第47話
結局佐伯さんとの会話で眠気も飛んでしまったので、その後も他愛ない会話をしていた。
中高生の頃の話や、家族の話、友達の話や過去の恋愛話。
以前バイト先でランチを食べながらデートした時、自分の話は結構していたので、彼女が話す歴代の元カレの話を聞いた。
佐伯さんは高校1年生の時始めて彼氏が出来たらしいが、その相手がどうにも虚言癖のある男だったらしく、おかしいなぁと思っていたところ、違うクラスの女の子と二股していることが判明したらしい。
その後、美術部の同じ部員の男子と仲良くなり、付き合うことになったらしいが、その彼氏も悪びれることなく平然と浮気を繰り返し、周りの友達からも相談するたびに呆れられてしまったのだとか。
どちらもさして長いこと付き合うことなく縁が切れ、それなりに悲しい思いをしたみたいだが、今思えばただただ子供っぽい恋だったと笑った。
「ダメ男製造機とか・・・メンヘラとか散々揶揄されたんだぁ。」
「そうなんだ。でもどこにでもクズはいるからさ・・・。たまたま引っかかっちゃっただけだよ。別に俺は佐伯さんと人付き合いしてて、あ~こういう関わり方がダメなんだろうなぁとか思ったことないよ。」
「そう?・・・ふふ、ならよかった。」
その後翔と椎名さんが帰ってきて、いい時間になったので、4人でバーベキューコンロを庭に出して準備を始めた。
切り終わった具材たちを金属の串に刺して、無事火をつけて焼けるのを見守っている間、缶ジュースに口をつけていると、翔がそっと俺に近づいて耳打ちした。
「どうだった?」
「え?何が?」
「んだからぁ・・・二人っきりの時、ちゅーくらいした?」
「あれ?既視感あるなこの会話・・・」
でもまぁちょっと間違ったらしそうな空気ではあった・・・。
翔はワクワクしたような目を向けて返事を待つ。
「してないよ。色々話はしたけどね。」
「ふぅん?更に仲良くなれた?」
「まぁ・・・そうだね。そういや、別荘の中を佐伯さんとウロウロ回ってる時、手持ち花火が置いてある棚を見つけてさ。ご丁寧に、『ご自由にお使いください』ってメモも貼ってあったんだ。やる?後で。」
「え~!マジで!?やるやる!」
小学生のように喜ぶ翔に、二人も興味を持って食事終わりに花火をすることにした。
丁寧に手入れされた綺麗な広い庭で、バーベキューをするなんて未経験ではあるけど、切って焼くだけではあるし、女性陣二人が息の合った段取りで次々焼いてくれたので、俺たちは高級そうな肉をしっかり堪能した。
後片付けは俺と翔で頑張って、その後4人でデザートのアイスを食べながら、庭の二人掛け用のベンチに腰かけた。
わざわざ準備されたのかわからないけど、ちょうどベンチは二つ用意されていた。
翔が椎名さんと一緒に座るので、俺は必然的に佐伯さんと隣同士座ることになる。
雑談しつつアイスを食べ終わって、リビングに用意していた花火を椎名さんと佐伯さんが取りに行っている間、翔が徐に言った。
「なぁなぁ西田・・・修学旅行みたいなノリで話していい?」
「ええ?なに?」
半笑いで聞き返すと、翔は足を組んで頬杖をつきながらニヤっとした。
「西田好きな子いんの~?」
「何だよそれ・・・」
苦笑いを落とすと、翔は重ねて言った。
「西田も咲夜もはぐらかすの上手いからなぁ。どうなんだよ。」
「・・・好きな子ねぇ・・・」
頭の中で佐伯さんとのやり取りを思い返しながらも、芹沢くんや桐谷・・・更には別れた沙奈のことまで思い出した。
「・・・わかんないなぁ・・・。いないかもね。」
ポツリとそうこぼすと、虫の音だけが草陰から聞こえる暗闇で、翔は意外と冷静な顔つきで見つめ返した。
「そっかぁ・・・。」
「・・・・ごめんね、期待に沿う答えじゃなくて。」
冗談半分でそう言うと、翔はいつもの可愛い笑顔を向けた。
「何言ってんだよ。俺の期待とかどうでもいいの!大丈夫だよ西田。俺さ、結構交友関係広い方だって自負してるけど、西田以上にいい奴に会ったことねぇよ。俺なんかよりずっと、自分の事より周りのことも一生懸命考えられる奴だって知ってるから。今はモヤモヤしたり色々思うことはあんのかもしんないけどさ、西田のいいとことか、情けないとことか、カッコイイとこも全部受け止めて大事にしてくれる恋人は出来るよ。自信持てって!」
「・・・ありがと。」
椎名 「二人とも~バケツに水汲んで来たよ~花火やろ。」
戻って来た二人がたくさんの花火を抱えていて、俺と翔は気を取り直して、カラフルな花火の袋を開けていった。
そんなにやる機会がないものだけど、数年ぶりにあれこれ試すように火を灯して、大きな打ち上げ花火もいくつかあって、せっかくなので使わせてもらった。
翔はどうせなら派手に見たいと、打ち上げ花火をいくつか横に整列させて、順番に火をつけていった。
テレビで見るような大きな花火と違って、小ぶりではあるけど色鮮やかで弾ける音も相まって、4人して童心に返ったようにはしゃいだ。
「は~満足!全部使っちゃったかな。」
腰に手を当てながら汗を拭う翔は、花火の残骸をかき集めて言った。
「あ、線香花火残ってるよ。これで最後かな。」
やっぱり締めは線香花火だと意見が一致して、この時ばかりは何だか静かになって、皆一様に慎重になって、火をつけてこよりを持つ。
そのうちパチパチと小さく咲く花火は、僅かな灯りなのにも関わらず、十分に辺りを照らすように燃えて、寄り固まって楽しむ俺たちの表情を照らした。
「なんかさ、マジで・・・良い夏休みの思い出って感じじゃね?」
満足気に言う翔に、一同笑みを漏らして頷く。
「翔くん、誘ってくれてありがとう。」
小さく膝を抱いてしゃがむ佐伯さんが笑顔で言うと、翔はふふんと得意気にニンマリした。
「どういたしまして!ま、西田も最初は行くの渋ってたけど、結果的に来て良かったろ?」
「ふ・・・そうだな、ありがとな。」
「え、西田くん最初は来たくなかったの?」
椎名さんが反射的に聞き返すと、翔は彼女にコツンと頭をくっつけて言った。
「そうなんだよ~こいつさ~恋人でもない女の子の水着姿で・・んぐ!」
思わず線香花火の火が落ちるのも構わず、翔の口をふさいだ。
「余計なこと言わなくていいってば・・・。」
椎名さんと佐伯さんはポカンとしていたけど、今日一汗をかいた瞬間だったのは言うまでもない。




