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第41話

その日は珍しく翔がうちに遊びに来ていた。


「な~な~西田~」


「ん?」


翔はスマホに指を滑らせながら、また一口お菓子を口に運ぶ。


「なんか進展あった?」


「・・・?なにが?」


「だ~~か~~ら~~~~~」


涼しい自室でソファに座りながら、翔は俺の肩に頭突きした。


「佐伯さんと!!なんか!進展あった!?」


「・・・進展ねぇ・・・。そうだねぇ・・・。あったかもね。」


少しめんどくさい気持ちがあるけど、答えないと翔が駄々をこねるのも目に見えてる。


「え!!なに!?お祭りで二人っきりになった時ちゅーでもした!?」


「ちゅーはしてないなぁ・・・。付き合ってない人にキスしようとなかなか思わないよ。」


「うっそ・・・西田、誠実ピュア野郎じゃん・・・」


「んだとぉ?」


「じゃあどう進展したの?」


「・・・ん~手ぇ繋いだかな。」


ジュースのグラスをテーブルに置いて言うと、翔は情けない表情でポカンとした。


「・・・中学生の恋愛事情かよ・・・。」


「はは!確かに。別にいいんじゃない?俺はそこまで誰かと恋愛したいなぁっていう気分じゃないって、前も言ったろ?」


「ふぅん・・・そっか・・・。まぁでも進展は進展だな。」


翔はまた静かにお菓子をつまみながら、バイト先での話や家族の話を何気なくしてくれた。

そしてふと暗く表情を落として呟く。


「西田ぁ・・・俺余計なことしちゃった?」


「・・・ん?」


「別にさ、無理やりくっついてほしいなぁとか思ってるわけじゃないんだよ。本人たちが良好な関係でいられれば十分なんだし・・・。」


「・・・ん~・・・良好な関係は築けてると思うから、十分だと思うよ。それに・・・翔はあれでしょ?友達にはいい人と一緒になってほしいなぁみたいな、そういう気持ちから世話焼いてるんでしょ?」


「うん・・・」


翔のその真っすぐな気持ちが、素直な考え方が、愛された家庭で過ごしてきた、育ちの良さをよく表してると思った。


「翔はあれだな~、いい弟だし、いいお兄ちゃんなんだろうな。」


俺や桐谷よりもまだ幼い顔立ちをしている翔は、チラリと俺を見て少し照れたように「ふん」と胡坐をかいた。


「姉妹に囲まれてると現実見てるからな~俺は。女なんてそんなもんだ、みたいな考え方だったんだよ。浅はかで・・・でもいざ気になってる美羽には嫌われたくなくて、なかなか仲良くなれなくてさ・・・適当に好きだって言ってくれた子と付き合って、あっさり振られて・・・。何にも深く考えずに軽い人付き合いしかしてないことに気付いて・・・。俺は桐谷や西田みたいに思慮深くないし、自分を磨けるようなしっかりした考えも持ってない。誰かを無為に傷つけたくないから、簡単な関係は持たないっていう西田みたいな信念もない。咲夜みたいに・・・この人と一生一緒に生きていくんだっていう覚悟もないよ。ある意味俺は普通なのかもしれないけど・・・でも!友達には幸せになってほしいっていう気持ちは!誰よりも持ってる自信あるわ!!」


思いついたように豪語する翔は、ゴクゴクとジュースを飲み干した。


「俺は自分の気持ちに嘘つき続けるなんて器用なこと出来ねぇし、西田に迷惑かかってるわけじゃないなら、西田を幸せにしてくれるいい人と付き合えるアシストはしまくるからな!」


