います』

『うむ、私の方は、井戸の水を革袋にでも入れて持っておくがよい。少量で構わないぞ』

 おお、助かった……特に、ムギの能力は、先の悪狼戦でも役立った。使えないと、致死率がストップ高になりそうなんで、まずは一安心。

「……よし」

 改めて、戦いをイメージする。

 まず、クロマルの力で相手の奇襲を察知。そして、精霊喰いがあらわれたら、ムギの土人形を使って牽制と拘束。クーたちの力で矢を飛ばして、目など相手の急所をピンポイント攻撃。矢が効かなくても、拘束さえできれば、魔獣の首を落としたというカランが止めを刺してくれはず。

うん、いける気がする!

「よーし、みんな、明日はよろしく頼むぜ!」

 精霊たちに声をかけると、皆がそれぞれの挨拶を返してくる。

 その頼もしさに安心を覚え、俺は就寝した。

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