第59話
次に目を開けた時、見慣れない天井が広がっていて、俺はしばらくボーっとそれを眺めた。
「・・・あれ・・・?ここどこ・・・?」
ゆっくり体を持ち上げると、近くのガラステーブルにお茶が入ったグラスと、自分のスマホが置きっぱなしだ。
手を伸ばしてスマホを取ると、21時頃だった。
「ハッ!リサのうちだ!」
やっと頭が切り替わってキョロキョロリビングを見渡すものの、彼女の姿はない。
けどふと奥の方で物音が聞こえて、そっちにいるのだとわかった。
洗面所・・・?お風呂か?
まぁいずれにしてもちょっと待っておこ・・・。
失敗しちゃったなぁ寝るなんて・・・・
緊張やバイトの疲れがあったせいか、思ってるより体は疲労していたんだろう。
眠くなった瞬間をもう覚えていないし、寝る前にリサと話していたことも思い出せない。
自分にビックリだわ・・・今日は何だよ・・・
失言ともとれる発言もあったし、挙句に初めてのお泊りデートで転寝するなんて・・・
ダメだ!落ち込んでても事態は変わらない!とりあえずリサに謝ろう・・・。
目の前の残されたお茶をグイっと飲み干すと、ちょうどリサがガチャっと扉を開いて戻って来た。
「あ、起きた?」
「あ・・・・・・」
まさかのお風呂上りのリサが戻ってきて、パジャマ姿が可愛すぎて、ソファのクッションに頭を沈めた。
「・・・・・・本当にすみませんでしたぁ・・・・」
「・・・・え?何が??」
「パジャマ姿可愛すぎるんだけどぉ・・・・死んじゃうってぇ・・・・。寝ちゃってごめんね・・・」
リサがクスクス笑う声が聞こえて、俺の側にやって来てしゃがんだ。
「別にいいよ?疲れてたんだよ。タオル置いてるし、円香くんもお風呂どうぞ。」
「・・・・・・あ・・・りがとうございます。」
ホカホカした暖かい空気を放ちながら、乾かしたばかりのリサのロングヘアからいい香りが漂って、理性を保つのに必死だった。
何とか心臓を落ち着かせて立ち上がり、着替えを持ってお風呂に入った。
シャワーを浴びてボディソープやらシャンプーやらを借りて洗った後、入浴剤が入ったいい香りのする湯船を眺めた。
・・・・リサが入ったお風呂かぁ・・・・いやダメだって・・・・変態になっちゃうじゃん思考が・・・勘弁してよ・・・
色々ともう限界だったので、湯船に浸かるのは諦めた。
むしろここまで理性を保ってる俺はえらいとすら思う。
タオルで髪の毛をがしがし拭きながら、淡々と平常心を尚も保ちながらスウェットに袖を通し、ドライヤーを借りて髪を乾かした。
リビングに戻ると、可愛いパステルカラーのパジャマを着たリサが、膝を抱えるようにソファに座って待っていた。
「あ、おかえり。」
「・・・・うん。お風呂ありがと。」
「うん♪円香くんは寝巻はスウェット派なんだね。」
「そ・・・そうだね。」
リサがニッコリ微笑んで両手を広げるので、迎えてくれるままに細い体を抱きしめた。
途端にいい匂いが立ち込めて、それを深呼吸するように大きく吸い込むと、何でか涙が出そうなくらい満たされた気持ちになる。
「・・・リサ大好き」
「・・・ふふ・・・私も♡」
頬にキスして、それから首にもキスして、そっと離れて顔を覗くと、真っ赤になったリサが視線を逸らして、それから細い手で顔を覆ってまたふふっと笑った。
「あのね円香くん・・・」
「ん?」
「私ね・・・・きっと・・・円香くんが想ってるよりずっと・・・・重たい彼女だし・・・色々気にしちゃうし・・・すぐ焼きもち妬いちゃうし・・・心配になって電話したり、メッセ送ったり・・・色々しつこく聞いちゃったりするんだよ。」
「そうなんだ。」
リサは可愛い顔をそっと手の隙間から覗かせて、不安そうにした。
「そういうので嫌われちゃうの・・・」
「・・・誰の話?」
「・・・えっと・・・」
