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第51話

何度も何度も、緊張を吐き出すために息をついた。

お盆が明けて、佐伯さんとデートの日、今日告白しようと決心して、脳内でシミュレーションを繰り返した。

まずは待ち合わせ場所にて、いつも気を遣って早めに着いている佐伯さんより早く到着することに努めて、無事20分前に駅前に降り立った。

周囲を見渡したけど、彼女はまだ来ていない。

俺が先に着いていることで、彼女には待たせてしまった、と思わせてしまうかもしれないけど、この近くで用があって早く着いたとか、適当な言い訳も用意している。

そして何より、意地でも自分が先に到着しようと思ったのは、以前椎名さんから聞いた話で、佐伯さんは人が多い場所に一緒に出掛けると、ナンパされないことの方が少ない、と言っていたからだ。

まぁそれもそうだろうと思う。


佐伯さんは今こそ髪の毛の色は暗めだけど、美人だから目立つし、イタリア人のクオーターということもあって、なかなか日本人らしい美人っていう顔立ちじゃない。

けど俺が抱く印象として、今の彼女は『出来れば目立ちたくない』という意思を感じる。

現に大学で何人か集まって会話している場面でも、彼女はほとんど発言しない。

グループ課題の時は協力的で一緒に考えて意見してくれるけど、大きな声で話したり笑ったり、周りを巻き込むように会話する子じゃない。

服装はいつも品が合ってお洒落だけど、奇抜なわけじゃない。

化粧も濃くなくて、どちらかと言えばほとんどしないくらいかもしれない。

サラサラなロングヘアは、特に髪飾りをつけるわけでもない。

ピアスやイヤリングをしているのもそんなには見ないし、振る舞いも口調も大人しい。

その容姿の裏では、男性から声を掛けられることに辟易しているのだろうと思った。

だから彼女がナンパをされるという隙を与えてはならない!