「はいは~い。ありがとな。」


息巻く翔のツンツンした茶髪をそっと撫でてやると、少しキョトンとした表情を返して、ジト目で見つめてきた。


「・・・西田、大丈夫かな・・・人たらしだよな・・・年下たぶらかしたりしてねぇよな?」


「・・・・・・えっ!?」


ふと芹沢くんが頭に浮かんで硬直した。


「言っとっけど未成年に手ぇ出したら犯罪だぞ?」


「わかってるわ!手ぇ出して・・・ないよ。」


ほっぺにキスはギリセーフだよな・・・。


不安そうにする翔を窘めながら話を逸らせて、テレビゲームをして盛り上がった。


その後満足して帰って行く翔を玄関先で見送って、ふと前に咲夜に言われたことを思い出す。


『誰かを好きになること、しんどいなぁって思ってる?』


「しんどいってわけじゃないんだよ・・・。あ~あ・・・気遣い過ぎる癖さえなければ、翔みたいに愛し愛される人間でいれたんかな。」


けど桐谷が言っていたように、好きな相手に自分の正直な気持ちや、我儘を受け入れてもらうことも大切だ。


・・・自然にしてよう。何も特定の誰かを望んでないなら、必死になる必要なんてない。

例えば芹沢くんや、佐伯さんと仲良くしてる中で、そのうち二人が「恋人が出来た」と俺に報告してきたとしよう。

そう言われた時、果たして俺はどう思うのか・・・


それぞれが心底幸せそうにしてるなら、それはそれで俺も嬉しいなぁ・・・ってくらいだ。

え~?俺じゃないの?なんて、厚かましく思わないし、相手の幸せがきっと一番だ。

絶対に譲れないような恋をしてない。

寂しくは思うけど・・・縁がなかったんだろうなぁという事実に、少し落ち込むくらいだろう。


自分の自信の無さや、執着の無さ、だいたいのことに無頓着であることに、がっかりしてるのかもしれない。

誠実だとか真面目だとか言われるけど、大きく失敗したくなくて冒険出来ないだけなんだよなぁ。


余ったお菓子をソファの上でポリポリ食べながら、次第に何となく眠気を感じていた。

そのまま現実と夢の境目のような感覚で、ふわふわしたまま、また夢を見た。



「ただいま。」と靴を脱いで帰った先は、沙奈と住んでいたあのうちだった。

いつもの落ち着くリビングに入ると、「おかえり」という沙奈の声が聞こえて、キッチンでご飯を作っていた。


『今日はハンバーグだよ~』


「マジで?やったぁ、ありがとう。」


荷物を置きながらふとダイニングテーブルに置かれているものを見ると、某結婚情報誌だった。

ブライダル情報が詰まっているそれは、何やら付録まであって、知ってはいたけど初めて見たので思わず手に取る。


「・・・これ、沙奈が買ったの?」


『ん?うん。』


それ以上何も言わずに料理を進める彼女をチラリと見る。


これはあれかな・・・催促されてるやつかな。

つっても俺大学生だし・・・


ページをめくりながら何となく眺めていると、沙奈は言った。


『会社の先輩と付き合っててね、来年くらいにって考えてて~・・・。』


「・・・・え?」


その言葉に妙な汗をかいて固まっていると、途端に蒸し暑い空気を感じてハッと目が覚めた。


エアコンは効いているけど、カーテンから漏れる西日が若干室温を上げている。

重くなった体を持ち上げて、額に滲んだ汗を拭って息をついた。


「も~・・・・何の夢だよ・・・・。」


少しイラついた気持ちを抱えながら、スマホを手に取ると母からメッセージが届いていた。

どうやら仕事帰りに父と待ち合わせて外食するらしく、晩御飯は適当に済ませろという内容だった。

どうしよっかなぁ・・・と考えていると、また通知音が鳴って芹沢くんのメッセージが届いた。

先日お母さんに買ってもらったと言っていたかき氷機を試して、今日食べてみたと画像付きで見せてくれた。


「かき氷もいいけど・・・」


ふと思い立って芹沢くんに、晩御飯は何を食べるのかと質問を返した。

聞けば今晩はお母さんが夜勤らしく、残っていたカレーの予定だとか。


日が暮れたら暑さもましだよな・・・


徒歩圏内にファミレスがあるので、思い付きで芹沢くんを誘ってみた。

するとすぐに既読がついて、着信画面に切り替わった。


「もしもし?」

「行きます!」

「お~そう?じゃあまぁ・・・まだ日が出てて暑いからさ、18時くらいから行こっか。」

「うん!えへへ・・・」

「・・・そんな嬉しい?ファミレスだよ?」

「円香くんとならどこでも嬉しいよ。」


浮き足だった可愛い声が片耳から聞こえて、ワクワクを抑えきれない高揚感さえも、短い言葉から伝わった。

けどその様子に少し罪悪感を覚えるのも事実で。

同じくらい返せる気持ちがないのに、彼を弄んでる気がしてならなかった。


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