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遊びに行く

 誕生日から数日。あれ以来本当に土地を貰ったという実感が湧かないまま、しかし嘘でも冗談でもなかったこの事実をなんとか受け入れた私はその土地をどうしようかひたすらお気に入りのキャラバルを手でプニプニさせながら考えていた。

 お婆様にもらったぬいぐるみはベッドに置いてあり、お父様に貰ったネックレスは起きてる時は身に付け寝る時は枕の横に置いてある。お母様にもらったキャラバルはお気に入りで起きているときも寝る前もよく手で触って遊んでいる。

 だが、お爺様にもらったセキホだけはどうにも持て余してしまう。好きにしていいと言うがどうしようもない。そもそもまだ実際に行った事がないのだから余計だろう。

 とはいえ、土地を貰うことになったのはどうやら過去の私が「広い場所で誰にも邪魔されずに遊びたい」と言ったのが原因らしいのでなんとか有効活用していきたい所存だ。

 「リーシャーン。おじいさまのくれたセキホにあそびにいきたいー。」

 「セキホにですか~?ん~、かしこまりました。皆様に話をしてきますのでお待ちください。」

 とにもかくにも場所を実際にみるのが1番だろう。

 そうして暫くしてリーシャンが連れて来たのはお母様とお婆様だった。

 「アイリス聞いたわよ。セキホに行きたいんですって?」

 「うん!そうなのー。おじいさまがあそんでいいっていってたからあそびたいの!」

 「それなら私とクラウと一緒に行きましょ。少し遠いからお弁当も持って。」

 「ほんと?やったーっ。」

 どうやら保護者として2人が来るらしいが1人で遊ぶのも限度があるので丁度いい。

 遊びに行くのは明々後日となった。







 雲1つ見当たらない絶好のお出掛け日和の本日、とうとう、というか漸くというか、セキホに行く。

 メンバーは私とお母様とお婆様とリーシャン、メイド10人護衛15人の29人だ。結構大所帯になったが貴族なのだし仕方ないだろう。

 お弁当もしっかり用意してくれてるらしく私は特に準備もなく母にもらったキャラバルを両手に抱えて馬車に乗り込む。乗馬はできないがパンツスタイルだ。

 馬車に揺られながら2時間強。セキホに着いた。

 馬車から降りて見渡すと町1つ分だけということもあり広大な野原が広がっていた。

 そう、森とかがあるでもなく川が1つあるだけの本当に何も特筆すべき点がない、広い野原だった。

 「ここがセキホー?」

 「ええ、そうよ。」

 「ひろいねー。」

 馬車から降りて体を伸ばしながら話す。

 お母様とお婆様も軽く体を伸ばしてることからやはり馬車は大変なのだろう。コルセットをつける文化がないのが救いだ。

 「お昼にはまだ早いから遊びましょうか。」

 「はーい!」

 お母様に言われ元気よく返事をして早速ボールを取ってもらう。

 キャラバルに魔力を流すのにまだ慣れてないが投げてくれる相手の魔力が残ってるから見易い。

 投げてくれたキャラバルをバウンドさせてから取ったりして両手で頑張って投げ返す。

 時折そこに別の誰かが加わってトリッキーな投げ方や取り方、キャラバルの中を別の魔法で満たしてくれたりと楽しませてくれる。

 特に護衛の1人としてきたルーカスは元々曲芸師を昔やってたらしくキャラバルをカラフルにしながら遊んでくれた。

 そうして遊ぶこと数時間。お腹が空いてきたので母と祖母の所に行くとメイド達がシートを広げてお昼の用意をしていた。

 「ごはんー?」

 「そうよ、お昼よ。アイリスも遊ぶのは一旦終わりにしてね。」

 「アイリス様。手を拭きましょう~。」

 「はーい。」

 遊んでいる時も側にいたリーシャンがいつの間にか濡れタオルを用意しており大人しく手を拭かれる。

 「たくさんルーカスに遊んでもらってたわねぇ。」

 「うん!きゃらばるがいろんないろにかわるの!すごかった~。」

 「ふふ。ルーカスは器用だからねぇ。」

 既に座っているお婆様は微笑ましそうに言ってくる。

 「おばあさまもすごかったよ?きゃらばるのなかでくるくるきらきらひかってたもの!」

 「ありがとう。」

 お婆様は魔法をキャラバルの中で回転させてくれそれが太陽の光に反射してキラキラと光っていたのだ。

 私も座ったところで「いただきます。」をしてお昼を食べ始める。

 お弁当の中身はシャキシャキ野菜のサンドイッチ、フルーツとクリームたっぷりのサンドイッチ、パテとレタス、トマトを挟んだベーグルサンドの3種類だ。更には具材の変化で種類をもたせている。そして水筒の中身はヴィシソワーズがはいっていた。

