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第48話

楽しい時間はあっという間で、花火を終えた一同はその後、飲み物片手にリビングで大きなテレビをつけて、たまたま放送していた映画を皆で鑑賞した。

人気のシリーズもので、4人とも1度は観たことある作品だったけど、同じ俳優が出演している他作品の話になって、そこから最新作の話題になった。


翔 「そういやこないだ美羽と観に行った映画でもさ、あの俳優さん出てなかった?」


椎名 「うん、出てた!主人公のライバル役のお父さん?で出てたよね。」


佐伯 「そうなんだぁ・・・。私小さい頃お父さんがよく観てた、アクション映画のイメージ強いなぁ。」


西田 「あ~あったね・・・タイトル忘れたけど・・・。てかこないだ映画のCMでチラっと見たような・・・」


佐伯 「そうそう!ちょっと気になってる最新のやつがあって・・・それにも出てるんだよねぇ。観に行きたいなぁ。」


翔 「行ったら?二人で。」


翔が急で露骨なアシストをしてきて、一瞬俺も佐伯さんも目を見合わせた。


佐伯 「あ・・・じゃあ・・・西田くん、こないだ花火大会行こって話してたし・・・その時に一緒に映画も観ない?」


「あ~そうだね、近場で最近やるとこありそうかな・・・」


スマホを持って検索し始めると、視界の隅で翔がニヤニヤこちらを眺めているのがわかる。

調べているうちに盆明けに近くでやる花火大会を見つけて、かなり大規模な所だし、近場で見れるスポットを探してみようということになった。

その後女性陣二人が、お風呂が広いし一緒に入ってくるとリビングを離れると、翔はまた他愛ない話を始めた。


「ぶっちゃけさ~西田が心配してた、水着姿でドキドキしちゃう!みたいな現象あったの?」


「あ~・・・まぁそりゃ・・・ドキドキはしたけど・・・あんまり意識しないようにというか・・・あちこち見ないようにしてたかな。」


「・・・それはもちろん佐伯さんにドキドキしてたわけだよな?」


「そりゃね。・・・気になる人ではあるから・・・」


「あのさぁ・・・」


「ん?」


翔は業を煮やしたようにジトっと俺を見た。


「正直、どこがダメなの?佐伯さんの。」


「・・・ええ?ダメって?」


「普通にいい子だし、美人だし可愛いしさ、優しいし・・・西田が好きになる要素しかないじゃん。」


「・・・それは俺もそう思うけどさ・・・。・・・俺さ、元カノとか桐谷とか・・・好きになった人の共通点が何だったかって考えた時・・・何かに一生懸命で、ひたすら頑張ってる真っすぐなとこだったり、自分のやりたいことに一途だったり・・・そういうところだって気付いたんだよね。佐伯さんはさ・・・俺に対して接してる時どっかまだ・・・気を遣って接してくれてるように思えるっていうか・・・。彼女の個人的なところをまだ全然知らなくて、急激に惹かれたりしてないのかも。」


「・・・ほ~~~ん?なるほど・・・」


「でもさ、中身がしっかりしてる子だなぁとは思ってるよ。後・・・一緒に居て普通に楽しいし、安心するなぁみたいな・・・」


残っているアイスコーヒーに口をつけると、翔は小首を傾げて言った。


「・・・それは~・・・もう好きなのでは?」


「好きは好きだよ?でもそれは友達だからじゃん。独り占めしたいとか、そういう欲はないよ。」


「ホントか~~?」


「ホントだよ・・・。俺がカッコつけてそんな嘘つかないの知ってるでしょ。」


「おん、まぁな。・・・てか、西田イケメンなのにカッコつけるの嫌いだよな。」


「・・・カッコつけたら後で本心が見えた時ガッカリされるじゃん・・・」


「でもさぁ、女の子の前では男ってちょっとカッコつけたくなる生き物じゃね?」


「ふ・・・まぁ確かに・・・。」


俺は結局のところ、自信を持っていいと周りに言われても、小心者なんだと思う。

傲慢になるよりは謙虚でいる方がいいのかもしれないけど、いざというときに勇気を出すための自信は、やっぱり必要だろうなぁ。

自己肯定感とでも言い換えようか、浅い人生経験じゃ何も肯定できる要素を感じなくて、思い切って留学にでも行けばいいだろうかとすら思う。


でもその前に就活だなぁ・・・。


急に現実にぶち当たって遠い目をしていると、翔は側にあったお菓子をもぐもぐ食べた。


「どうしたぁ?」


「いやぁ・・・夏のインターンシップ逃してるし・・・ちゃんと就活しないとなぁって思ってる。」


「んああぁぁあぁああ・・・」


「何の鳴き声?」


翔は苦い顔をしながら隣に座る俺に傾いてきて、ずるずると体を倒して俺の太ももを枕にして転がった。


「見ないようにしてた現実をお前ええぇ・・・」


「いや実際もう3年だったら春から始めるって。」


「うわあぁあぁ・・・・・・・・。ちなみに美羽はインターン行ってる・・・」


「あ、マジで?・・・佐伯さんどうなんだろ・・・」


そういや何度かデートしてるけど、就活の話は聞いたことなかった。


「咲夜はお兄さんの会社手伝うって決まってるみたいだしなぁ~~・・・。桐谷どうなんだろな。」


「あ~・・・前飲みに行った時聞いたけど、インターン行く予定のとこいくつかあるって。あいつは俺なんかより、ちゃ~んとしっかりちゃっかりしてるから・・・行きたい企業絞ってもうバッチリよ。」


