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第22話

課題を終えた一同は、佐伯さんと椎名さんが作った夕飯を美味しくいただいていた。


「生姜焼きうまぁ♪」


相変わらず美味しそうに頬張る翔を、二人は微笑ましく見ていた。


「結構多めに作ったし、おかわりしてね。」


佐伯さんがそう言うと、翔はご飯をもりっと掬って口に入れた。


「ふぉんふぉ~?はりふぁふぉ~。」


「翔・・・食べながら喋らないよ。」


思わず注意してしまうと、椎名さんが堪えるように笑った。

すると佐伯さんが思い出したように尋ねた。


「そういえば、西田くんも結構料理するって言ってたよね?」


「ああ、そうだね。・・・・同棲してた時、彼女が結構残業多い人だったからさ、俺が先に帰ってること多くて、夕飯作ったりしてたかな。」


まぁ実際のところ朝昼晩ほとんど俺が作ってたんだけど・・・。


「そうなんだねぇ。」


「西田って料理男子だよなぁ。モテる要素増やすなよ。」


「いやぁ・・・別にモテるために料理始めたわけじゃなくて・・・食費以外は彼女が払ってくれてたし、それくらいは当たり前かなと思って。」


苦々しく語ると、椎名さんが感心したように言った。


「え~偉いよ普通に。・・・ていうかさ、西田くん長いことお付き合いしてたみたいだけど、別れたの学部の人で少数しか知らなかったでしょ?でもこないだどっから話が回ったのか、西田くんのファンっぽい子が『彼女と別れたんだって~』ってめっちゃ不謹慎に喜んでたなぁ・・・。」


「そうなんだ・・・」


翔はもぐもぐしてゴクンと飲みこんでから言った。


「西田はこれから狙われ放題だなぁ。」


そんな話題を適当にあしらいながら、4人での食事を終えて、買ってきたデザートを食べてゆっくりした後、翔と椎名さんはコンビニ限定スイーツについて盛り上がっていた。


「ちょっと二人でコンビニ行って来ていい?」


翔は俺と佐伯さんの承諾を得て、夜のコンビニに出かけて行った。

二人っきりになって少し緊張しつつも、隣に座っていた彼女に問いかけた。


「佐伯さん、夕飯ありがとね。いくらくらいかかった?お金出すよ。」


俺が財布を取り出しながらいると、佐伯さんは遠慮したように笑った。


「いいよいいよ、せっかく皆に来てもらったし、お土産もいただいたし・・・」


「ダメダメ、そういうのは友達間であってもしっかりしとかないと・・・。後で揉めるようなことあってもあれだからさ。」


「ふふ、いいよ。私と美羽は普段から奢ったり奢られたりしてるし、西田くんと翔くんもそんなこと気にしないでしょ?」


そう言って柔らかく微笑む笑顔に、少し絆されそうになりながら、思いついたことを提案した。


「わかった・・・じゃあ今度ランチでも行かない?ご馳走したいから。」


「え・・・」


佐伯さんは少し戸惑いながら、視線をあちこちにやって長い髪を耳にかけた。


「それは、デートのお誘い?」


「・・・あ~・・まぁそうだね。二人っきりが嫌なら今日のメンツで一緒に行くのでもいいよ。」


「ふふ・・・ううん、西田くんがいいならデートしたいよ。」


またニコリと微笑まれてぐさ!っと胸に何かが刺さる。可愛い子の笑顔は破壊力が違うなぁ・・・

普段話しかけられて合コンや飲み会に誘われる時の、女の子とは明らかに違う何かがある。下心の有無か?

