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第38話

結局その翌日、大学を休んでしまった。

ため息をつきながら体温計を置いて、咲夜にお礼のメッセージを送り、ついでに休むことも伝えた。

心配した翔から世話を焼く母親のような長文のメッセージが来たけど、読むだけ読んで返信する元気はなかった。

桐谷からは特に何もなかったけど、俺にはわかる・・・。床に臥せっているなら、面倒だろうとわかっているから、何も送ってこないんだ。

めんどくさそうにしてて、あいつはそういう奴だ。


熱に浮かされて、適当な食事の後解熱剤を飲み、またフラフラとベッドに入った。

今が何時かもよくわかっていない中、ボーっとした頭はまるで、水の中をゆらゆら浮いているような感覚にさせた。


次に何となく意識が働いて目を開けると、咲夜と翔と桐谷が俺を覗き込むように見ていた。


「ん・・・・?あ・・・?え、何?」


体に力を入れて起き上がると、3人とも一様に安堵して何やらよくわからないことを、あーでもないこーでもないと言い合った。

俺が何の話をしているんだろうと首を傾げていると、桐谷がずいっと俺に顔を近づけた。


「な・・・なに?」


「西田・・・」


くいっと顎を掴まれて、あろうことかそのままキスされた。


ええ!?何この展開!!


俺がテンパっていると、続いて翔が言った。


「あ~!ずるいぞ桐谷!俺だってしてみたい!」


そう言い出して翔まで無垢な可愛い顔を近づけて、ニコニコしながら俺の顔を掴んでキスした。


「んん!!いや・・・!なに?どうした!?」


「・・・皆で西田の風邪をもらってやった方が、早く治るって誰かが言い出したんだよ・・・。誰が言ったんだっけ?」


咲夜はそう言うと、案の定俺の腕を引いてキスした。


「何やってんだよ!治るわけないだろ!やめろ!」


翔 「なんでだよ、桐谷とはそれ以上のことも色々したんだろ?」


「そんなこと今関係ないし!」


俺が立ち上がってたじろぐと、3人とも呆れたような笑みを浮かべて肩をすくめると、そのままスッと消えてしまった。


あ・・・これ夢だな・・・


そう気づいた瞬間、今度は背後から声がかかった。


「円香くん・・・」


「・・・芹沢くん・・・」


「あの・・・俺の事・・・名前で呼んでほしい・・・。」


そう言って彼は、以前買った青いワンピース姿で俺にそっと抱き着いた。


「どうした?急に・・・」


「・・・呼んでよ・・・」


抱き着いたまま俺の顔を見上げて、その可愛らしい瞳がじっと懇願するように見つめた。


「えと・・・・・・癒喜・・・?」


彼はパァっと可愛らしい笑顔を咲かせて、そのまま勢いよく俺をその場に押し倒した。

そしてだいたい予想はしていたけど、そのまま好き勝手にキスを繰り返される。

俺が困り果てていると、ふと今度は隣に佐伯さんがやってきて、俺の側にしゃがみ込んだ。


「・・・西田くんその子のこと好きなの?」


「え・・・・・えっと・・・・」


芹沢くんが眉を下げて俺をじっと見つめ返す。

答えを持ってない俺は何も言えずゴクリと喉を鳴らして、視線を逸らせるしかなかった。

心動いているのは事実で、けどそれは・・・佐伯さんに対しても同じで・・・


そう考えこんでいるうちに、今度目を開けた時は、いつもの自室の天井が見えた。


なんつー夢だよ・・・なに?欲求不満が表れてんの?


ノソノソ起き上がってペットボトルの水を飲み、汗をかいたTシャツを着替えることにした。

怠い体を引きずるようにして、テーブルに置きっぱなしにしていたスマホを手に取ると、いくつか未読のメッセージが届いていた。

一つはゼミの友達から。休んでることを聞いたのか、心配して見舞いに行ってやろうかと伺う文章。

そして芹沢くんから。「お母さんからお洒落なかき氷機を買ってもらったから、良かったら今度うちで一緒に作らない?」と画像付きで届いていた。

そしてもう一つは佐伯さんからだ。看病する人がいないなら、言ってくれたら何か買って行くよ。と書かれていた。

ありがたいもんだなぁ・・・としんみりする。

とりあえず芹沢くんには心配かけたくないし、休んでることは伝えずに空いてる日を連絡しておこう。

見舞いはお互いが気を遣ってしまうし、風邪を移してしまうリスクを考えて断っておこう。

こういう時実家暮らしでよかったと思うもので、冷蔵庫を開ければ大抵のものが入っているし、家事が出来ずに寝込んでいても、夜に親が帰ってきてくれたら代わりにやってもらえる。

同棲している頃と違って、親には気兼ねなく甘えられるし、子供の頃から風邪を引けばこれ、みたいなものはわかっていて買ってきてくれたりもする。


「・・・今の俺は堕落している気がする・・・。」


独り言を漏らしながら、冷凍庫からアイスを取り出して、涼しいリビングで一人堪能した。

その日一日は食べて薬を飲んで寝てということを繰り返して、自分でもびっくりする程睡眠をとっていた。

その甲斐あってか、翌日はスッカリ熱も下がり、若干咳が残っているものの、体の調子はほぼ全快していた。


そして数日後、最後の登校日を終えて、夏休みに入った。


「あっつい!!」


昼頃に帰宅して鞄を置くや否やTシャツを脱ぎ捨てた。

さっと浴室に入ってぬるいお湯を浴びて、まるで全速力で走って帰ってきたような疲労感を、深いため息をともに落とした。

浴室から出て適当なタオルで拭いていると、母が徐に脱衣所へ入ってくる。


「あら、帰ってたの。」


「・・・帰ってるし・・・勝手に開けないでください。」


「何よぉ、赤ちゃんの頃から育ててるんだからあんたの裸なんて何とも思いません。」


「俺が嫌なんだけど・・・」


母は洗濯物をカゴに放り込みながら、突拍子もなく言った。


「そういえばあんた彼女出来たの?」


「・・・へぇ??なんで??」


「別れて帰ってきてからだいぶ経つじゃな~い。結構出かけてること多いし、桐谷くんとこ最近遊びに行ってないけど、なに?女遊びでもしてんの?」


「・・・親がいるとこういうデリカシーない質問されるからなぁ。」


「何よぉ、別に母さん何言われたって気にしないんだから、うざいと思ったら『うっせぇババァ』って言ったらいいじゃない。」


「それ母親側から言う人初めて見たわ・・・。」


「で?彼女出来たの?」


母さんは半ばニヤニヤしながら問い詰める。


「あのねぇ・・・出来たって言っても出来てないって言っても、どうせ母さん半信半疑にしかとらえない上に、別にどうでもいいんでしょ?だったらわざわざ聞かなくてもいいじゃん・・・。それとも俺の素行を心配してんの?」


「そりゃあ心配くらいするわよぉ。可愛い息子の恋人の一人や二人紹介されたいもん~。」


「そっちがメインかい・・・」


「別にあれよ?母さんあんたが彼氏連れて来てもなんとも思わないわよ?」


「・・・・・え?」


Tシャツを頭から出して、思わぬ発言に聞き返した。


「だからぁ桐谷くんとこ行ってたじゃない、付き合ってるの?」


「・・・・・・付き合ってません。」


親ってのはこう・・・軽率に見抜いて傷えぐってくるよなぁ・・・

そういう質問をされて否定すると、自分の本心に気付いてしまう。

あ~あ・・・付き合ってるって言いたかったなぁなんて、思っている自分がいる。

母さんは「ふぅん」と言って去って行った。



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