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第二章

「で?いつから?」


「え?な、なに?」


「いつから視えるの?」


フゥ、と煙を吐き出してウエストポーチを探る。……携帯灰皿あったっけ?

吸い殻やマネークリップで纏めたお札、小銭でごちゃ混ぜのポーチをゴソゴソと探っていると少年から視線を感じる。


「僕の事、信じてくれるんですか……?」


「んー」


あぁ、あった、あった。

外ポケットから、不格好にひしゃげた携帯灰皿を救出して中に灰を落とす。


「お姉さんも、黒が視えました?」


「……黒?ん、あぁ、さっきの。まぁ……」


先程の小さな影は一般的に霊と言われるものとは違う。所謂妖怪やお化けと言ったところか。

黒いタイトスキニーの膝に肘を付けた猫背の姿勢から、ベンチの背もたれに腕を回しチラと後ろを見る。

小さな囁き声と、時折得体の知れないかが走り抜ける音がした。此所は【そういった者】が集いやすい場のようだ。


「いつから、と聞かれても分からないんです。僕にはずっと一緒にいた存在みたいなものですから、それが普通だと思ってました」


ーー見て、見て!お母さん!お友達が出来たの!紹介するね!……お母さん?


脳裏に母との遠い日の記憶が蘇る。

幼い私が目に見えない友達を連れて行った時に見せた能面のような母の顔が。


「母にどんな事を言われました?」


煙草を吸って何も言わない私に、少年は躰を少し此方に傾け「予想はついているから素直に言ってくれ」と問いかけてきた。

正直悩んだが、既に本人の耳に入っているだろうと一部だけ伝える事にする。


「……悪魔の子」


オーメンかっての、馬鹿らしい。此所は日本だ、と天を仰げば、もうすぐグズりそうに黒い雲が空いっぱいに広がっている。


「そう、ですよね」


「気にするな、てのも無理な話だけど。君はもう少し視えないふりをした方がいい」


公園内にある滑り台の後ろから此方を覗いてる大きな影を目線で示せば、彼はギクリと固まった。


「その辺の魑魅魍魎とは違う。君の事をさっきからずっと見てるけど、心当たりは?」


よく見ると躰中に目があるソレはニタリニタリと嫌な笑みを浮かべている。

気付いていないふりをして、目を合わせないようにして少年に話し掛けると俯いてガタガタと震えるだけで答えない。

あーぁ、今回は除霊なしでいけると思ったんだけどなぁ……。

マジで此処に来るまで何も考えてなかったので、いつも武器にしてる警棒はなし。それに加えて得意ではない分野の怪異相手。


「君の家族に影響を与えているのは多分アイツ。ボコボコにしたらどんな影響が出るか分からないけどいい?」


立ち上がり伸びをする、身内の言質を取らない内は動けない。

返事を待ちつつ爪先でトントンと地面を確かめる。砂はそんなにないので滑りにくいみたいだ。

百々目鬼か、目々連の類か?と思ったが、纏う雰囲気が違う。

どうやら彼方も此方が撃退の意向がある事を悟ったのか、ズ、ズズ……、と滑り台の影からゆっくりと出てきた。


「怜人……れいとぉ……」


真名も知られてるって訳ね。私の名前じゃないからいいけど。


「で、どーする?」


判断は早くしろ、と少年に尋ねれば下を向き頭を抱え「助けて下さい」と繰り返していた。

まぁ、言質としては十分か。


「おーけー。そのまま【良い】って言うまで頭下げてな」


徐々に距離を近付けて、此方まで3メートルまで位置の目玉だらけの妖怪に先制を取る為に大きく一歩で距離を詰める。コンマ数秒、目が合うのを覚悟で全貌を見れば、どの瞳も蒼い瞳孔を持っていると分かった。

コイツ、邪視か。

判断と同時に気休めで人差し指と小指を伸ばしてコルナのハンドサインを取れば、彼方さんが身を竦めて怯んでくれたので、そのまま全ての指を伸ばして一番大きな目を抉る。

金属音に似た悲鳴を上げて全ての目を瞬きさせた。やはり主要となる目が使えないのなら、邪視は使えないようだ。

それにコイツから強い力を感じない。これくらいなら邪気祓いの禹歩(うほ)と九字で撃退出来そうだ。

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