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第60話

お泊りデート2日目。

朝二人して寝ぼけながらベッドでゆっくりして、イチャイチャしてるうちにそのままもう一回戦して、ベッドを汚してしまったことが何だか申し訳なくなって、シーツを剥いで洗濯機に入れるのを手伝った。


てか一晩でゴム一箱使い切るってなに?

全身筋肉痛なんだが?


リサも若干腰を痛めていたみたいなので、謝りながらマッサージをしてあげた。

後だんだんと頭が冴えてきて冷静になって、ソファで一緒に紅茶を飲みながらリサに切り出した。


「リサぁ・・・昨日はごめんね・・・」


「・・・ふふ、全然いいよぉ。」


「いや・・・あの・・・エッチがどうのじゃなくて・・・えっと・・・」


とうとう自分が情けなくなって大きなため息が漏れる。


「はぁ・・・・・。俺さ・・・告白した時・・・好きだった人のこと、忘れられなくてもいいし、大事に思うことは別に構わないみたいなこと言っといて・・・昨日・・・リサが『薫くん』って口にしてるの聞いたら、理性ぶっ飛んじゃってさ・・・・ごめんね・・・」


小さな肩にすり寄ると、リサはそっとキスしてくれた。


「私は嬉しかったからいいんだよ?」


「・・・・んえぇ?そう?」


「うん♡・・・・私の方こそごめんね。焼きもち妬かせるようなこと言って。」


「・・・・ホントはもっと妬いてほしいとか思ってる?」


可愛い顔を引き寄せるように頬に触れると、リサは目を細めて幸せそうに笑った。


「ふふ♡妬いてほしいよ?」


「・・・あぁぁぁあぁあぁ~~可愛いい~~~~~」


全身から溢れるような声がそのまま出て、リサを潰れんばかりに抱きしめた。


それから残り少ない夏休みを、ほとんどリサとのデートに費やした。

バイトがない日も、バイトがある帰りも度々リサのうちに行った。

合鍵をもらって、リサは「一緒に住みたいね♡」なんて恥ずかしそうに話してくれて、それもありだと思ったけど、前回同棲してた経験もあるし、金銭的なことを考えて、お互い卒業して収入を得られるようになってから、改めて一緒に住む部屋を借りようと話し合った。

とりあえずお互い、目先の就活という大事なミッションが残ってる。


9月下旬、夏休みが明けて、サークルに所属しているリサは、学祭に向けての作品作りに追われているようだった。


「去年の猫のぬいぐるみも可愛かったけど、今年のも随分大きいの作るんだねぇ。」


「うん、可愛いでしょ♪」


家に持って帰ってきていたそれを、大事に抱えるように編みながらいるリサを、後ろから抱きしめるように座っていた。

器用に動く手元に、ふわふわした毛糸がどんどん結われていく。


「リサってさ・・・女子力高いよね・・・すご。」


「女子力・・・なのかなぁ。単に趣味が女性が嗜むことが多いってだけで・・・ホントは運動神経良かったら、野球とかサッカーとかしたかったんだよ?」


「ふふ、そうなんだ・・・。野球とかサッカー・・・俺はあんま得意って程じゃないなぁ・・・。やっぱスポーツはスノボが一番好きだったなぁ。」


「言ってたね♪冬休みに美羽たちも誘って行こうね。」


「そうだね。・・・・・あ・・・・そうだぁ・・・、翔も桐谷も、咲夜もさ、皆彼女いるしさ・・・全員で行ったら楽しいかな?」


「楽しそう!ふふ♪でも桐谷くんとか・・・遠出するの好きじゃなかったりしないかなぁ。」


「ああ・・・・それもそうだな・・・。後咲夜もあんまり来てくれるイメージないな・・・」


「そうなの?」


「ん・・・。そういうのは彼女と二人っきりがいいって言いそう。」


「ふふ、そうなんだ。」


「咲夜はさ~なんていうか・・・結局色々世話焼いてくれるタイプでさ、だから大勢で行くと、皆に気ぃ遣って色々先回りして用意してくれるんだよ。段取り決めてくれたりさ・・・ついついやる性分なんだろうね。」


「へぇ・・・高津くんって面倒見良い人なんだね。」


「そうそ~。・・・・んでもさ・・・リサさ、何気に同じ学部なのに、桐谷とか咲夜とかとあんま話したことないんだよね?」


「ん~そうだね、桐谷くんとは4人で出かけた時に多少会話したけど、用件がないと話さないし・・・。高津くんはちょっと・・・・緊張しちゃうから声かけたことないかな。」


「へぇ・・・・・緊張かぁ・・・。俺はもう今となってはないけど・・・」


リサはクスっと笑って、細い髪を耳にかけて大きなぬいぐるみを置いて、俺を振り返った。


「私・・・円香くんにも結構緊張してたよ?」


「・・・えぇ?なんで?あ、でも俺もリサと話すのは前々からわりと緊張してたな・・・」


「そうなの?」


「んだって・・・美人な子って緊張するじゃん・・・。基本的に俺他人の顔色窺っちゃうしさ。」


「・・・そっか・・・。ふふ、私も『カッコイイ西田くん』に緊張してたよずっと。」


「はは・・・俺なんて見掛け倒しの情緒不安定男だよ。」


「ふふ♪そんなことないよ・・・。でもね、円香くんの・・・自信がないなぁって思ってるとこも、相手を気遣えるところも、自分のダメなところを理解してるとこも、全部ひっくるめて好きだよ。」