 取ってもらったサンドイッチをもぐもぐ食べながら昼からは何をして遊ぼうか考える。

 キャラバルで遊ぶのも楽しいがどうせなら広い土地を利用して駆け回りたいのだ。とはいえ物がないので隠れん坊はできないし鬼ごっこもどうせ手加減されるのが分かってるのでつまらない。ふと何かが頭を過った気がしたが直ぐに消えてしまったので分からない。

 「何か考え事?口の周りにソースが付いているわよ。」

 「……ん。」

 お母様がハンカチで拭いてくれる。

 「ありがとおかあさま。」

 ふといい匂いがして改めて意識が戻ってくる。周りを見渡すと微笑ましくこちらを見ながら昼食を食べるメイドや護衛に混じって火でカップを温めている人がいた。

 何をしているのだろうとジーと見ているとお婆様が教えてくれる。

 「スープを温めているのよ。アイリスのも温める?」

 「うん!あったかいののみたい。」

 「貸してごらん。」

 そう言いスープの入ったカップを受け取ると両手で包むように持ち目を閉じる。

 少しして湯気が立ち始め熱いから気を付けるようにと言って渡してくれた。

 ふーふーと息を吹き掛け飲む。

 「おいしー。」

 「良かったわね。」

 冷たいヴィシソワーズより温かい方が私の好みだ。







 お昼を食べ終え休憩した後、私はとある場所に向かう。

 「おや。アイリスお嬢様、どうなされたので?」

 「おうまさんみにきたの。」

 そう、馬だ。

 馬車を引いてきた6頭に護衛の乗ってきた15頭。計21頭の馬がセキホの道草を食べているのが離れて遊んでいた私の場所に見えたのだ。

 「おうまさんごはんおわったの?」

 「ええ、終わったみたいですよ。寝てる馬も居ますからね。」

 「そっかー。……ねねっ、さわってもい?」 

 「うーん、そうですなぁ。では此方へどうぞ。」

 少し考えてからゆっくりと移動する。

 「馬の後ろに行かないようにしてくださいね。驚いて蹴られてしまいます。」

 言いながら1頭の馬を連れてくる。

 「ゆっくり手を伸ばして優しく撫でてやってください。」

 「わかった。」

 そーと言われた通りに手を伸ばして鼻先を触る。

 少しひんやりした鼻にふわふわの毛が気持ち良く頬が弛むのを感じながら触り続けていると今度は馬の方が顔を摺り寄せてきて驚くも両手で抱きつくように撫でる。

 「この馬は他の馬達より賢くて気性の大人しい子なんですよ。」

 「かしこいうまさんなんだねぇ。」

 手を話すと軽く顔を摺り寄せてから離れていった。

 少し話してから本題に入る。

 「ねー、おうまさんにのりたいなぁ。」

 少し顔を俯かせ上目遣いで甘えた声でねだる。

 子供のこういう姿に大人は弱いと知識から得ていたのだ。

 間違っていなかったようで乗せてあげたいが自分では無理だからとお母様とお婆様に話が行くことになった。本当は知られると断られそうだからとこっそり来たので少し残念に思う。

 「もおっ、アイリスったら。勝手に走って行ったと思ったらそんなこと企んでいたのね。」

 「ほほ。食事中静かだったのはそれね。子供らしいじゃない。」

 お母様は予想通り少し怒り、お婆様は少し楽しそうだ。

 「とは言え私は今日は乗馬服じゃないからねぇ。難しいわ。」

 「私もスカートですし少し……。」

 2人とも乗るのに否定はしなかったが何分服装が悪かった。鞍は付いているが流石にスカートでは乗るのに抵抗はあるだろう。

 やっぱりお父様の空いてる日に乗せてもらうしかないのかとションボリしていると護衛に乗せて貰えることになった。

 幸い私はスカートだが下にスパッツのような物を履いているので問題はない。馬上にいる人にリーシャンが抱き上げて渡してくれ馬の上に座る。念のためと紐で護衛と私を括ったら完成だ。

