第101話
意識を取り戻すと、全身を苦痛が襲う。だが、まだ生きている。
俺は、伏していた大地から身を起こす。いや、これは大地ではない。隕石だ。
よく見れば、いつの間にか俺は表層部にいた。いや、これは表層部ではない。爆発で、空洞が吹き飛び、外に露出したのだ。
空を仰ぎ見ると、彼方に大地=惑星が見える。創造神の言った通り、隕石の大部分はまだ衝突コースをとっているようだ。
立ち上がろうとして、力が入らず膝をつく。
体は、至る所が傷つき、ぼろぼろだ。俺の中の精霊達の意識も希薄になりつつある。
それでも、まだ誰も諦めていない。まだ、戦おうとしてくれている。
そのことが嬉しくて、戻ってきて良かったと、心の底から思えた。
膝をついたまま、隕石の表面に手を触れる。
熱線を放とうと試すが、それだけの余力はない。大地との距離が近づくほど、創造神とのリンクが強固となって、多少の力は戻ってくるが、間に合うかどうか。
……くそ、創造神の生と死の力で、無生物を殺すことが出来れば。
そう考えた時、存在しない心臓が、どくりと鼓動を打った気がした。
創造神の力は、命を与え、そして殺す。
無生物に命を与えたものが精霊で、そして精霊を殺すことは出来る。
外の星から来た存在に、創造神の力は及ばないという。だが、月周回軌道内の、この領域でも、そうなのか?
一か八か。最後の最後のこの瞬間で、もはやためらう余裕もない。
俺は両手を隕石に押し当て、力を送る。
ルイを生き返らせた時のように、エレナの目を癒した時のように
可能かどうか分からない。ただ、信じるだけだ。
俺が、送り続ける暖かな力を受けて、何かが育まれていく。遠い彼方から来た存在の象徴、形の無い何かが、この世界に生まれ落ちる。
沸き上がった微かな光が、ゆっくりと姿を得ていく。
『……』
隕石の精霊が、生まれた瞬間だった。
まだ何も知らず、小さな命は、この世界を認識していく。
『……?』
隕石の精霊は、戯れるように、俺が差し出した掌の上を踊る。
こいつが成長して、俺達と対話し、友になることもあるのかもしれない。だが、それには、時間があまりに少ない。
(……ごめんな)
俺は、謝罪と共に両手で隕石の精霊を包みこみ、死の力を送り込む。
『……ッッ!?』
声なき断末魔の叫びと共に、隕石の精霊が四散した。
同時に、隕石に亀裂が走り、崩壊していく。無数の破片となり、宇宙空間へ巻き散っていく。
俺の体も、その欠片と共に、宇宙へと投げ出される。
体を動かそうとしても、指一本動かせない。くそ、ぶっつけ本番で、死の力を使うなんて、やはり無茶だったか……
だが、満足感はある。ここまで砕けば、多少地表に落ちても、被害は少ないはず
俺は、やってのけたのだ。
段々と意識が遠のき、消える。最後の瞬間、俺は心の中で呟いた。
(見たか、創造神……)