表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/103

第102話

 7月1日の正午頃のことである。


 シュナ村の外れで、沈痛な面持ちで、空を仰いでいる一団があった。多くの村人は、何事かと訝しんだが、麦の収穫に忙しく、声をかけることは無かった。


「そろそろかのぅ」

 太陽の位置を見ながら、テトは独り言ちるように呟いた。その直後、西の空を監視していた、ルイが叫んだ。

「見ろ!」

 指が示す先、蒼穹に尾を引き落ちる赤き光が見えた。

 そして、その光は次々に、空に浮かび、流れていく

 多くの民草ならば、凶兆と恐れおののく、白昼の怪しき火の群れだ。だが、空を仰ぐこの一団は、知っていた。

 それは、砕けた星の欠片が、地に落ちていく証だと。この世界が、救われたことの証左になるのだと。遠く彼方へ旅立った一人の精霊使いから、聞き及んでいた。


「本当に、やってくれた……世界を、救ってくれたのだな……」

 無数の流れる火球を見上げながら、ミシズは涙ぐむ。

「……あいつの虚言に、突き合わされたんじゃなくて、良かったぜ」

 そんな毒の含んだ言葉を吐きながらも、ルイは晴れやかな顔であった。

「私にはよくわからぬが、これがあいつの仕業というなら、大したものだ。白昼に星を降らすなど」

 カランは感慨深げに空を見つめ続ける。

「そうじゃのう。帰ってきたら、盛大に迎えてやらねばな。この世界の救い主なのじゃからな」

 テトも、晴れ晴れと笑う。


 夏の空を流れた白昼の火に、世界中が驚き震える一方、シュナ村に集った彼らだけは、笑顔でこれを見送った。


 そのころ、村の中心部、井戸のある広場にいたエレナとジルもまた、空を見上げていた。

「なんだろうねあれ……怖いね……」

 少女は不安から、妹の手を少し強く握り占める。

 ジルは、呆けたように空を見上げていたが、不意にくしゃりと顔を歪ませた。

「……ぁ……ああああぁぁぁっ! あー! あああー!」

 堰を切ったように、泣き、叫ぶ。頬を大粒の涙が流れ落ちていく。

「ど、どうしたのジル!? 大丈夫? どこか痛いの!?」

「ああー! あー! ああああっー!」

「大丈夫だよー、お姉ちゃんはここにいるからねー」

 エレナは、妹を泣き止ませようと抱き締め、頬を寄せながら、ジルの赤毛の髪をなでさする。

だが少女には、精霊と共感する妹が、生まれたばかりの隕石の精霊の死を悼んで泣いているなど、知る由も無かった。


 世界が終焉を乗り越えたことを、殆どの者達が気づかず、日常が続く。

 そして、シュナ村では、少なくない人々が、旅立った一人の精霊使いは帰るのを、待っていた。


 けれど、半月が過ぎても、彼らの待ち人が帰ってくることは無かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