「・・・言いたいことはわかるよ。不安になることも・・・何かリサが本当に言いたい時に、何かを言えないでいることも。でも言える時に言ったらいいと思うし、俺は何を言われてもちゃんと真摯に受け止めるよ。悩んでることがあるなら一緒に考えるよ。だからいつでも言ってくれていいんだよ、伝えたいことは。俺も・・・言えずに後悔して失敗したことあるからさ、ちゃんと出来るだけ正直に伝えようと思ってるよ。」
リサは大きな目をじっと瞬きもせずに見つめ返して、じわっと涙を見せた。
「円香くんが大好き・・・」
「・・・俺もリサが大好きだよ」
「不安になってばっかりじゃ嫌われちゃうって思っちゃうし・・・下らないこと気にしちゃうし・・・振り回しちゃう気がするし・・・円香くんは気遣い屋だから・・・負担にならないかなって考えちゃう。私ね・・・・ホント贅沢なことばっかり考えちゃう・・・。もう傷ついて別れたくないから・・・このまま一生・・・円香くんと・・・・。私、子供の頃からの夢が・・・好きな人のお嫁さんになることなの。」
「ふふ、可愛い夢・・・」
「・・・薫くんもそう言ってくれてた・・・。」
その時自分の中でカチっと何か音が鳴った気がした。
「・・・・・リサの今の好きな人は俺でしょ?」
「うん。」
「・・・・・俺だって・・・・・沙奈を愛してたよ・・・・。」
「・・・・え?」
「結婚しようと思ってたよ・・・彼女と。」
リサが不安な瞳から、どんどん後悔したような目に変わっていった気がした。
「そんなこと聞いてもリサは嬉しくないよね、ごめんね・・・・」
「・・・ごめんなさ・・・・」
リサが後悔と謝罪を口にして、また彼の名前を呼ぶ前に口を塞いだ。
奪うようにキスをして、そのまま剥ぐように次々パジャマを脱がせた。
リサが怖がらないように何度も耳元で好きだと囁きながら、裸になって持ってきたリュックからゴムを取り出した。
見たことないリサの恥ずかしそうな表情と、聞いたことない嬌声が、何度も本能を駆り立てて止まれなくて、ソファで2回ほどした後に、ベッドに移動して続きをするうちに、持ってきたたった一箱のゴムは使い切ってしまった。
明日は筋肉痛だな・・・と冷静に思いながら、ボーっと力尽きるリサの隣に転がって、気を失うように眠った。
彼女のベッドの周りには、彼女自身が作った可愛いぬいぐるみで溢れてる。
大きくて立派な白いベッドで、乱暴にリサを抱いて、どれ程汚したかもわからない。
ふわふわ浮いているような夢を見て、それがふかふかのリサのベッドのせいだと気づいて目覚めた時は、リサが後からかけてくれたのか、温かい掛布団に二人くるまるように入ってた。
スヤスヤ穏やかに寝息を立てて、リサはすり寄るように俺の腕を取って眠っていた。
か~~~~んわい♡
思わずおでこにキスを落として、ニヤニヤ寝顔を眺めた。
あ~~~可愛い。美少女過ぎるでしょ・・・。てかリサすっぴんだよな・・・当たり前か・・・スッピンも尚の事好きなんだけど・・・
まつげなが~~・・・・肌しろ~~・・・唇ふわふわ・・・
親指でそっとなぞるように唇に触れると、リサはわずかに口を開いて反応を見せて、あろうことかそのままハムハム口を動かした。
「食べられたんですけど。は?何この可愛い生き物・・・」
声に出ちゃった・・・
するとリサはうっすらと、ゆっくり目を開いてボーっと寝ぼけ眼で俺を見た後、可愛いピンクの唇をニンマリ持ち上げた。
「まどか・・・く・・・」
体を密着させて、リサはそっと唇を重ねて、また眠そうに目を閉じてしまう。
天使って実在したんだ?
「・・・聞いてないだろうけど・・・今は聞こえてなくていいや・・・。リサ・・・俺のお嫁さんになって・・・。」
またスヤスヤ寝息を立てる彼女に、こんな戯言を聞こえてない時しか言えないんだから、俺はもっともっと大人になった後に、自信を持って言えるようにならなきゃなぁと思いながら
心地いいまどろみの中、また夢に落ちた。