そう言って優しく唇を重ねて、甘える表情を返す彼女に、何度も何度もキスを返した。

ただただ浮かれて、好きで好きで仕方ないっていう気持ちから、だんだんと「大事にしたい」っていう深くて尊い気持ちに変わっていく。

目に見えるリサの全てと、心の内に抱えた全てを、時間をかけて俺に教えてほしくて、気持ちが離れないように、出来る限り一緒にいる時間を作った。

その裏にある気持ちは、すれ違い続けて別れた経験があったから、同じことになりたくないという強い意志だった。


そんな或る日、知り合いのほとんどが同じ講義を受ける講義室で、授業が始まる前の時間、少し離れた所に椎名さんたちと固まって座るリサを、後ろの方の席で時折眺めながら、咲夜たちと4人で座っていた。


「それでさ、小夜香ちゃん随分髪の毛伸びたもんだから、試しに三つ編みしてあげたんだけど」


幸せそうに彼女の話をする咲夜が、スマホに指を滑らせて画像を見せた。


「見て、世界一可愛いでしょ?」


相変わらず桐谷はパソコン画面を見つめていたので、俺と翔は覗き込むように見た。


「あ~・・・確かにめっちゃ可愛い・・・おさげって女の子あんましない髪型だけど、お洒落に結んだら可愛いよね。」


「でしょ~~?俺ってばセンスあるなぁ・・・」


翔 「なんか・・・結構前に見せてもらった写真より、彼女だいぶ大人っぽくなった?」


咲夜 「だよね!?そうなんだよ、もう18歳だからね。再会したときは15歳だったからまだまだおぼこくて可愛い見た目だったけど、最近はお母さん似が増して美人になっちゃってさぁ・・・。」


「あ~女の子って顔変わるっていうもんなぁ。」


リサはどうなんだろうか・・・


頬杖をついてチラっとまたリサの方を見ると、音楽を鳴らしている友達のスマホを覗き込んでいた。

何やら盛り上がっている様子で、「やってみて」と何かを嗾けられている。


どうしたんだろ・・・


するとリサは渋々といった様子で席を立って、スマホをまたよくよく見つめながら、音楽に合わせて腰を振ってダンスしだした。

お尻を突き出すようにリズムよく振ったり、手を首の後ろに持って行ってセクシーに腰を揺らしたり、それを見て思わずドキ!っと心臓が跳ねて、そう言えば1回生の時はダンスサークルに入ってたと話していたことを思い出しながらも、人目のある教室で可愛らしく踊る彼女を、周りの男子もニヤニヤと見つめていることに気付く。

可愛いリサがセクシーに踊る姿に釘付けになりながらも、次第に体の中は煮えたぎるように熱くなった。

恥ずかしそうにするリサはやがて皆を宥めるようにやめて、俺は無意識に机に手をついて、ガタン!と音を立てて立ち上がっていた。


「うお!ビックリした・・・」


咲夜が驚いているのも気に留めず、つかつかと女子集団の中にいるリサに向かって歩いた。

数名の女子が俺に気付いて声をかけようとするのを無視して、パッと目が合ったリサの腕を強引につかんだ。


「!?円香く・・」


彼女の腕を引っ張って講義室から廊下へ出て、追い詰めるように壁に手をついた。

俺を見上げるリサが呆然と大きな目を見開いている。


「ま・・・・・・・じで・・・やめてホント・・・・。いやダンスが悪いわけじゃないけど!・・・周りも見てたし、男はいやらしい目でリサを見てたし!リサは可愛いから目立つし!・・・男はそういうリサをさ・・・ヤりてぇって思って見てたんだよ?」


自分がどんな顔をして説得してたかわからないけど、リサは少し顔を赤らめて、廊下をキョロキョロ見渡してから、そっと俺にキスした。


「ごめんなさい・・・。」


「・・・リサは俺のでしょ?」


ぎゅっと抱きしめて、ようやっと咲夜が言ってることが身に染みるようにわかる。


「俺は世界一リサが可愛いと思ってるよ。リサが誰より一番大事だよ・・・。」


温もりと鼓動が体に伝わってくる。

リサは少し涙声になりながら「うん」と頷いた。



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