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第35話

翌日、冷たいタオルを愛用しながら講義室に着くと、固まって話していた同じゼミの人たちに声をかけられた。


「え~マジで~?絶対嘘だって~・・・。あ、西田くんおはよう!ね~ね~聞いて~。」


「おはよ、なに?」


4、5人が固まって座る男女に立ったまま手招きされる。


「みぃがさ、こないだナンパかと思ったらスカウトだったぁとか言っててさ、絶対嘘なのにストーリーまであげてて・・・。西田くん竹下通りとか行ったらスカウトされるよね?」


「・・・竹下通りにあんま行ったことないなぁ・・・。」


すると一緒にいた別の男子が言った。


「え、でも西田は前モデルのスカウト受けてたって翔言ってたけど。」


「ん~~・・・いつだろ・・・。何人かで遊びに行った時の話かな。」


「高津くんもだけどさ~二人並んでるとマジヤバイよね。芸能人オーラ。何でそんな肌綺麗なの?スキンケア何使ってんの?」


駅から大学までで少し疲れてる中、特に何でもない会話に巻き込まれるのが億劫でならない。

適当に話を合わせていると、椎名さんが言った。


「西田くんさ、前から思ってたけど口元のほくろセクシーだよね。」


「わかる~!エロい位置にあるもん!セクシー過ぎる!」


女子が騒ぎ立てると、一緒に居る男子数名は「あ~・・・」と言いつつ、つまらなそうな空気を放っているのが分かる。


「・・・それはそうと今日出す課題やった?後ちょっと終わってない俺を皆応援して!」


話を切り替えてパソコンを出すと、皆からかいながらもなんやかんや手助けしてくれた。


その後講義を終えたお昼前、何食べよっかなぁなんて考えながらカフェテリアに向かっていると、不意に後ろから声がかかった。


「あ、あの、西田先輩。」


振り返ると、何度か話しかけに来てくれていた1年生の一人だった。

少し話したいと言われて1階まで降り、人気のない校舎の隅まで連れて来られた。


「あ、あの・・・す・・・好きです!仲良くなりたいので、連絡先教えてください!」


一瞬思考が停止して、久しぶりに受けた真正面な告白に、何と言おうか数秒を要した。


「あ~・・・えっと、どうもありがとう。・・・ごめんね、今特に付き合ってる人がいるわけじゃないけど、気になる人はいて・・・他の子のこと考える余裕ないから・・・。」


特に嘘はついてない。断る理由としては最適解だ。


「そうなんですか・・・」


申し訳ない笑みを浮かべると、その子はしょんぼりしていたけど、わりとあっさり引き下がってくれた。

一度こういう告白で、付き合うことを了承するまで帰さない!と駄々をこねられたことがあり、正直トラウマだった。

何とか適当に会話を終えてその場を離れ、無事にカフェテリアに着いて、久しぶりにかつ丼を注文して席についた。

さて・・・と箸を持とうとすると、またも同じゼミの女性陣に声をかけられ、空いていた隣や向かいに座られてしまった。


「西田くんかつ丼好きなの~?チェーン店とか行くイメージないんだけど、ファーストフード好きな人?」


「え・・・あ~・・・どうだろ、もう今実家暮らしだし、そこまで食べることは無くなったかな・・・。」


「西田くん彼女いないんだよね?狙ってる子とかいないの~?」


「え?・・・えっと・・・」


ああ・・・どうしよ・・・


会話に巻き込まれてなかなか食事が出来ない状況になり、タイミングの問題なんだろうけど、考えるのが面倒になってきていた。

するとスッと影が落ちて振り返ると、桐谷が黙って俺たちのテーブルを見下ろしていた。


「・・・おう、桐谷・・・」


「あ・・・桐谷くんおつかれ~。ねぇ、桐谷くんって~」


「どいてくれる?西田の隣座りたいし、後から翔たち来るかもしんないから。」


丁寧な言い方ではあるけど、明らかに高圧的な桐谷の表情に、女性陣は黙った後、気まずそうに別のテーブルに捌けていった。


「こういう時女は空気読めるから助かるわ~。」


「はは・・・。・・・ありがと・・・。」


桐谷はそれ以上特に何も言わず、一緒に食事をとった。

するとお互い食べ終わった頃、桐谷は静かに口を開いた。


「西田もあれか・・・ふとした時に自分の見た目嫌いになる奴か。」


黙って見返すと、顔に似合わずイチゴミルクをちゅーっとすすりながら言った。


「・・・そうかなぁ・・・そうだなぁ・・・疲れるんだよねぇ・・・構われ過ぎて・・・。わかってるよ?他人が自分に興味持ってくれることの方がありがたいことだし、孤独でいるよりはコミュニティに入ってる方が安心するんだから、贅沢な悩みだなっていうのは・・・。」


「西田は変な奴だなぁ・・・」


「え??」


「自分本位に考えてりゃいいのに・・・。あ~あれか、自分が思ってる自分と、他人が思ってる自分が違うってことか。」


「・・・違うねぇ・・・。」


「咲夜もだけど、見た目が目立つ奴ってのはレッテル貼られがちだからなぁ。別に何も気にせず普通にしてりゃあいいんだよ。」


「・・・俺って目立つの?」


ふと疑問に思って投げかけると、桐谷は俺をじっと見てまたふいっと顔を逸らせた。


「ん~・・・今こういうガヤガヤした人の多い場所で大人しく座ってる分には、別に特に目立ってはないと思う。けど歩いてると周りと比べて頭身が違うから、目立ってるように思うな。ちなみに咲夜はどこにいても座ってようが、俺からしたら目立つ。なんかあいつはオーラが出てる。」


「そうかぁ・・・。なんかさ・・・ぶっちゃけさ・・・1年の時からしばらくそうだったんだけど、咲夜が周りの誘いを一切受けないから、じゃあ・・・って俺を誘う人が多かったんだよな。俺を経由して咲夜の情報聞こうとする奴とかさ・・・。あ、やべ・・・ただの愚痴だこれ・・・ごめん、忘れて。」


「・・・まぁそれは何となく側にいて俺もわかってたわ。咲夜の下位互換みたいな扱い受けてんなぁって。でも最近はそうでもねぇだろ。」


「そうだねぇ・・・。なんか人付き合いに気疲れしてきたかもな~。」


何でもないことはわかってる。

けどその何でもない日常的なことが、蓄積されていっていることに、たまにダメージを感じたりするんだ。

その時ふとスマホから通知音が鳴って、ポケットに手を突っ込んだ。

連絡アプリを開いてみると、芹沢くんからのメッセージだった。

そこには『円香くん、昨日は手間かけさせちゃってごめんなさい。もし今日空いていたら、母は不在なので良かったらうちに来ない?』とあった。

そして同時に『会いたい!』と書かれた、可愛らしい猫のスタンプが送られていた。


「・・・何だよ可愛いなぁ。」


思わず口に出てしまって、ハッと隣の桐谷を横目で見た。

彼は特に気にすることなく、同じくスマホを眺めていた。

俺はほっと胸をなでおろして、連絡を返した。


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