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第一章

次の日の昼。

夕方にはまだ早いと言うのに眼鏡から待ち合わせの詳細のメールが届いた。

最近ハマッている缶チューハイを煽って、煙草に火を付ける。

二日酔い気味の頭を押さえてマメマメしすぎるそれを読むと、見慣れたコンビニの名前とその支店名、時間が丁寧に書いてある。距離のあるそこに行くにはぼちぼち準備をしないといけない。

私は台所から塩を取って風呂に向かった。乾いた洗濯物を何も考えずに一纏めにした籠からタオルを2枚。肩甲骨まである髪を纏めるためのタオル、体を拭くバスタオルは別な方がいい。

面倒くさいので湯舟は溜めずにシャワーにしておこう。

ふらふらとまだアルコールの残る身体を引き摺りつつ私は浄化の儀を行なう為に風呂場へ入った。



「あ、藤川さん!」


もじゃもじゃなくせ毛をピンと撥ねさせた背の高い眼鏡が昨日よりも緊張せずに話しかけてきた。「ども……」と挨拶もそこそこに、待ち合わせに指定されたコンビニの扉をくぐる。目指すはワンカップ。買い物籠に5、6本、安酒を放り込んでいると背後にから影が差す。


「お酒好きなんですか?」


うるせぇよ。何を返していいのか面倒くさかったのでまた適当に「あー」とか「んー」とか返しながらレジに向かうと買い物籠を取り上げられた。


「ここは僕に払わせて下さい」


照れくさそうに頭を掻いて彼はボソッと告げた。そう言うのであれば、と会計を任せると気の抜けた開閉音を通り過ぎ、ちらほら埋まっている小さめの駐車場で煙を吸う。

隅のスペースガードに寄りかかると、すっかりと暗くなった空を眺める。もう春に近付いてきたのに肌寒い。風で乱れた髪の毛を耳に掛けると右手中指の銀の魔除けがひんやりとした。

自動ドアが開く音がしたので顔を向けると辺りを見回していた眼鏡と目が合った。

彼は小走りで掛けて来ると「お待たせしました」と飲み物が入ってズシリとしたレジ袋を渡してくる。どうやらコイツは私を悪者っぽくするのが上手らしい。


「どーも。んで、君のウチはどんくらいかかるの?」


「直ぐ其処です。ほら、道路を挟んで左側に植え込みのあるマンションが見えるでしょう?あそこです」


珍しい。こういう場合は本人は疚しい気持ちがなくても無意識に家を隠そうと遠くを指定される傾向があるのだが、彼はどうやら違うらしい。「ふーん」とワンカップを開けて口を付けながら、そのマンションを上から下へと眺めた。……あー、あった。一発で分かるやつ。


「君のウチさぁ、道路側5階にある?」


「え!?ど、どうして?」


「そんで此処から見て右側の角部屋でしょ?」


「はい!そうです!」


「不動産屋からは何も聞かなかった?」


端末を取り出して、この地域の名前で限定して事件・事故を検索する。あんなに真っ赤なオーラを出してるものが巣食っているなら、多分殺人。上から何件か記事を開いていくと見つけた。ビンゴだ。


「ん。多分コレ」


情報過多で目を白黒させていた眼鏡にヒットしたまとめサイトの記事を見せる。


【2×××年8月27日 親子心中 〇〇区】


母子家庭の心中で、息子が母親に殺されていた。マンション名は伏せられているが外観は目の前の建物そのもの。他に目ぼしい事件も見当たらないので間違いないだろう。


「何処の階で起こったか書いてないですけど、多分5階ですよね……」


意味の無い質問は嫌いだ。否定して欲しそうな表情で上目でこちらを見られても、事実は変わらない。

少なくなったワンカップを飲み干して、一言。


「もう1本煙草吸ってからでいい?」

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