膨らませ名人と風船娘
膨らませ名人と呼ばれた男、カイ。
彼がこれまで膨らませてきた女の子は数知れない。
女子高生、女子中学生、笑顔を振りまく可愛らしいアイドル、生徒も惚れる美人教師…彼の巧みなエアポンプ技術にかかれば、どんな女性もあっという間にパンパンに膨れ上がるのだ。
彼の腕は膨体界隈ではそれなりに知られていた。彼の手にかかれば、大抵の女性は巨大風船と化す。
そして…今日は、ある屋敷から依頼を受け、黒い帽子を被ってやって来た。
「お待ちしておりました。カイ様」
白い髭の老人が、立派な扉の先でカイを出迎えてくれた。
カイは軽くお辞儀する。黒いコートに身を包んだ姿が気品に溢れているカイ。
手に持つバッグには彼お気に入りのエアポンプが入っている。これを持ってきている通り、今回も彼の特技を披露するのだ。
老人は屋敷の廊下を歩きながら、しわがれつつも不思議とハッキリ聞き取れる声でゆっくりと話しだした。
「実は最近この屋敷の周辺に一人の娘が現れまして。彼女は自分の体をそれは大きく膨らませて、屋敷の召使いに色仕掛けをかけるのです」
「それはいけない嬢ちゃん…風船ちゃんだな」
カイは黒い帽子に手をやる。
声を低めつつも、僅かな期待も寄せていた。
老人はある扉の前で足を止め、扉を見上げる。
黄色い扉だ。この先に、何かあるのだろう。
「ここから先に、彼女…『ユリ』が待っています。お願いします。どうか彼女を懲らしめてください」
頭を下げる老人。カイは黙ったまま、扉に手をやる。
そして…ゆっくりと開いた。
冷たい風がカイと老人の髪を揺らす。
扉の先は、屋敷の庭園だった。
美しい女神像や、小さな池、美しい花が咲き誇る素晴らしい庭園だ。
風が吹くなか、庭園の真ん中には、ある一人の少女が立っていた。
赤いラバースーツのようなコスチュームだ。金髪に、気の強そうな顔立ち。
膨らむ体を持つ女の子…風船娘の例に漏れず、とても美しく、可愛らしい姿をしていた。
その少女、ユリは、カイに対してどこか挑発的な笑みを浮かべていた。
カイは足元の草を散らしながら、ユリに近づく。
一定の距離まで近づくと…ユリは、突如大きく口を開いた。
そして、庭園の新鮮な空気を吸い込みだしたのだ。
その吸引力は、普通の人間の比ではない。庭園に散っていた小さな草花は彼女の口へと吸い込まれていく。
そして、吸い込まれた空気は彼女のお腹へと流れていき、お腹は勢いよく張り出していく。
豪快な音と共にどんどん空気を吸い込み続け…お腹は元のウエストの四倍近くもの大きさへと膨張した。
ユリは大きなお腹を揺らし、変わらず挑発的な笑みを浮かべる。
「あなたも私の膨らんだ姿を拝めに来たんでしょ?」
「まあ、ある意味そうだな」
カイはバッグを地面に置く。先程の吸引で地面から抜けていた草が、軽く宙に舞った。
カイの後ろでは老人が心配そうに二人を交互に見つめていた。
ユリは舌を出し、大きなお腹を一発叩く。
ボォンッという豪快な音と共に上下に揺れるお腹。服装も相まって、その様はまるで赤い風船…というかもはや、風船そのものだ。
彼女のお得意のハニートラップだった。これで何人もの屋敷の召使いを誘惑してきたようだが…。
カイはそうはいかない。
こんな色仕掛けにも、冷静に対処するのだ。
地面に置いたバッグのチャックを開き、中からエアポンプを取り出すカイ。
ユリは目を細めてそれを見る。
「へえ、それで私のお腹を更に大きくするの?欲張りさぁん!」
更にもう一発お腹を叩くユリ。
悪戯な笑みが、カイを襲う。しかしカイは尚クールに振る舞い、エアポンプを手にユリに迫る。
老人は何が起こるのかと、庭園の草まみれの服のままその光景をじっと見つめていた。
カイはユリと向かい合い、彼女のお腹を叩く。
ボォンッ…これはまた、良い音が響く。
「お嬢ちゃん。一体どこまで膨らめるんだ?」
ユリは顎に指を添えたあざといポーズをとりながらゆっくり答える。
「んー、んー…この庭園一杯になっちゃうかなぁ?」
カイの口元が、ニヤリと歪む。
…そして。
「きゃ!?」
ユリが体に違和感を覚え、高い声を上げる。
…カイが、いつの間にか彼女のお腹にエアポンプをくっつけていたのだ。
丁度ヘソの辺りに、エアポンプの先端がくっついていた。
カイがエアポンプを押す。
空気がユリのお腹に注入され、ユリのお腹はより一層広がる。
三回ほど空気を注入し、ユリのお腹はユリの顔を押し上げる程に大きくなる。
自分のお腹に押し上げられたユリの顔は、先程よりも余裕が感じられないものになっていた。
まだ笑みを浮かべつつも、口は波打つように落ち着きなく動いてる。目は大きく見開いて明らかに驚いているようだ。
何より、顔が赤かった。
カイは先程よりも大きく膨らんだユリのお腹を叩く。
ボォォォ〜〜ンッ…。
「ひい!」
ユリは先程の態度からはらしくない声を上げる。
間違いない。先程の自信満々な台詞は嘘。彼女の限界はこの辺りだ。
庭園の空気とカイに入れられた空気がユリのお腹の中で暴れ回ってるようだ。ありったけの空気、そして少量の草花を飲み込んだお腹はパンパンに張り詰めていた。
「こ、こんなに膨らんだ事ないからっ!もう止めてよ!」
「風船は止めてなんて言わないぜ?」
カイは更にエアポンプを押していく。ユリのお腹はまた膨張し始める。
だが既に張り詰めて限界のお腹。今までほどのペースでは膨らまない。
それでも2、3センチ程大きくなった。エアポンプもそろそろ空気を押し込めづらくなり、カイの手は震えてる。
これまで多くの人々を誘惑してきたユリが、今限界に達しようとしてる。
老人はぽかんと見つめていた。
しかし、次のカイの発言でこれから何が起こるのか、おおよそ予測がついた。
「離れてな、爺さん」
左手でエアポンプを抑えながら、右手で老人を軽く払うカイ。
老人は意識を取り戻したかのように全身に力を込め、扉を開けて大急ぎで屋敷へ避難していく。
今のユリの大きさは約2.5メートル。はじめの余裕はどこへやら、巨大なお腹を内側から襲い来る空気圧に顔を真っ赤にするユリ。
お腹もここまで来ると、いよいよ赤い巨大風船だ。
巨大なお腹を見上げながら、カイは深呼吸。
そして、彼女のパンパンに張り詰めたお腹目掛けて、とどめの一言を叫ぶ!
「さあ時間だぜ…破裂のなっ!」
エアポンプが、空気を押し込む!!
パァァァァァァァァァン!!!!
庭園の木々が、大きく揺れた。
カイは吹き飛ばされ、屋敷のどこにいてもその音は聞こえてきた。
美しい庭園は、ユリのお腹に封じ込まれていた暴風で一気に散らかったのだった。
「想像以上の実力でした、カイさん…」
涙目のユリの手を掴みながら、老人はカイに頭を下げる。
「また良い風船が出たら言ってくれ。いつでもこいつと共に駆けつけよう」
カイは軽く手を振り、屋敷を後にしたのだった。