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第一章

朝起きる。

目の前には見慣れた天井と、この……くそったれな世界。二日酔いで痛む頭を抱えて、手探りでナイトテーブルに置きっぱなしにしていたテキーラのキャップを開けると一口。ゴクリと嚥下するとアルコールの焼けるような感覚が食道を通っていった。


くそまずい。今日もだるくて仕方ないが、私には依頼が入っていた。



ガヤガヤと騒がしい居酒屋で「…………ほ、本当に藤川さんでしょうか………?」依頼人・四宮亮護はこの場に似つかわしくない盛大な沈黙の後、口元をヒクヒクさせて確認をしてくる。大概の依頼人は出会い頭はこんな反応をするので慣れたものだ。私は愛煙の煙草を加え火を付けながら「あー」などと適当に返事を返した。フゥ、肺まで入った煙を吐き出し彼に問う。


「で、君の家の人間がおかしいって?」


ジロリと彼を見て迎え酒のビールを飲んだ。何なら疑われてる事にも興味ない。別に自分でなくてもいいのなら帰ってもっと酒飲みたい。


「はいっ!……3ヶ月前に引っ越してから母が、別人の様になってしまって」


私の一言で確信を得たのか、勢いの良い返事と事のあらましをしゃべり出した。あーあ。ジョッキについた汗を手で軽く払い、肘をついて話に耳を傾ける。事前リサーチを疎かにする程愚かではない。


要はこうだ。3ヶ月前に引っ越したのを機に母親が奇行に走るようになった。内容は自分に女物の服を着せようとしたり、風呂場を覗いてきたり、全然知らない女性の名前で呼ばれたり……。


「挙句の果てに、昨日は夜中に部屋に入ってきて金槌を片手にジッと僕の事を見て……、もう、もう、どうしていいか……!」


うーん、悪化の一途だというのなら少々まずい。話を聞きながら飲み干したビールのおかわりをオーダーしつつ、向き直る。感情が高まったのか彼の眼鏡の奥が少し光った。


「今日は帰らない方がいい。友達の家にでも泊まるんだね」


「今後に関しては……?」


「今夜は満月で日が悪い。明日なら対応出来るから明日の昼に君んちに見に行くのでどお?」


「あっ、昼は母は仕事でいなくて。帰りは19時以降になります」


なるほど。家の外まで憑いて来ないタイプ。家に憑いてんのかな。にしても危機感が無さすぎるけど……。


「あのさぁ。世の中オカルトに明るくない人でも夜は【怖い】って認識があるのに、君死にたい感じ?」


私の言う通りに出来ないなら、もう関係ないや、と短くなった煙草を灰皿に押し付けると席を立とうと姿勢を整えた。


「待って下さい!うちは、母と僕しかいなくて、……今までも病気をしたりしんどそうでも仕事に行くって聞かない母を止められた事ないんです!」


一瞬、私達の席の周りがシンとする。これじゃあ、私が悪者だ。天井を仰いで再び煙草に火を付ける。またしても空になったビールの追加オーダーをして、素早くきたそれを受け取ると一口。


「……私も鬼じゃない。しょーーーーーがないから、夜からの時間で手を打ってあげるよ。依頼料はコレ」


五本の指を立て、手の平を彼に向けると「5000円……?」と惚けた事を抜かしたので「5万だよ」と呆れて教えれば「ごっ……」と、固まってしまった。


「で、するの?しないの?」


この間連続で入った依頼のおかげで懐は困っていない。この眼鏡が依頼をしようが、しまいが関係ないので答えを待った。言っておくが強要していない。


「します。依頼、させて下さい」


眼鏡はうんうんと悩んだのち、是の答えを出した。意外な事にきっちりこちらの目を見て。


「おーけー。んじゃ、また待ち合わせの場所と時間は明日の夕方までにメールしといて」


話は終わった、と会計表を持つと私は席を立つ。てっきり払わせられると思っていたのか、眼鏡は目を丸くして「はい……」と小さく返事をしていた。あんな話を聞いた後。伝えた通り、鬼じゃないので。流石にな。

挨拶替わりにヒラっと手を振り、さっさと会計を済まし、そのまま店の外へ出る。飲み足りない。まだ終電も余裕な時間。飲み直す為に馴染みのある方向へと足を進めた。


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