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第44話

やってきた別荘地への旅行当日。

準備万端、体調も良好、道中の水分補給用のペットボトルを二つ携えて、いざ意気込んで玄関のドアを開けた。

じりじりとジメジメ・・・徐々に台風は近づいてきているらしい・・・

まぁ1泊2日だし、その間の天気は問題ないようなので良かった。


そんなことを考えながら、額に汗が滲んでくるのを感じて、ポケットに入れたハンカチで拭った。

小型の扇風機を歩きながら持つ人も目に入るけど、正直生ぬるい空気を浴びたところで焼け石に水だし、思い付きで購入したネッククーラーを首にかけて駅まで向かっていた。

一歩ずつ進むごとに心の中で、暑い・・・暑い・・・と呪いのように唱える。

灼熱地獄だ。昼間の気温は38℃を超えるようで、午前中であってもうだるような暑さだ。


「西田~~!」


暑さを恨みながら目的の駅に着いて、乗り換えの改札口前で翔が大きく手を振っていた。

駅構内だと幾分か涼しいので、女性陣二人は汗一つかいていないけど、翔はタオルを首にかけて、汗をかいた髪の毛をかき上げてオールバック状態だった。


「お待たせ・・・あっつい!」


「はは!西田暑さに弱いよな~。」


首に滴る汗をぐいっとシャツで拭って、電車を確認しながら各々一先ず水分補給する。


「西田くん、クーラーボックスに凍らせてる飲み物あるから、良かったら好きな時に飲んでね。」


小さな正方形のバッグを肩にかけた佐伯さんは、それをポンポンと叩いて見せた。


「マジで?ありがと~助かる。持ってきたお茶さっそくぬるくなってんのよなぁ。てか荷物持つよ。」


佐伯さんはリュックも背負っていたので、クーラーボックスをさっと取った。


「ありがとう。」


白いシャツに、涼し気なショートパンツ姿のラフな格好をした佐伯さんは、珍しくポニーテールにしていた。

小さな肩掛けの鞄から汗拭きシートを貸してくれて、虫よけスプレーやら塩分補給タブレットやら、俺以上に周りを気遣う準備はさすがだ。


それから4人で目的の電車に乗り込むと、涼しい車内はそこそこ空いていて、俺たちは座席近くで固まって立っていた。

すると吊り革を持って立っていた佐伯さんの前で、何人か同じくらいの年頃の男子が座っていて、チラチラと彼女を見ていた。

どうやら露になった佐伯さんの太ももをジロジロ見て、鼻の下を伸ばしているようなので、思わずイラっとしてしまう。

彼女は特に気付かず翔と椎名さんの話を聞いていたので、俺はさっと佐伯さんの隣に並ぶように立った。

同じく吊り革を持ち、色目を使っていた連中をジロリと見下ろす。

すると男性たちは気まずそうに視線を逸らして、我関せずの顔をして俯いた。


「・・・?どうしたの?西田くん。」


「ん~?何でもないよ。」


微笑んで見返すと、キョトンとした表情を返す佐伯さんが心底可愛い。


それから約30分ほど電車に揺られて、次第に車窓からは緑の景色が多くなってきた。

海にも山にも近い、東京からそう遠くはない避暑地は、時々チラホラとペンションのような建物が見える。

大型のスーパーやモールも少しはあるけど、人里から離れているのは確かで、空も空気も普段と違う気がした。

一同は少しずつ変わっていく景色にワクワクしつつ、咲夜に聞かされていた最寄り駅で降り立った。

改札を抜けて、地図アプリを見ながら歩く翔に続く。


「な~西田、別荘に使用人の人待ってくれてるって言ってたよな?」


「ああ、うん。鍵開けてもらわなきゃだから、一人だけ到着する頃に来てくれるって言ってたよ。暑い中待たせるの悪いし・・・ちょっと急ぐか?」


「そうだなぁ・・・っつっても歩いて10分くらいだよな。・・・予定してた時間よりちょっと早めに着いてはいるし、このまま行こう。」


「オッケー。」


途中歩きながら佐伯さんが用意してくれた飲み物を飲んだりしつつ、緑が多い歩道を皆で進んだ。

建物が少ないからか風はよく通るし、潮風もわずかに香ってきて爽やかな陽気だ。


「あ!あそこじゃね?青い屋根の建物!」


事前に咲夜に送ってもらっていた写真と同じ建物を見つけて、翔はパッと走り出す。

一同も追いかけるように建物へ向かうと、入り口である門扉の中には綺麗な庭もあって、小さな車が一台停まっていた。

白くて綺麗な外壁の別荘で、玄関前にはちょうど影になった所に、シンプルなメイド服を着た女性が静かに立っている。

先に駆け付けた翔がペコっと頭を下げると、その人も俺たちを一瞥して恭しく首を垂れた。


「お待ちしておりました。中原様、椎名様、西田様、佐伯様でお間違いないでしょうか。」


「あ・・・はい、そです。」


「お初にお目にかかります。高津家使用人の高津 麗華と申します。本日は咲夜様の別荘のご案内及び、御用聞きを担当させていただくこととなりました。皆さまお暑い中お疲れのことと存じます、どうぞお入りください。」


