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第103話(終)

「驚いちゃったよ……あの土壇場から、世界を救うなんてさ。まったくもう!」


 俺の目の前では、赤毛の女が何故か怒っていた。思わず聞いてしまう。

「いや、なんで怒ってるんだよ。こっちは世界救ったんだろうが」

「そりゃそうだけど! そこに感謝はしてるけど! ただ、リセットする気満々だったところに、こっちの思惑を超えたことやられると、神の沽券に関わる気がするんだよ!」

 知らんわ、そんなん。

 

 俺は、だらりとパイプ椅子にもたれかかる。

「で、どうすんの、これから。俺、今度こそ死んだんだろ?」

「まあねー」

 創造神は、あっさりと認めた。そう言われると、やはりへこむ。

 そっかー、また死んだかー。

「洋平君は、どうしたい? 何なら……ここで私と一緒に暮らす?」

 創造神が頬に手を当てながら、くねっとしたポーズをとる。

 ……どうやら、俺は相当嫌そうな顔をしたらしい。

「……傷つくなー」

 創造神は頬を膨らませた。


 まあ、選択肢がないなら、それも吝かではないのだが。

 だが、どうしたいかを問われれば、答えは決まってる。


「あの世界に戻して欲しい」


「元の世界じゃなくて、いいの?」

 ああ、今更そちらに未練はない。それよりも、精霊達と、シュナ村の人々が暮らしているあの世界がいい。

 あの世界で、生きたい。


「そっか……まあ、私の世界だもんね。魅力的なのは、仕方ないかー」

 冗談めかして創造神は笑いながら、するりと俺に顔を近づけると、頬に口づけした。

「な……っ!?」

「はい、これで命の再付与は終了。多少手を加えたけど、まあ大丈夫だと思うよ」

 創造神は悪戯っぽく笑う。なんだか、見た目相応の少女のようだ。


 俺は、そっと手を差し出す。創造神は、少し驚いたような顔をした。

「……なんだかんだ言って、世話になったよ。あんたの御蔭で、人生が、より良いものになった気がする」

「うん。こちらこそ、私を……私の世界を救ってくれて、ありがとう」

 創造神が俺の手をとり、握手する。

「それから……小さい私と、お姉ちゃんをよろしくね」

 赤毛の少女は、少しだけ寂し気に笑った。俺は頷き、その手を強く握った。


 星の終わりから星の始まりまで、長い歴史を幾度も繰り返してきた少女は、知らない未来を得た別の自分に、何を思うのだろうか。

 俺には分からないが、ただ、その願いは守りたいと思う



「それじゃ、あとは御婆ちゃん、お見送りお願いね」

 気が付けば、霧の魔女が横に立っていた。

「……あんたの方は、その、何か、誰か宛ての言伝とか、ある?」

「ふん! ないよ、そんなもん。あったとしても、私ゃ、自分の口で言うよ」

 俺の問いかけに、老婆は憤慨したようだった。

 うーむ、余計なお世話だったか。


 最後に、創造神は手を振りながら、俺に告げる。

「じゃあ、近々、また世界がピンチになると思いんで、その時はまたよろしくねー!」



「……ちょっと待て! またピンチって、一体……!?」

 創造神に突っ込みを入れようと、身を乗り出した瞬間、空に向かって手を突き出している自分に気づく。


 ん?


 青い空を見上げながら寝転がっている自分に気づき、起き上がる。


 あたりを見渡すと、見知らぬ砂浜だった。白い砂に、高い気温。じりじりと照り付ける日差しは熱い。あたりには、ヤシっぽい植物まで生えている。

 南国だ、これ。


「ヨウヘイ様!」

「のわぁ!?」

 不意に誰かに抱き着かれて、横に倒れる。

「な、何!? 何なん!?」

 何事かと見れば、ムギが俺の首に縋り付いている。

「よくぞお目覚めに! ああ、一日千秋の思いでお待ちしておりました!」

「こらぁ! 勝手にくっつくなぁ! 離れなさいっての!」

「そうだ! ずるいぞ、ムギばかり!」

 クロマルとホノーが、ムギの首根っこを掴んで引きはがそうと必死だ。


「ど、どうなってるんだこれ!?」

 なんで、ムギたちが実体化してるんだ!?

 すると、ムギとは反対の方からぬっと現れたミーズが、説明してくれた。

「うむ……仔細は分からぬが、我ら皆目覚めたときには、このようになっておったのだ。ああ、もちろん以前のように実体のない精霊の姿にもなれるぞ」

 そして、ぽんと、以前の小さい姿に代わり、また戻る。

「ええ……なにそれ……」


「オトワ・ヨーヘイと“融合”した余波だろう。皆、精霊としての力が、随分と強くなったようだな。土地にも縛られず、独立している」

 浜辺の向こうから、ずい、とオロチが顔を出す。その頭頂部には、ライとフーが乗っかっている。

「……ヨーヘイ、起きた?」

「ねーねー、ヨーヘイ! このあたり、ずっと海岸だったよー」


 みんな、無事だ。その事実に、喜びがあふれて口元がゆるむ。


 ミーズも加わり、三人がかりでムギが引きはがされると、俺はようやく立ち上がることが出来た。


 いずことも知れぬ南国の浜辺で、俺一人……いや、精霊達がいるか。

「さて、と。これから、どうしたもんかな……」


 俺がつぶやくと、ムギがすすっと体を寄せてくる。

「私は、ヨウヘイ様の御側に居させて頂ければ、それで十分です……」

「だから、抜け駆けすんなぁ―!」

 クロマルが、ムギの腕を掴んで必死で引っ張るが、微動だにしない。

 その様子に笑いつつ、俺は両手で頬をぱしりと叩いた。


「ま、考えても仕方ない! 行くとするか!」


「行くって……どちらにです?」

 ムギの問いかけに、俺は答える。

「決まってる。シュナ村に帰るのさ」

 創造神にお願いされた件もあるし、食べられなかった弁当についても、謝りたい。


 やるべきことが多すぎて、こんなところで立ち止まってはいられない。


 少しでも動いて、歩いて、迷って、道を見つけていくしかないんだ。

「さ、皆で行こうか!」

 俺の呼びかけに、ムギが、ミーズが、フーが、クロマルが、ライが、ホノーが、オロチが笑って頷く。

 どれだけ時間がかかっても、皆となら、きっとたどり着ける。


 俺は、歩き始めた。

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