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第6話

翌日二日酔いにはならずに済んで、いつも通り大学へ向かった。

昼過ぎから講義だったけど、何となく昼食を学食で食べようと食堂へ顔を出した。

適当にカレーを頼んでお盆を持つと、端の方のテーブルから翔が呼ぶ声が聞こえた。


「に~しだ~~」


「・・・おう、お疲れ~。」


席につくや否や、翔は今日も元気いっぱいに尋ねた。


「な、な、週末さ、合コンあんだけど行かない?」


「合コン・・・どういうメンツで?」


聞けばどうもゼミでくっつけたいカップルがいるらしく、お膳立てされた合コンのようだけど、それぞれが友達を連れてくるよう言われたので、そこそこの人数での飲み会になるとのことだ。


「西田彼女と別れたんだったら誘っていいかなぁって・・・どう?女子高生も来るらしいよ。」


「・・・俺らと大して歳の差ないし・・・そんなに食いつくか?」


「いいじゃん、可愛い子くんなら。どうする~?」


別に何てことない集団飲みの誘い・・・


「ん?ちょっと待て、女子高生来るなら飲み会はダメだろ。」


「あ~・・・まぁ別に成人済みだけが飲むんじゃない?主催者俺じゃねぇから、どこ行くかまだ知らんし。」


何だかモヤモヤしながらカレーを口に運ぶと、そういえば・・・と翔は切り出した。


「昨日は結局連絡先交換したような子はいなかったん?」


「・・・ああ、いなかったな。翔と一緒に来たゼミの子は教えたけど、クラブで知り合った人とは・・・。」


「そうなんだ。」


翔の知り合いであろう女子から割と朝から連絡がしつこくきていたけど、それはまぁ黙っておこう。


「翔こそどうなんだ?昨日女の子と抜けるって言ってたし・・・」


「んあ?ああ・・・」


翔はスマホを眺めつつお箸でサバの塩焼きをつついた。


「普通に昨日泊らせてもらった。終電逃したし・・・。てか西田車出してほしいって行ってたの、今日行ける?講義終わんの4限だよな?」


「ああ・・・今日バイトないし行ける。・・・んで?どうだったん。」


「どうって?」


こいつ・・・人には散々根掘り葉掘り聞く癖に・・・自分のこととなるとしらばっくれんなぁ


「だから~~その子とどうなった?って聞いてんの。付き合うの?」


翔はスマホを閉じてまた箸を口に運んだ。


「ん~や?別に付き合わないと思う。普通にエッチしただけ~。」


さらっとしてんなぁ・・・


「そ・・・ワンナイトだったんか。・・・翔って彼女作らねぇよな。」


以前いつだったかそういう話題になった時、つい最近別れたとか聞いた覚えがあったけど、それもだいぶ前だった気がする。


「え~?ま~・・・うわ!めっちゃ好き!って思う子だったらガンガン行くけどさ。」


「あ~そうなんか・・・。」


「そういう西田は?いい感じの子いる?」


「いない・・・というか今はあんま・・・恋愛する気ない。」


「そうか~別れて疲れちゃってんだなぁ。まぁ長かったもんな。」


粗暴で甘えたな口調ではあるけど、翔は丁寧に綺麗に魚を平らげて味噌汁をすすった。


「まぁな・・・。女の子相手にするとつい気ぃ遣うし・・・一旦何も考えたくねぇ・・・」


「そか・・・。じゃあ合コンやめとく?」


「・・・そうだな。結局その気ないのに、連絡先交換するのも悪いし。」


「オッケー。」


翔は基本騒がしい奴だけど、明るさが取りえで、それなりに気も回せるしこっちとしては気を遣わなくていい友達の一人だ。

好奇心旺盛であれやこれや聞いてくることはあるけど、こちらの受け答えをちゃんと見て聞いてほしくない所は聞いてきたりしない。


「てかさ・・・ゼミの~・・・葉山さんが~・・・西田くん既読無視ぴえんだってさw」


「う・・・ごめん・・・あんま関わる気ないや・・・。」


「うはは!今は恋愛とかしたくない感じみたいだよ~って普通に返しとくわ。」


「悪い・・・」


またスプーンでカレーをすくって食べ進めた。

そういえば以前自分のゼミの知り合いに、モテるから女選び放題だろとか、色んな女に手ぇつけてんじゃねぇのとか、散々嫌味も込めたことを言われたことがあった。

モテる自覚ぐらいもちろんある。嫌われるよりはいいから愛想はそれなりに振りまいてる。けど男女分け隔てなく接しているつもりだし、何年も友達付き合いのある女の子もいるし、男に告白されて振ったこともある。

