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第9話

ショッピングモールに着いたのはお昼前だったけど、人も多いし早めにランチに向かうことにした。


「えっと・・・7階と8階が食事エリアみたいです・・・。」


案内板を見ながら二人してどこにしようかと悩む。


「芹沢くん何食べたい~?」


腰を屈めて彼の顔を覗き込むと、途端に真っ赤な顔をして目を逸らされた。


「えと・・・俺は西田さんが食べたいものを食べたいので・・・」


「そう?じゃあ・・・苦手な物とか、アレルギーは?」


「あ・・・えっと、甲殻類のアレルギーがあります。」


「そうなんだ。オッケー・・・ん~・・・ピザとか・・・パスタとかかな。ここのイタリアンにしよっか。」


地図を指さすと、彼は頷いてエスカレーターへと向かいながら歩き出した。


「西田さんイタリアン好きなんですか?」


動く足元にゆっくり踏み出しながら、振り返る芹沢くんを見上げた。


「ん~・・・好きは好きだよ。ほら初手デートの定番かなって。」


俺がそう言うと彼はまた口をつぐんで恥ずかしそうにした。

からかっているつもりはないけど・・・慣れてないのに一生懸命エスコートしようとしてくれてるようなので、あまり突っつかないようにした。


幸い店はそこまで混んでいる様子もなく、少し待ってから店員さんに案内された。

料理を適当に決めて待っている間、芹沢くんは向かい合った席は恥ずかしいのか、チラチラと俺を伺いながら言った。


「あの・・・食べ終わったら他にお店見てもいいですか?」


「ん、もちろんいいよ。服屋でもいいし、あ、そうだ、ここゲーセンもあるしね。遊びたいとこあったら付き合うよ。」


「はい、ありがとうございます。・・・あの・・・付き合わせちゃってすみません・・・。どういうとこで食事するのがお礼になるのかわからなくて・・・。」


「あ~・・・別にいいよ、細かいことは気にしなくて。十分考えて連れて来てくれてるんだろうなぁって感じてるから。てか・・・家に勝手に連れて行って応急処置したくらいでさ、そこまで大したことじゃないから。」


「いえ・・・俺には大したことだったんです・・・。」


芹沢くんは視線を落としてから、ぎこちない笑みを向けた。


「でもさ、トイレで気遣って薬をくれたじゃん。だから貸し借りなしなんじゃない?」


「・・・そうかもしれません。でも・・・さっきもう一つ借りが出来ちゃったので・・・。」


「・・・あれ~?じゃあ連絡先聞いた時、お礼をしたいのでって口実だった?」


「・・・はい。すみません。」


目を合わせないまま、芹沢くんから緊張した空気が伝わった。


「その・・・会った時からちょっと気になって・・・だからデートに誘いました。」


言葉少なに説明されて、叱られるのを恐れるように見つめられて、何とも返答に困った。


「そっかぁ・・・。じゃあデートらしいデートしよっか。」


安心させようと笑みを返すと、芹沢くんはコクリと頷いた。

その後美味しそうな料理を二人で分け合いながら食べて、お会計をするとき、あまり払わせたくはなかったので出そうとすると、さっと遮るように先にお金を出されてしまった。


「お礼なので、俺が出します。」


引くまいと頑なな表情を向けた芹沢くんが、何だか可愛くて笑ってしまうと、困惑させてしまったようで怪訝な顔をされた。


あ~弟とかいたらこんな感じなのかな・・・


そんなことを想いながら、その後服屋や雑貨屋に足を運んで、ゲーセンに寄って色々遊んだり、途中休憩がてらアイスを買って、二人で適当な場所に腰かけた。


「なんかいいな~こういうの。」


「・・・何ですか?」


「ん~?俺一人っ子だからさ・・・弟と遊んでるみたいで楽しいし、芹沢くん可愛いし・・・愛着がわくなぁって。」


そう言いつつまた一口アイスを食べると、隣の彼は案の定複雑そうにしながら照れていた。


「あの・・・高校生のガキに付き合ってやってるって感覚だと思うし、こんなこと厚かましいですけど・・・これからもたまに誘っていいですか?」


そう言われて、そればかりは軽はずみで答えていいことでない気がした。

弄ぶつもりなんてないし、友達として楽しいと思える時間が共有出来るならなんら問題ない。

けど彼は俺に好意があるなら、無駄に期待を持たせるのも悪い気がする。

けどそれを無駄かどうか判断するのは俺じゃない。


「もちろん友達として遊んでくれるなら付き合うよ。」


俺の返答に芹沢くんは少し黙って、意を決したようにパッと俺を見た。


「あの、西田さんの好きなタイプの人間になりたいです。」


「・・・・・おおん・・・。」


「どんな人が好きですか?男は恋愛対象外ですか?」


その時ばかりは真正面から恥ずかし気もなく、真剣に尋ねていることが分かって、今度は俺が目を逸らせる番だった。


「ん~・・・わかんないかな・・・。今のところ好きになった経験がないからさ。でも、友情と愛情の境界線が俺は結構曖昧な方だと思うんだ。そういう意味では好きになる可能性は大いにあるかもしれない。だから今のところ未知だね。」