待ち合わせの前にされてたら防ぎようないけど・・・


緊張故にそんなことを一人で悶々と考え込んでいると、いつの間にか時間が経って、ふわっといい香りがして、スマホを眺めていた視界に人影が見えた。


「西田くん、ごめんね、お待たせ。」


「あ、佐伯さ・・・」


俺を見上げるように側に寄った彼女を、思わずガン見してしまった。

夏らしい涼し気な水色のワンピースに身を包んで、これまた夏らしいカゴバッグを持っている。

耳元には貝殻を模した飾りが揺れて、いつもサラサラな髪の毛は、今日はふわふわのゆるまきヘアだ。

少し濃いめのリップが可愛い唇に塗られていて、目元も少しキラキラしている。

ていうか可愛いさで眩しいし全体的にキラキラしてる。


「・・・どうしたの?」


「えっ・・・いや何でも。」


「そう・・・?・・・ちょっと気合入れ過ぎたかな・・・?変?」


「全然変じゃないよ!」


「ホントに・・・?」


あ~あ~あ~俺が変な反応するからだいぶ不安にさせちゃった・・・


「・・・可愛いよ。」


「ふふ、ありがとう。」


そこまでお洒落してこなかったことを、これほど後悔したことはなかった。


こんな大事なデートの時くらい、桐谷に服装のアドバイス求めたらよかったかなぁ・・・


でもとりあえず安心してもらえたみたいだし、「可愛い」と褒めることは出来てよかった。

歩いてショッピングモールに入った俺たちは、エスカレーターを上がって、映画館のチケット売り場前に到着した。

時間を確認しながら、目当ての映画のタイトルを探す。


「西田くん、チケット発券してくるね。」


「あ、うん。」


事前に鑑賞する時間を決めていたので、彼女は近くの機械でチケットを取り出して戻って来た。


「俺自分の分買ってくるね。」


「え?私スマホで予約したときに二人分買ったよ?はい。」


当然のように俺の分のチケットを差し出されて受け取った。


「え・・・ありがと・・・。いくらだった?」


「いいよ、誘ったの私だし。」


「おぉん・・・じゃあ・・・晩御飯は俺が奢るね。」


「ふふ、うん♪」


嬉しそうにする彼女は、さっと俺の手を繋いだ。


「まだ時間あるけどどうする?」


柔い右手の感触が伝わって、思わずニヤけそうになるのを堪えた。


「そうだね・・・。30分くらいか・・・最近映画館くるのも久しぶりだし、売店でパンフとか見ていい?」


「うん、見よ。」


佐伯さんは俺の手を引くようにウキウキしながら売店へ歩く。

現在公開中の映画のパンフレットが並んで置かれているのを、二人で本屋にでも来たようにじっと覗き込む。

子供向けのアニメ映画のパンフを指さして、彼女は小さい頃に親と観に行ったと、懐かしそうに笑った。


「家で見るのと映画館どっちが好き?」


徐にそう尋ねると、彼女は真剣な表情で思い悩んでから答えた。


「ん~~~・・・どっちも好きだけど・・・・どっちだろ・・・。でも私一人で観ることそこまでないからね、友達と家で観たり、デートで映画館行ったり・・・とかだから、どこで観るかっていうより誰かとみるのが好きなんだと思う。」


「そうなんだ。まぁ・・・確かにそうかもなぁ・・・。映画デートってさ、定番だけど、二人きりで話せるわけじゃないし、2時間くらい作品を見る時間に取られるから、最初は俺あんまり好きじゃなかったんだよね。」


「そうなの?」


佐伯さんはさり気なく指を絡めて、繋いだ手を握りなおして、また可愛い上目づかいで俺を見上げた。


「・・・うん、でも雰囲気を楽しむ空間でもあるし、やっぱ広い映画館の広場に来るとさ、自然とワクワクするし他に気になる映画の話も出来るし、そういう楽しみを共有するとこだったりするよなぁって・・・・」


話してる俺をじっと見つめながら、佐伯さんは繋いでいる俺の左腕に、今度は自分の左手も添えて、あろうことかスリスリ撫で始める。


「ちょ・・・ちょっと、くすぐったいんだけど・・・」


「あ、ごめんね?うふふ・・・」


「何さぁ・・・」


「私人の腕触るの癖で・・・なんか内側ってスベスベで気持ちよくない?美羽と出かけててもよくさわさわしてるから、指摘されて癖だって気付いたんだよね。」


「・・・そうなんだ・・・。他の男友達にもしてんの?」


何となく不安になってそう聞くと、彼女は思い出そうと視線を泳がせる。


「ん~・・・してないと思う・・・けど・・・」


「・・・あんま男にはしない方がいいよ?」


また何となく既視感ある会話に思えて、それでも彼女が無意識にやっていることなら、出来れば他の男にはしてほしくなかった。


「そっかぁ・・・どうして?」


意地悪なのか純粋な疑問なのか、測りかねる可愛い笑みを返されて、思わず意地悪をやり返したくなった。


「・・・何でか考えてみて?」


「えぇ?ふふ・・・じゃあ考えとく。」


あんまり口説いてることに気付かれてないのか、彼女はただただ楽しそうに微笑んだ。

ポップコーンやジュースを買って、いざ映画を鑑賞している間も、さり気なく俺から手を繋いでみたりしたけど、ニッコリ握り返してくれるだけで、あんまりドキドキしてくれてる様子じゃなかった。


やっぱ映画館デート向いてないかも・・・


気合を入れてきた割には気持ちが空回りして、大音量で盛り上がるアクションシーンで、一人気持ちが置いてけぼりにされていた。

かと言って咲夜のように女性を上手く口説けるほど、口が達者なわけでもない。

翔みたいに純真で素直な行動でリードできる程、器用なわけでもない。

特別な感性を持つ桐谷みたいに、作品の深さを理解して、楽しみを共有出来るわけでもない。

何となく映画観て、何となく終わってスクリーンを出てきてしまった。


何とかいい雰囲気にしてって、花火大会の時しっかり告白しないと・・・!


息巻いては彼女の言動に翻弄されて、でも心底楽しそうに話してくれる佐伯さんを見てると、例え自分の気持ちが空回りしても、満足してくれてるならそれでいっか、と思えてしまった。



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