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第40話

そこまで大規模じゃないけど、地元の人たちが集まっているのか、俺たちのような学生も多くて、神社はますます賑やかになってきていた。

人込みで歩けない程じゃないけど、浴衣を着た二人とはぐれないように、比較的人通りの少ない方で屋台を楽しんでいると、射的を楽しむ翔たちの向こう側で、人気のないベンチに座っていた咲夜と小夜香さんが見えた。

人が行き交う隙間に見えただけだけど、離れていても二人だと分かる。

咲夜は彼女といると一層に嬉しそうに笑うもので、微笑ましいなぁと思っていると、人目を盗むようにキスしていた。

思わず視線を逸らして盛り上がっている翔たちの背中を眺めていると、隣にいた佐伯さんが言った。


「素敵だったね、高津くんと彼女さん。」


「え?」


彼女は自分の浴衣を見下ろして、また俺の顔を見て口元を上げた。


「私着付け教室のお手伝いをしてたから何となくわかるの、彼女さんの浴衣、すっごくいい物に見えた。」


「そうなの?」


「うん。生地も帯も、他の小物も・・・装飾が細やかで、煌びやかなのに控え目で、派手になり過ぎず着こなしてるように見えたの。履物も巾着も、簪も・・・全身プロがコーディネートしたみたいに完璧だった。」


「へぇ・・・俺は綺麗だなぁ・・・くらいしか思わなかったけど、わかる人が見たらわかるんだね。」


「ふふ・・・私はそこまで着こなしに詳しいわけじゃないんだけど、お母さんもおばあちゃんもそういうの好きだから・・・。何がすごいって、彼女私より年下に見えたけど、あの浴衣を凛と着こなせてることがすごいなぁって。」


佐伯さんはあえて口にはしていないけど、小夜香さんは財閥の子だし、かなり身に着けているものは高額なものばかりなんだろう。

確かにそれを着こなせる品とスタイル、そしてそれが似合う風格を持っていることがすごい。


「・・・わざとらしくフォローするわけじゃないけど、佐伯さんも十分似合ってるし綺麗だよ。」


「うふふ、ありがとう。西田くんも浴衣着たらすっごく似合いそう。」


「あ~・・・どうなんだろうね。着たことないなぁ・・・。」


「実は女の子の浴衣は帯巻いてることもあって、夏の服でも涼しくはないんだけどね?でも男性の浴衣はそこそこ涼しいし、楽に着れるから手ごろなお洒落だと思うの。」


「そうなんだ。佐伯さんファッションに詳しい人?」


「詳しいって程じゃないけど・・・サークルでは服飾系の子もいるから、技術は側で見てるかなぁ。」


「なるほど・・・。」


そのうち射的を終えた二人が戻ってきて、少し別れて二人で回りたいからと、そそくさと離れていった。

去り際に翔はニヤっと口元をあげて、意味深にアイコンタクトしてくる。


翔の奴・・・本格的に佐伯さんと俺をくっつけようとしてんなぁ?