「マジかあぁああぁぁあ!何もやってないの俺らだけじゃん!」


「そうだなぁ・・・。早いに越したことないし、遊びまくるのは夏休みまでにして、明けたらそれぞれ頑張るか。」


「頑張るわぁぁぁぁあぁ・・・」


翔が腕を伸ばして尚も俺の膝の上で寛いでいると、お風呂から戻って来た二人が、俺たちを見て言った。


椎名 「えっ・・・!!可愛い翔くんがカッコいい西田くんとじゃれくっついてて尊いんだけど!!!」


佐伯 「ふふ、ホントだ。」


翔 「じゃれついてるっていうか・・・現実にぶちあたって死んでる図だよ。」


椎名さんが側に寄ると、飼い犬のように抱き着いて甘えだす翔を、佐伯さんは微笑ましく眺めていたので、ふと気になったことを尋ねた。


「佐伯さんはさ、インターンとか行ってる?もしくはもう企業決めてたりする?」


「うん、接客好きだから販売系のインターン行ってるよ。」


「ちゃんとしてたぁ・・・」


夏休みが終わってしまえば、3年生は半分終わったも同然。

大学は基本季節の休暇が長いし、早めに内定をもらって4回生に進級して、後は卒論だけっていう状況にしておくのが得策だろう。

特に自分が何をしたいか決められないままふわっと就活に入ってしまう・・・。

自己分析して何系がいいか絞らないとなぁ。


じゃれ合う二人をボーっと眺めながら考えていると、佐伯さんがそっと側に座って言った。


「考えること色々あるのも事実だけど、今はせっかく遊びに来てるし、楽しめる時に楽しも。」


「・・・そだね。切り替えなきゃね。」


笑顔で頷く彼女から、お風呂上がりのいい香りが漂ってきて、何かソワソワしてしまう。

その後交代で翔と風呂を済ませて、一同たくさん遊んで疲れていたこともあってか、22時を過ぎる頃には、各々口数も少なくなって欠伸を漏らしていた。

ソファでまどろんでいても転寝するだけなので、それぞれ二階の部屋へと向かった。

すると自分の寝室へ入ろうとした時、翔に呼び止められた。


「西田ぁ・・・」


「ん?」


「俺美羽と同じ部屋で寝ていい?」


まるで誰か一緒にいないと寝れないとでも言うように、目をこすりながらそう尋ねる翔が、何故了承を得ようとしているのかわからなかった。


「いいんじゃない・・・?」


「わ~い♪」


機嫌よく廊下を歩いて、椎名さんがいる奥の部屋に向かう翔が、子供っぽく見えても、自分と同じ男だとわかっているけど、俺はどうにも翔が彼女に対して、男を見せるところを想像出来かねるので、翔に対してセクハラまがいなことを聞いたり言ったりすることはない。


付き合ってるし一緒に寝るくらい問題ないことだから了承したけど、イチャイチャするけどいいですかっていう問いかけか?


半ば疑問に思いながら寝室のベッドに潜り込む。

ふわふわの心地いい布団に包み込まれると、急激に瞼は閉じて、意識を失うように眠った。


その日は久しぶりにぐっすり快眠だったと思う。

何となく夢を見た気もするけど、その記憶を失くすくらいその後深い眠りについていた。

うっすら覚えていたのは、どこか知らない部屋で一緒にいた、見覚えあるような誰かわからない女性。

談笑しながら穏やかな笑みを浮かべて、幸せそうに一緒に居てくれた誰か。


「西田くん」


「ん・・・・」


ハッキリとした声が聞こえて目を開けると、俺を覗き込むようにベッドの隣に座る佐伯さんがいた。

ボーっとする頭を、窓から差し込む朝日が無理やり起こす。


「んあ・・・佐伯さん・・・?」


「ふふ、おはよ。もうすぐ8時半くらいなんだけど、起きれそう?」


朝からニッコリ可愛い笑顔を見せられて、思わずニヤけてしまう。


「ん・・・もうそんな時間か・・・。」


体を起こして伸びをして、意識を取り戻すように何度か瞬きする俺に、彼女はそっとベッドに腰かけて俺の髪の毛を手櫛でといた。


「ちゃんと眠れた?」


「ん?うん・・・結構ガチ寝してた。・・・・・てか・・・コラ・・・男が寝てるベッドに気軽に腰かけちゃダメでしょ・・・てか寝室に入ってきちゃダメでしょ。」


「ふふ・・・だって西田くんの寝顔可愛かったんだもん。ちょっと眺めちゃってた。」


「・・・あのねぇ・・・同じこと俺がしたらおかしいでしょ?嫌じゃないの?」


「え・・・あ・・・ごめんね?」


「いや・・・俺は別にいいけど・・・。そんな気軽にベッドに座ったら襲っちゃうよ?」


ベッドから足を出して立ち上がると、何も答えない佐伯さんは俯いて黙った。


・・・・え・・・俺今だいぶ変なこと言ったな?


「あ~違うえっと・・・・冗談だから、本気で言ってないからね?」


しゃがみ込んで彼女を覗くと、キョロキョロする茶色い瞳が合って、若干頬は赤らんでいた。


「・・・冗談なの?」


少し気まずそうに視線を逸らす彼女が、いったいどういう心境なのかまったくわからない。


「・・・・・うう~~・・・もう~・・・あのさぁ・・・からかってんのかなぁ・・・どうしていいかわかんないからそういう聞き方やめてよぉ・・・。」


俺が膝を抱えるように顔を覆うと、また佐伯さんの可愛い笑い声がした。


「ふふ♪ごめんね。別にからかってないよ・・・。ただ起こしに来ただけなの。・・・おはよ。」


「ん・・・ありがとね。」


何気なくて、あまりにも日常的で、当たり前なその「おはよう」に、彼女の可愛い笑顔に、心の中でハッキリ、ああ、好きだな・・・と思ってしまった。


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