 「それじゃあ動きますよ。」

 そう言って馬を歩かせてくれる。

 トットットットッと歩く馬に揺られながら見る景色は普段より高い位置で新鮮だ。風も気持ち良い。

 「おうまさんはしれる?」

 「走ると揺れますよ?」

 「だいじょぶー。」

 「かしこまりました。」

 リクエストすると馬を駆け足にしてくれた。

 一定のリズムで揺られながら風を切る感覚が楽しくてもっと、もっと、とお願いするたびに少しづつ早くしてくれる。

 最終的に走っている状態になった時は左右と後ろに3人の護衛が付いていた。

 「ねーっ。セキホのはしをぐるっとまわれるー?」

 風に負けないように大きな声をで聞いてみる。

 「かしこまりました。疲れたら言ってくださいね。」

 手綱を引き端の方まで行ってくれる。とは言え何処が境界なのか私には分からないけれど。

 何処まで行くのか気になったのか1人の護衛が近づいて来て周囲の護衛と何事か話した後に戻って行くのでお母様とお婆様に伝えに行ったのだろう。

 周りの景色が流れるのが早く、見るのに精一杯の私は最早周囲の出来事は関心から離れていた。

 トトットトットトットトッと揺れながら顔に当たる風が気持ち良く、少し目を細め僅かに見える馬の頭の上からの景色はとても綺麗だ。草原が太陽の光に反射してチカチカと光ってるようにも見え、頭上を飛んで行く鳥に気を取られ、次々と流れ形を変えていく雲を見るのが楽しい。

 広いといっても馬の足もなかなかに早いもので気づけばお母様達の元に戻ってきていた。

 「おかーさま!すごいんだよっ。くさがキラキラ~てなって、くもをおいこして、とりさんがいたの。」

 「随分と楽しんできたのね。」

 「とちゅうでかわをわたったんだけどおさかなさんがパシャってはねてたのっ。おうまさんもはやくてかぜがびゅんびゅんいうの!」

 メイドに降ろしてもらいながら両手で一生懸命話す。

 「おはながさいてるとこもあってね、ちょうちょがいたのよ。」

 お母様に抱きつき思い出しながらふふふ、と笑っていると手を引かれお昼を食べた所に座る。

 「お帰りなさいアイリス。」

 「ただいまおばあさま!おうまさんすごくはやかったのっ。かぜがびゅんびゅんいうのよ。」

 座ってお茶を飲んでいたお婆様に迎えられお母様にも話したようにハシャギながら話す。

 「お尻が辛くなかった?」

 「そんなことないよ!」

 「乗馬の才能がありそうねぇ。」

 「さいのー?」

 「上手になれることよ。確かに初めてにしてはとても楽しんだみたいだし、大きくなったら乗馬を嗜むのもいいかもね。」

 「うんっ。わたしおーきくなったらじょーばしたいわ。」

 お母様とお婆様が嬉しそうに話してるのに同意する。馬に乗るのはとても楽しかった。これで自分で乗れて好きに駆け回れたらとても最高だろう。

 興奮して熱くなった体にメイドの入れてくれたお茶が染み渡る。少し落ち着きを取り戻して用意されていたクッキーを食べる。

 「活発なのはいいけどお転婆娘にならなければいいけれど。」

 そう言ってクッキーを頬張る私の頭をお母様が撫でてくれる。

 気持ち良くて頭を摺り寄せると笑いながら更に撫でてくれる。

 温かな日差しに撫でてくれる気持ち良さ、馬に乗ってはしゃいだ疲れも相まって気がついたら眠ってしまっていた。







 目が覚めると自分の部屋のベッドの上だった。

 まだ少し眠たい目を擦り体を起こすと体が少し痛い気がした。

 気のせいかと思ったがベッドから降りて扉に向かう間にも少し痛むので恐らくは乗馬の影響だろう。幾ら楽しかろうと幼児の体にはキツイものがあったのだらう。

 とはいえ動けない程とかではないため気にせず扉を開けて部屋を出る。

 「アイリス様起きられたのですね。」

 「あい~。」

 「そろそろ夕食ですが食べられますか?」

 そう聞かれお腹が元気良く返事をする。

 「大丈夫そうですね。行きましょうか。」

 伸ばされた手を握って歩く。

 私が一番遅いかと思いきや中にはまだお婆様だけで驚く。

 「あら、良く眠れた?」

 「うん。たくさんねたよー。」

 「アイリスちゃん今日は楽しかったかい?」

 「とっても。」

 後ろからお爺様が入って来て抱き上げられる。

 そのまま任せていたら椅子まで連れて行って座らせてくれた。

 それから間もなくお母様、お父様とやってきて夕食が運ばれてきた。

 夕食時の話題は女性陣でセキホに行ったことだ。

 「なんだ、アイリスは馬に乗ったのか。最初はお父様と乗って欲しかったのだがな。」

 「仕方ないわよ。それにあなたとなら多分くたくたになってしまうわ。」

 「こんどはおとーさまとのるー。」

 「アイリスは良い子だなぁ。」

 「お爺様とも遊んでおくれ。」

 「うん!おじーさまともあそぶの。」

 和気藹々と夕食を食べ、入浴をすませ今日は寝る。

 とても楽しい1日だった。

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