さり気ないことなんて出来ない翔は、最近常日頃からそういう言動が見え隠れしていた。


まぁいいか・・・

人の流れに飲まれないように端を歩きながら、その後も佐伯さんと他愛ない会話をしながら屋台を巡った。


「佐伯さん去年もお祭り行ったの?」


二人して空いていたベンチに座って、フランクフルトを頬張りながら何気なく尋ねると、佐伯さんは一瞬動きを止めて目を伏せながら、割り箸で手元の焼きそばをつまんだ。


「そうだねぇ・・・ここじゃないけど行ったよ。こないだ話した薫くんと。」


「あ~そうなんだ。」


「うん、子供の頃から何度か行ってた所だったからね、夜に上がる花火が見える穴場も知ってたから、いい思い出になるかなぁって思って。」


「へぇ、いいね、花火。そういや・・・俺手持ちの花火は家族とか友達とやったことあるけど、花火大会って・・・見に行ったことないかも・・・。」


「え、そうなの?」


佐伯さんは食べる手を止めて大きな目を見開いた。


「うん。テレビとか建物からとか、遠くの方でやってるのを見たことはあるけどね。友達と祭りに行くっていう経験はあるけど、花火メインで見に行ってないなぁ。」


「そっか・・・。」


佐伯さんはまた少量の焼きそばを口に運んで、何か少し想い馳せている様子だった。


「・・・良い思い出になった?その花火は。」


「・・・うん、綺麗だったし、薫くんも花火大会初めてだって言ってたから・・・楽しんでもらえたと思うし、良かったかな。」


寂しそうに笑みを落として、もぐもぐする佐伯さんを見てると、何だか勝手にシンパシーを感じる。


「・・・相手がじゃなくて、佐伯さんは楽しかったのかなぁ・・・。ごめ・・・俺余計なこと聞いてるな、さっきから・・・。」


彼女は隣でクスクス笑って、切り替えるようにパッと笑顔を作った。


「もちろん楽しかったよ。今もだけど。西田くんも焼きそばちょっといる?」


食べ終わった俺に気を遣ってか、佐伯さんは割り箸で美味しそうな焼きそばを持ち上げる。


「いいの?な~んかちょっとずつ食べてると余計お腹空いちゃうもんでさ~。」


箸を受け取ってソースが香る焼きそばをすすると、鰹節と青のり、なけなしの野菜と肉が何故かバランスよく感じて、いつもより美味しく感じる。


「うまぁ・・・」


「うふふ・・・」


佐伯さんはさっきより可愛くニコニコしていて、なんかこっちが照れてしまう。


「なに~?」


「ううん、西田くん普通の男の子だなぁと思って。」


「・・・ん?俺変な奴だと思われてた?」


「ううん、違うの。・・・・最初からいい人だと思ってたよ。」


「・・・まぁ・・・下心があって友達付き合いしてるわけじゃないから、いい人なのかな。」


「そっかぁ・・・。」


佐伯さんは綺麗にまとめたふわふわの髪の毛を耳にかけて、焼きそばのパックを受け取りながら言った。


「でもね?・・・ちょっとね・・・ちょっとだけ、勝手に期待しちゃってたの私。」


「・・・期待?何に?」


彼女はまたニッコリ笑顔になって、俺をじっと見つめた。


「西田くんに・・・浴衣姿可愛いねって言われたいなぁっていう期待。」


「・・・・・・ふ・・・・もちろん可愛いと思ってるよ。」


「・・・んふふ、ありがと♪」


佐伯さんは落ち着いた笑みを見せると、残りの焼きそばを静かに堪能していた。

提灯の灯りと行き交う人々の熱気を、どこか他人事のようにボーっと眺めていると、黙っていた彼女は不意に「あ・・・」と声を漏らした。

彼女の顔を見ると、驚きと戸惑いが混じった表情で固まっていた。


「薫くん・・・?」


佐伯さんの視線の先を見ると、何となく見覚えがある小柄な青年と、隣を一緒に歩く背の高い青年が見えた。

二人とも浴衣姿で、清涼な佇まいが爽やかで似合っていた。

彼女の熱烈な視線を感じたのか、見つめられていた彼はパッと横目で俺たちを見つけて、ハッと佐伯さんと同じ表情をした。

一緒に居た青年もこちらに気付いたけど、二人とも少し声をかけようか迷っている様子だった。

すると背の高い方の青年は、気を遣うようにペコっと腰を折って俺たちに会釈して、薫くんと呼ばれた彼の肩を抱くと、また仲睦まじく歩いて行った。

佐伯さんは小さく手を振って見送ると、軽くため息をついて、明らかに落ち込んだように視線を落とした。

膝の上でぎゅっと巾着の紐を握りしめて、さっきまで柔らかく微笑んでいた唇は静かに閉じたまま、その目は少し泣きそうなのを堪えているように見えなくもなかった。


「佐伯さん、今度花火大会行かない?」


「・・・え?」


「行ったことないからさ・・・8月にどこかそこまで遠くない場所でやる所があったら、行ってみたいなぁって思ったんだけど・・・。もちろんお互いの都合が合えばだけどね。」


俺の提案に彼女は少し戸惑っていたものの、少し元気を取り戻したように笑った。


「うん、行く。・・・ありがとう、西田くん。」


「別に気を遣って提案したわけじゃないよ。どうせなら遊び尽くしたいじゃん。それに夕方から夜に行くお祭りなら、多少は暑いのましだしね。昼間出かけるよりはいいかなぁって。」


「そうだね。」


佐伯さんは隣にあった俺の右手を、小さくて細い手でそっと握った。


「・・・手を繋いで・・・あんな風にお祭りデート出来るのって・・・羨ましいなぁって思っちゃった。」


「わかる。・・・・ごめんね、佐伯さんがどういう気持ちなのか詳しくわかんないし、気遣いが裏目に出ることもあるからさ、何て言ったらいいかわかんなかったんだよ。」


握り返してそう言うと、彼女は申し訳なさそうにかぶりを振った。

途端に綺麗な茶色い瞳に涙が溜まって、ポロポロこぼれ落ちる。

ハンカチを差し出すと、彼女は礼を言って静かに拭った。

しばらくして落ち着いた彼女の手を引いて、翔と連絡を取った合流地点に向かった。

佐伯さんは時々適当な話題に返事をするくらいで、繋いだ手を遠慮がちに握り返しながら静かに歩いていた。

人にもまれないように彼女を庇いながら先導して、少し開けた場所へ出ると彼女は言った。


「西田くん」


「ん~?」


「・・・夏休み中も、夏休み終わってからも・・・たまにデート誘ってもいい?」


「うん・・・いいよ。」


佐伯さんはホッとして笑みを返した後、翔たちを見つけて恥ずかしそうにさっと俺の手を離した。


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