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第二章

息子が取り憑かれている。言動がおかしい。不気味なのでなんとかしてくれ。

以下、とても子供に対する言葉とは思えない悪口、罵り。


どういう家庭環境か、手に取るように分かるな。


「それで?依頼を受けて貰えるのかしら?」


一通り言いたい事を言えて満足したのか、話し出した時とは比べ、幾分落ち着いて腕を組んで言う。

その瞬間、彼女の背後からゾゾゾっと黒い影が立ちのぼり、吸い寄せられるように隣の席に向かってゆっくりと近付いた。

取り憑かれ体質の彼に張っている私の簡易結界に弾かれて影は敢えなく霧散。

バチリと電気の走るような音が場に響くが、店内は丁度ピークタイムを迎えていて周囲は気付く気配はなかった。


「キャッ……!な、なに?」


……が、目の前の彼女は音が聞こえたのか、彼女は身を縮ませている。

ふーーん……。……なるほど?それは良いとして。力を感じなかった所を見ると実体は別かもな。


「何か居ました?」


「まぁね」


散々な経験をしてきた彼は不穏な雰囲気を察知し、躰を硬くしたので、今は害はない、と無言で片手を振る。安心したのか、詰めていた息を解いたようだ。


「此方の言い分を飲むなら依頼を受けて良い」


影の出所は何処か、と背後を観察しながらそう伝えると、相手は先程の事で萎縮し「どうすればいいの?」と震える声で答える。


「アンタ抜きで、コイツと私で子供と会いたい」


少なくなった酒に口を付けて、条件を出す。

断ってくれてもいいけど。依頼内容には興味あるけど、アンタの事好きじゃないし。

言外の意図が読めたのか、顔色を赤く染め、彼女は唇を震わせる。

漸く絞り出した声で、条件を飲むと一言。


「じゃあ、後はメールの連絡で。眼鏡、お帰り頂け」


隣の亮護を肘で突いて促せば、慌てて立ち上がり此方を恨めしそうに下から覗き込んでいる彼女を何とか立ち上がらせ店の外へと連れて行った。

漸く息が吐けると、新しいビールを注文し、煙草を深く肺に入れる。酒を持ってきた店員が、いつの間にか一杯になってしまった灰皿を取り替えた。

新しい灰皿に灰を落とし、半分くらい煙草を吸った頃に「やっと帰ってくれました……」とゲッソリと亮護が帰ってくる。

「おー」と手を上げ応えれば、彼は向かいに座った。


「あんなに怒ってたのに結局依頼して帰って行きましたね」


「他に当てがないんだろ」


「本当に僕も同行するんですか?」


顔を上げて、店員にハイボールを頼みながら私に問う。彼は手元にきたそれを飲むと、今日初めてのアルコールが染みるようで、フゥと息をする。

そんな様子を肘を付いてみながら「まー、……君、独りで行く?」と半分本気、半分冗談で言って煙草を灰皿に押し付けた。


「いやいや、普通逆でしょう。行きたくないんですね?分かりました、僕も行きます」


適度なアルコールで気分が上がったコイツは、私の逃げ場を塞いでくる。


「あー……、しょうがないよなぁ……」


天井を仰いで、独り言ちる。

あの母親が絡んでると思うと気が進まないが、相手が条件を飲み、此方が依頼を受けた以上、事は進めるしかないのだ。


「そろそろ出よう」


今日はもう気分を変えたい。

此所で幾ら飲んでも頭が切り替わらないと判断して伝えれば、彼は注文したばかりのハイボールを慌てて飲みきった。

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