第二章
「怜人くんは頼りになる家族の方はいるの?」
「え……」
アルコールも飲み切ってしまいそうで口が寂しいと唇に触れていると、亮護が彼にポツリと話しかけた。
意図を理解した少年は何か言いたそうに頭の中で言葉を選んでいるようだ。
「君のお母さんと連絡を取っていたのは僕なんだ。こんな言い方は正直、どうかと思うけど……、人の話を素直に受け入れるタイプではないから……」
「昔は、母はあんなに過剰な感じじゃなかったんです。肯定はしなかったけど、僕の事を頭ごなしに否定する事もなかった」
少年は俯いて「それが忘れられなくて」と答えた。俯いて話すのが癖になっているのだろう、彼の表情は分からない。
先日の事件で亮護の少し家庭に触れたが愛されて育ったの男だというのが、よく分かる。行きたい大学に行かせて貰えて、息子や自分が陥った危機を解決した人物がいれば当然のように感謝する。子供の為に心を砕く事が出来る親を持った人間には少年の言っている事は本質的な意味で理解出来ないだろう。なんと応えようか、と彼は戸惑っていた。
私はぼんやりと二人のやり取りを見てアルコールをストローで吸う。いつの間にか飲み切ってしまったパックの中身は空で細い空気の音が出る。くしゃりと片手で潰して亮護が買ってきたレジ袋に突っ込むと買い込んだアルコールが残り少なくなっているのに気が付いた。気分が落ちる。
「煙草が吸いたい」とイライラしつつも、信号が青を示したので横断歩道を渡る。血まみれのスーツの男を通り過ぎて暫くしてから自分の中で纏めた仮説を口に出した、此処ならきっと聞こえない。
「私が思うに、君の母親は【視える側】なんじゃない?」
右に曲がって直進すれば、先程と同じ名前のコンビニが左手に現れた。まだ開けていないパックの鬼殺しを持っていろ、と亮護に押し付けて、同じチェーンなら何処でも一緒だと空っぽになったアルコール達を纏めた袋をゴミ箱に捨てる。有難い事にスタンド型の灰皿も設置してあるので、此処で一服させて貰おうと煙草に火を付けた。
「顔合わせの時も、普通の人間が聞こえない音が聞こえてた。君の力は遺伝なんだと思う」
私に合わせて足を止めた二人の目が見開く。フゥ、と深く肺に煙を入れて自分の思考をぐるりと一巡した。
「そんな事……僕一度も聞いた事ないです」
驚きを隠せない少年の声は少し震えていた。それならば今まで否定されてきた事はなんだったのか、と。納得がいかない、理解が出来ないという心境をしているのが、彼の複雑な表情を見るとよく分かる。
息を吸い込むとジッと火の爆ぜる音が煙草から微かに漏れた。