「あ、ありがとうございます。」


厳かな雰囲気に一同促されるままいると、メイドさんは静かに鍵を取り出して玄関ドアを開けた。

広くてキラキラした大理石っぽい玄関で、少し緊張しながら一同は靴を脱ぎ、綺麗な廊下を歩く。


「うっわ~~~すっげ~~。」


天井を仰ぎながら広いリビングに向かう翔が、感嘆の声を漏らして、俺たちもまるで博物館にでも来たように、内装を見物しながらついて行った。

チラリとメイドさんに視線を送ると、静かに微笑み、スッとポケットから紙を取り出した。


「こちらは私めの名刺にございます。何か不備がございましたらお気軽にご連絡くださいませ。不測の事態がございましても、24時間対応させていただきます。」


「あ・・・はい、ありがとうございます。」


「お帰りは明日の夕方頃とお伺いしておりますが、咲夜様の命により、延長してお泊りしたい際も、対応するようにと仰せつかっております。一部の寝室のクローゼットには、皆さまがお使いいただけるように、洋服もご用意しておりますので、お着換えが必要な際は遠慮なくお使いくださいませ。食料はお料理いただけるものから即席のものまで、冷蔵庫、冷凍庫に完備しております。ご自由にお召し上がりください。」


「・・・何から何まで、ありがとうございます。」


俺たちがペコリと頭を下げると、特に微笑みを崩さないままメイドさんは続けた。


「ご不明な点などございましたらお伺いいたします。別荘内でご案内が必要な所は特にないかと思われますが、プールなど特別な施設部分をお使いになった際も、後始末などは後々我々がいたしますので、基本的には放置していただいて構いません。」


「そうなんだ・・・。じゃとりあえず各々寝室に荷物持ってく?」


翔はキョロキョロしながらリュックを持ち直す。


「そだな。荷物置いてちょっと休憩しよっか。」


その後メイドさんに沢山ある寝室を案内され、どこを使っても構わないと言われた。

どうやら近くにコンビニもスーパーもあるようで、必要なものがあれば買いに行けるみたいだ。

それ以上特に俺たちも尋ねることはなかったので、大丈夫だと伝えると、メイドさんはまた綺麗なお辞儀をして立ち去った。

受け取った名刺を冷蔵庫のマグネットで貼り付けていると、翔は言った。


「しっかし・・・想像以上かも・・・お金持ちの別荘って・・・」


椎名 「だねぇ・・・。なんかちょっと緊張しちゃった。でもホント素敵なとこ・・・綺麗に掃除されてるし、キッチンも調理器具とか全部揃ってるし・・・至れり尽くせりだね。」


佐伯さんも同じく頷いて、広いリビングを改めて見渡す。


「ホントだねぇ・・・。西田くん、高津君・・・費用5千円でいいって言ってたんだよね・・・?」


「あ~・・・うん・・・。」


二人も少し考え込むように黙って、翔は腕組みをしながら言った。


「咲夜はお金の話を後からごちゃごちゃ言うと嫌がるよなぁ。んでも・・・俺的には本来の予算は3万円以内だったんだよ。食費だけもらうっつっても、こんないいとこにプールで遊ばせてもらって泊まるわけだからさ・・・やっぱ皆気が引けるのは確かだし~・・・とりあえず一人1万円ずつ徴収して渡さない?楽しませてもらったから、ちょっと色付けたよ~って感じで。」


「・・・それはいいけど・・・最悪俺の伝達が上手くいってないじゃんって言われる可能性もあるな。」


「いいよ、俺がまとめて咲夜に渡すからさ。安く貸し過ぎだぞ!ってちゃんと話しとくから。咲夜んち行ったことないからさ、今度遊びに行く予定立ててんだ。その時に。」


「そうなんだ。・・・・わかった、任せるよ。」


女性陣二人も納得して頷いて、俺たちはとりあえず、真ん中にある大きなソファに座って息をついた。


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