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第100話

 両腕のシールドマシンをフル回転させて、突き進む。

 どれだけ掘り進んだのか? あとどれだけ余力がある? そして、残り時間は?


 焦りが募るが、意識の片隅で、正確に事態を推し量っている誰かが、『まだ大丈夫』と教えてくれる。

 不意に、ドリルの感触が変わり、俺の体が突き抜けた。


 そこは、巨大な空洞だった。“竜人”形態の巨体が入っても、狭さを感じない。


 ライの力で、周囲に電磁波を放射し、その反射で周囲の様子を探る。

 はっきりとは分からないが、表層部から中心に向かって半分ほどの地点に、直径20km程度の巨大空間が広がっている。

 そうか。この隕石の内部構造は、均一でなく、空洞があるのか……

 もしも、こんな空洞が他にもあるなら。思いの外、脆いかもしれない。


 なら、ここが賭け時か。


 俺は、空間の最奥部で停止し、腕を交差する。

 まず、翼が解けて、無数のくさび状に分裂する。まるで衛星のように、翼片は俺の周囲を浮遊する。そして、表皮に纏わせ、鎧としていた精霊石が発光し始め、開放を待つ。

俺は、全身の隅々にまで意識を集中する。俺の中の、すべての力を外向きに、放出するために。

 俺の全質量の殆どを、衝撃波に変換する。全身を爆弾にするのだ。その衝撃波と連鎖して、残ったすべての精霊石が、爆発・飛散する。


 生き残れる保証はない。

 だが、やれるだけのことはやると、決めたんだ。


 俺の中で、七体の精霊達が頷き、触れてくれた気がした。俺の意識をそっと撫でるような暖かな手触りに、少し泣きそうになる。


 だから、恐怖はない。

 俺は、力を開放した。“竜人”の姿が解けて白熱光と変わり、世界が真っ白に塗り替えられた。



 ……唐突に眠りから目覚めた時のように、俺は自分を認識する。

 尻から伝わる、パイプ椅子の薄いクッションの感触。そして、目の前にいる、赤毛の女。

「やあ、洋平君。ご苦労様」

 創造神は、にこやかに笑う。

「……なんで、俺はここに? 隕石は、砕けたのか?」

 俺の問いかけに、創造神は肩をすくめる。

「んーとね……どう説明しようかなぁ……結論から言うとね。隕石は完全には砕けなかったよ」

 創造神は、手中のミニ惑星を掲げながら、俺の意識に映像を送ってきた。


 月周回軌道の内側を秒速12kmという速度で駆ける、隕石の姿が見える。

 だが突如、隕石の前方部分が破裂したように砕けて、いくつかの欠片に分裂した。


「洋平君の頑張りでね、隕石の前半分は破砕できたよ。ただ、後方半分……全体の質量の60%ぐらいかな。これがまだ、星への突入コースにある」

 飛翔を続ける後方部分の表面に、ぼろぼろになった“竜人”形態の俺が、張り付いている。

「俺は……死んだのか?」

「いんや、まだ生きてる。でも、わざわざ死の苦痛を味わうことはないからね。意識だけをこっちに連れて来たんだ」

 死の苦痛……

「うん。あの60%の質量でも、世界が滅ぶには十分だ。今回も、失敗だね。だから、リセットするよ」

 こともなげに、創造神は告げた。

「ここに居れば、死の苦痛を感じることは無いよ。眠るように、意識が薄れるだけだから」

 いきなり、頭に霞がかかったように、重くなった。眠りの落ちるときの前触れのように、思考が回らなくなる。

「残念だけど、仕方ない。時が来たら、また会おうね」

 意識が遠のく。

 強い倦怠感に、このまま沈み込んでいきたい、という思いが募る。

 だが……それを上回る怒りが、俺を突き動かした。

「……ふ……」

「ふ?」

「ふざけんなぁッ! 俺を、戻せ!」

 激怒と共に、言葉を吐き出し立ち上がる。

「戻ってどうするの? 君は力尽きかけている。何もできず、ただ死ぬだけだよ?」

「そんなもん知ったことか!」

 ただ安楽死させてもらうなんて御免だ。最後の瞬間に、後悔するのかも知れない。だが、今はまだ、前のめりに生きたい。

「もう手の打ちようがなくても、どん詰まりでも、最後まで、俺は戦いたい! あいつらと、一緒に生きたいんだ!」

 叫びながら、自分の胸を何度も叩く。


 自分でも何を言っているのか、なんでこんなに怒っているのか、分からない。

 だけど、どうしても、最後の瞬間まで、あいつらといさせてくれ。あいつらを、守らせてくれ。


「……分かったよ」

 創造神は、なぜか嬉しそうに笑った。いつものにこやかだけど空虚な笑いではなく、どこか温かみのある笑顔だ。

「前回も、似たような問答をしたっけ。君は、何度繰り返しても、だいたい最後は同じなんだね」

 創造神が指を振ると、途端に視界が狭まっていく。先ほどの眠りに落ちるのとは違う、まるで浮上していくような感覚だ。

「じゃあね、洋平君」

 ぶつん、と視界が途絶える。


 ……そして、俺は目覚めた。

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