第二章
2日後。亮護が大学が昼過ぎまでだという事で早速、例の子に会う事になった。
事前のメールやり取りで、報酬と待ち合わせ日時で再び揉めたと疲れた表情で合流した彼が零す。
待ち合わせの公園まで目と鼻の先のコンビニのスタンド型の灰皿の前で「だろうな」と思いつつ煙草に火を付けた。此処なら直ぐに気が付く。
先程買ったスミノフを飲みながら「で、何だったっけ?その子の名前」と彼に尋ねるとご丁寧に前に渡してきた資料のコピーを持ち出し、目を落として言う。
「増谷怜人、12歳、小学6年生。流石に小学生にリサーチは掛けれなかったので人となりまでは分からなかったです」
「ふーん、それってあの子?」
「ん?あぁ!そうですよ!」
道の向かいを歩いている子供を眼鏡を掛け直して資料と見比べ、正解と答えた。
煙草を一口吸って灰皿に押し付け、さて参上するか、と足を進めるれば、公園に入る前の少年とチラリと此方を確認したのが分かる。
……やっぱりな。
「行くよ」
「はい。資料持っときます?」
「いらなーい」
興味ないと押し返すとそれを肩掛けのトートバッグに仕舞い、彼は私の3歩後ろについてくる。
出会った時に私より前に出るなと忠告した事が頭に残っているらしく、連れだって歩くときのは大体このパターンだ。
横断歩道もないような小さな道路を渡って、スペースガードで仕切られた公園に足を踏み入れる。ぐるりと見渡せば目的の人物は隅のベンチに腰掛けていた。
「君が怜人くん?」
打ち合わせ通り、人当たりが良い亮護に話し役を任せて私は上から下まで少年を眺める。
ジロジロとした視線が気になったのか、彼は無言で身じろぐ。その瞬間、少年の後ろから小さな黒い影が飛び出して来て、ちょこまかと木陰へと逃げて行った。
「人の中で生きられないからって、魔に取り入ってもいい事ないよ」
つい、口を出してしまった。
真っ赤になって震える表情が、少年の母親そっくりだ。……不名誉かもしれないが。
「母に何を言われたのか知りませんが、放っておいてくれませんか?」
彼は目を伏せて背負った黒いランドセルをギュッと握ってそっぽを向く。
見た感じ洋服は清潔、上から軽く除き見たところ怪我もない。
本人もそう言うし、それほど心配する事もないか、と「あっ、そー?」と私は踵を返そうとすると「ふ、藤川さん?」と慌てて亮護が少年と私を見比べた。
彼からすると邂逅した瞬間に決別だ。さぞかし驚いただろう。
私も拒否する人間のご機嫌を伺うほど暇ではない、さてどうするか、顎に手を当て思案ついでにとチラと少年を横目で見れば、見捨てられたような悲しい表情で此方を見ていた。
「あーー……疲れてベンチで酒飲みたいから、ちょっと寄ってくれない?」
流石の私もそんな顔で見られると良心が痛む。本気の拒否なら堂々と帰ったが、ただの意固地なら無視してペースを保つのが得策だろう。
少年の隣に腰を下ろし、スミノフを呷る。瓶は既に少なくなっていて、透明のガラスに公園の風景を写しだした。
「眼鏡、酒が切れそう。さっきのコンビニで買ってきて」
「ついでに君のと、ジュースも」と付け加えマネークリップから引き抜いたお札を渡せば、心配そうに何度も此方を振り向きながらコンビニに向かう。コイツのお節介なところは今は無視だ無視。
スペースガードを越え、亮護の姿が見えなくなったあたりで煙草に火を付け、少年に話し掛けてみた。