女にモテるだとか、男はどうだとか、ヤったヤってないとか・・・ハッキリ言ってどうでもいい。

ただこのまま恋愛に辟易し過ぎたり、相手の期待を振り回したりしていると、本当に自分が恋愛できなくなってくる気がした。

何も別にこの年で焦ることではないけど・・・てか就職に向けて色々焦った方がいいけど・・・


「はぁ・・・・」


食べ終わって飲み物を飲んで、思わずため息をつくと、翔は言った。


「西田ぁ今日車出してまた迎えに来るからさ~お前の荷物取りに行って、実家まで届けたらその後飯行こうよ。」


翔は可愛く甘えるように頬杖をついて、上目遣いをした。

こいつこういうあざといこと普通にするよなぁ・・・


「うん・・・いいよ。わざわざ車出してくれるんだから奢るよ。」


「マジで!?やったぁ♪」


人の好意に素直に甘えて返事が出来るのも、翔のいいところで、俺にはないところだ。

何も期待を押し付けず、何も押し付けられない。そういう関係が理想なんだろうかと思う。


「西田はさ~~~」


「え?」


「人に気ぃ遣い過ぎなのもそうだけど・・・肩に力入りすぎ、考えすぎ。もっと俺の適当さを見習わないと。」


翔はそう言ってニカっと笑った。


「そうだな。ありがとう。」


ちょうどいい距離感で、自分のことを察して言葉をかけてくれる友達ってのは、やっぱり大事にしないとなぁ。

翔の言葉で一つまた肩の荷が下りた気がして、あんまり何事も深く考えないように心がける癖をつけようと思えた。

翔とは母校こそ違えど同じ地元なので、その日の帰り同じ電車で帰り、一度荷物を置きに家路についた。

すると公園まで差し掛かった時、この時間帯人っ子一人いないはずの公園のベンチで、制服姿の男の子が俯いていた。


なんだ・・・?


少し心配になって声をかけることにした。


「ねぇ・・・大丈夫?」


学ランを着たその子はパッと顔を上げて、少し伸びた黒い前髪から驚いた眼を見開いた。

それと同時に彼の左頬が腫れて血が滲んでいるのもわかった。


「あ・・・」


「わっ大丈夫か!?どうしたの?あれ・・・・てか・・・もしかして昨日トイレで声かけてくれた子?」


俺が思い出して言うと、彼は気まずそうにしながらもコクリと頷いた。

何があったか聞こうにも答えづらそうにしていたので、とりあえず家で手当てするからと、半ば強引に家に招いた。

大人しくソファに座るその子に、温かいタオルで頬を拭いて、救急箱を開けて消毒をし、ガーゼを張り付けた。

出血は止まっていたようだし、何とか出来る範囲の応急処置だ。


「痛いよなぁ・・・痛そうだなぁ・・・どう?まし?」


「・・・はい・・・ありがとうございます。」


頼りない返事を返した彼は、俺をじっと見たり目を逸らしたり、落ち着かない様子だった。


「無理に事情聞かないけどさ・・・もし・・・いじめとかだったら・・・俺は一応大人だし、学校に報告してやりたいなぁって思ってるよ。」


小柄で制服も真新しくて汚れてはないので、まだ1年生になりたての子かもしれない。


「いえ・・・あの・・・友達が変な奴に絡まれてて・・・それで割って入ったら殴られて・・・別にいじめではないです。」


「マジか・・・それはえらかったなぁ。んで・・・家には帰りたくなかったの?」


「家は・・・今日は母さんがいるし・・・どうしたのって心配かけるよなぁと思って・・・言い訳を考えてて・・・」


「そんなんそのまま言えばいいよ。後ろめたいことがないなら。」


その子は少し黙って、またポツリポツリと続けた。


「俺・・・中学の頃はいじめられてて・・・母子家庭だし・・・わざわざ地元から離れたとこに引っ越してくれたのに・・・またいじめだと思われたら・・・」


「・・・そっか。」


小さな体で自分の親を心配する様を見て、特に嘘をついている様子もないし、どうしたもんかと考えた。


「わかった。じゃあ家近いんだろうし、一緒に帰ろう。俺はただの近所に住む大学生だし、ただ手当しただけで怪しまれないと信じてさ。一人で上手く伝えられなくても、俺が一緒に説明してやるから。・・・ホントに隠してることはそれで全部だよな?」


その子は涙ぐんで俺を見て頷いた。


「よし、行こう。」


小さな手を取って立ち上がると、彼はまた申し訳なさそうに口を開いた。


「あの・・・手当してくれてありがとうございます。あの・・・芹沢と言います。西高の1年です。」


「ん、俺はT大の3年生ね。西田・・・西田 円香。」


ようやく自己紹介を交わして、芹沢くんはまだまだ子供っぽい顔立ちが残る表情を、照れくさそうに前髪で隠して、少し笑ってくれた。

その後一緒に家を出て、彼のうちへ向かった。歩いて2、3分で着いてホントにご近所だった。

家を訪ねて出てきたお母さんに事情を話した。上手く言えずに拙い言葉にしながらも、彼は一生懸命自分に起きた出来事を話した。

無事誤解なく事情は伝わって、その後人の好さそうなお母さんに何度もお礼を言われ、恐縮して返答していると、日が暮れかかってオレンジ色に染まった玄関先で、芹沢くんはスマホを取り出して言った。


「あ、あの・・・・今度お礼したいので連絡先聞いてもいいですか・・・」


「ああ・・・いいのにそんな・・・。」


「いえ・・・是非・・・というかあの・・・西田さんと友達になりたいっていう理由で聞いちゃダメですか?」


何とも可愛い口実と真っすぐ見つめる瞳にやられて、了承して連絡先を交換した。

芹沢くんは嬉しそうに俺の連絡先が入ったスマホを眺めて、また改めて頭を下げて礼を述べた。


その後すぐに翔からのメッセージが届いて、彼の家を後にした。


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