「そうですか・・・。俺は好きです西田さんのこと。見た目がカッコイイからとか、立ち振る舞いとか、優しくて誠実そうなところとか、今のところ感じてる部分だけでそう思ってはいますけど、これからもっと知っていきたいなって思ったので・・・。正直すぐ告白するのって引かれるかな、とか・・・色んなこと考えて消極的になってたんですけど、でも言わないと後悔するだろうなって思ったし、他の誰かにとられちゃう前に・・・と・・・思ってしまって・・・。」


どんどん弱々しくなっていく彼の言い分から、一生懸命さと、どうしたらいいかわからない自分なりの精一杯を伝えてくれているのだと分かった。


「そっかそっか・・・。ありがとな。勇気いるよな、そういうこと伝えるって・・・。俺さ・・・結構長く付き合って、同棲までしてた彼女と別れてさ・・・じわじわダメージ受けてて、モヤモヤしたり焦ったり、また傷ついたりって変な期間に入っててさ・・・それは俺がまだ子供っぽいガキだからしょうがないんだけど、自分がどうしたいとか、どうすれば変われるかとか、模索してるとこなんだよね・・・。友達でいることは楽じゃんか・・・付き合うとか付き合わないとか、どう考えたらいいのかわかんなくて、期待させちゃうのもあれだし・・・。でもさ、俺は芹沢くんと仲良くなりたいなぁって同じく思ってるよ。今はそういう返事でいい?」


俺が言い終わると、彼は少し涙ぐみながら頷いた。


「はい・・・。そんな風に言ってくれる西田さんが好きですし・・・尊敬します。」


「あれ~?俺泣かせちゃった~?」


おどけながら頭を撫でてあげると、彼は無理やりに笑顔を作って涙を拭いた。


「いい子いい子・・・。あ~・・・なんか母性・・・いや、父性が湧くなぁ・・・w」


「ふふ・・・」


普通に笑ってくれた。可愛い。


「芹沢くんはさ・・・あれ・・・俺聞いたっけ・・・忘れてんのかな。連絡アプリでも苗字しか書いてなかったよね。下の名前なんていうの?」


俺が尋ねると、彼はスッと真顔になってから落ち込んだように視線を落とす。


「えっと・・・まだ言ってません・・・。えと・・・名前女の子みたいでコンプレックスで・・・それで中学でいじめられてました。背も小さいし・・・」


「ふぅん・・・。いやでも・・・いじめられた理由ってわけじゃないと思うよ。」


「え・・・?」


「いじめするやつってさ、きっかけは何でもいいんだよ。ただ目についた奴というか、自分より意見が言えなさそうで弱そうな人を選んで、からかう理由を見つけられれば楽しくなるんだよ。あ、心理学上の話ね?だから名前がとか、身長がっていうのは後付けでさ、それが理由ではないんだよ。言い返せない奴だからいいやって思ったりするんだよ。」


芹沢くんはポカンとしてから、ふっと笑みを漏らした。


「まぁ・・・そうですよね・・・」


「てか俺も女の子みたいな名前だけどさ~・・・いじめられたことはないよ?」


「それは・・・西田さんが優しくて頭もよくて、イケメンだからなんじゃ・・・」


「でもそれを理由にしていじめられる人もいるよね?女の子でも可愛い子がハブられたりさ・・・」


「確かに・・・。それは単純に妬みですよね・・・。」


「うん・・・。だから芹沢くんは何にも悪くないんだよ。名前を付けた親御さんも悪くないし、もちろん俺もちょっとは恥ずかしいなぁって思ってはいるけど・・・。でもさ・・・好きな人に呼ばれたら途端に自分の名前が好きになったんだよね。」


未練がましく、何度も沙奈を思い出してることは自覚してる。

もう終わった関係だけど、心から好きだったことに変わりはないから。


「俺も・・・呼ばれたいです。」


人並みもまばらになったモール内のベンチで、彼は聞こえるか聞こえないかで呟いた。


「ふぅん?」


「でも・・・西田さんが俺の名前を呼んでくれたら、俺は嬉しいけど西田さんにとっては別に何でもないことで・・・期待だけ持たせちゃって悪いなって西田さんが思ってしまうなら、呼ばれなくていい・・・です。」


「はは・・・なかなか俺に勝るとも劣らない気遣い屋っぷりだなぁ・・・。」


芹沢くんは側にあった俺の左手に、自分の手をそっと重ねた。

少し震えていた手は、外はだいぶ暖かいのに比べてかなり冷たかった。


「大丈夫?体冷えた?」


「あ・・・いえ・・・」


ぎゅっと小さ目の手を握って温めながら、まだ食べかけの彼のアイスは溶け始めていた。


「俺もう食べ終わったし、もういらないなら食べようか?それ。」


冷えた手と反比例して、彼の顔はみるみるうちに真っ赤になって、耳まで赤く染めながら俯いた。


「えと・・・あの、食べますちゃんと・・・大丈夫です。」


「マジで?お腹痛くなったりしたら言ってね?」


「はい・・・・・・・。」


いい雰囲気とかそういうことより、自分より小さな芹沢くんの体調を気にしてしまう俺は、ある意味彼からしたら困った奴だったろうと思う。

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