テーブルに置かれたグラスのお茶に口をつけて、片手でスマホを開く。

というかもう今のうちに予定見て決めたら早いのかな・・・

先送りにすると結局忘れちゃうことも多々あるし。


指を滑らせながら空いている日をピックアップしていると、佐伯さんのスマホから着信音がして、彼女は電話に出た。


「もしもし?・・・うん・・・うん・・・そうなの?・・・・うん、そうなんだ。・・・わかった、いいよ。気を付けて帰ってね。うん、またね~。・・・・西田くん」


「は~い?」


「美羽がね、今日土曜日だしこのまま翔くんとうちに帰るねって。」


「あ、そうなの?まぁもう8時回ってるしそっか・・・。佐伯さん来週の土日どっちか空いてる?」


「ちょっと待ってね・・・。ん~と・・・日曜日は大丈夫。」


「そっか、じゃあ日曜ランチ行こうよ。」


グラスのお茶を飲み干して言うと、佐伯さんは頷いた。


「わかった、空けとくね。あ、あのね・・・駅から近いところでね、1回だけ行ったことあるカフェがあるんだけど・・・そこのランチ美味しくて、良かったらそこにしない?」


「マジで?いいよ、どこ?」


佐伯さんは地図アプリを開いて近辺のマップを開いた。


「あ、これこれ、このお店。」


「・・・・ふふ・・・マジで?」


思わず笑ってしまうと、佐伯さんも釣られて笑みを浮かべながら不思議そうにした。


「え、なあに?」


「・・・ふ・・・ここバイト先。」


「え!!ホント!?うっそ!」


「ふふ・・・なんかウケんだけど・・・」


「え~嘘でしょ~。え、じゃあやめた方がいい?」


二人して尚も笑いを堪えるようにしながら、またスマホを確認した。


「いや・・・俺日曜日は夕方からバイトなんだよ。昼は空いてるからさ・・・まぁそこがいいなら別に俺は構わないよ。」


「え~そう?じゃあ・・・食べに行ってもいい?」


「いいよ~?さすがに夕方まで暇つぶせないと思うけど、まぁゆっくりした後俺そのままバイト先にいようかな・・・。」


「ふふ、ここからも近所だからたまたま都合が良かったね。」


「そうだね、そっかぁ1回来てくれてたんだ。」


「うん、結構前だけど・・・。西田くんウエイターしてるの?」


「ん、ウエイターすることもあるし、人数の都合で厨房で作ってる時もあるよ。」


思わぬ偶然にその後も、バイト先の話から他愛ない話に花が咲いて、気付けば21時を回っていた。


「あ・・・そろそろ俺も帰るわ、長居しちゃってごめんね。」


「ううん、ありがとう。」


「・・・ふ・・・何の『ありがとう』?」


俺がそう尋ねると、佐伯さんは少し気恥ずかしそうにしながらはにかんだ。


「ふふ、一緒に居てくれて?あ、色々話せてよかったっていう、ありがとう。・・・私口癖なのかも。」


「・・・そっか。」


二人きりだと思うと少し緊張していたのはどこへやら、佐伯さんと居ると何だか自然に振舞えてる気がした。

これがもしかして、翔の言ってた「似てる」ってことかな。

何となく思いながら鞄のチャックを閉めていると、佐伯さんは静かに言った。


「なんかね・・・西田くんが優しいからかもしれないけど、一緒にいたら普通に話せるし安心するの。何でだろ・・・。あ、でも翔くんもそうかも・・・二人からはなんかこう・・・安心する雰囲気出てるのかな。」


「・・・あ~・・・そこそこ付き合いあるからかもしれないけど・・・。でもさ、流石に一人暮らしの部屋とか、外でもカラオケとかでさ、男と二人きりになるのはやめた方がいいよ。」


鞄を持って立ち上がると、飲み終わったグラスを持ちながら彼女も立ち上がった。


「そうだね。隙だらけだと思われちゃうもんね。・・・・でも前に住んでたアパートもだけど、一人暮らしの部屋に男の子を招いたの初めてだよ。」


「あ、そうなんだ。彼氏とかは?」


「・・・私一人暮らしするようになってから彼氏はいないなぁ。もう2年近くいないかも。」


キッチンにグラスを持って行きながら佐伯さんは言った。


「そうなんだ・・・。」


ストーカー被害に遭っていたことも含めて、あまり言及して詳しく尋ねることは控えた。地雷を踏みかねない。


「友達はよく来るけどね、美羽もだし、サークルの子たちとか。」


「ふぅん・・・。そういや・・・手芸、料理サークルって言ってたよね。今も何か作ったりしてるの?」


桐谷の生け花を見てもそうだったけど、作品にはその人の個性が出る物だし興味があった。


「うん、私はぬいぐるみとか編みぐるみが好きだから、しょっちゅう作ってるよ。ちょっと来て。」


パタパタと小走りに彼女は隣の部屋に手招きした。

開けられた洋室に入ると、大き目のベッドが置かれていた。寝室かな。


「わ・・・いっぱいあるなぁ。」


ベッドの枕元にも、別の棚にも飾るようにたくさんのぬいぐるみがあった。


「えへ・・・一番大きいのでね、これ作ったの。」


佐伯さんが抱っこして持ってきたのは、彼女の顔が隠れる程大きな猫のぬいぐるみだった。


「ええ!すご!こんな大きいの作れるんだ・・・。」


色合いもパステルカラーで優しい雰囲気で、少し触らせてもらうと、ふわふわした手触りが良い素材で出来ていた。

宝石を模したようなキラキラする石が瞳についていて、耳飾りまでついているし、彼女の細かい拘りを感じる。


「ホント大変だったぁ。でも楽しかったよ。あのね、作ったものは一つ一つ思い入れがあるし・・・って話してると長くなっちゃうから、また今度にするね。」


「はは、そうだね。そろそろお暇するね。」


可愛らしいレイアウトで、落ち着く雰囲気の寝室。

いい匂いがするし、部屋の中でも彼女の性格がわかるような空間だ。

佐伯さんは大きなぬいぐるみを置いて、部屋を出る俺に続いた。


「また作ったもの見せるね♪そうだ、バイトがある時とか、時間あれば遊びに来てね。」


「・・・・ん~・・・一人では来ないよ?」


「そうなの?」


「そうなのって・・・佐伯さん俺に対して警戒心持ってる?」


俺が振り返ると、彼女は叱られた子供のようにしゅんとした。


「・・・ごめんなさい・・・。」


「・・・・俺はさ、二人っきりだと正直ちょっと緊張してたよ?別にそんなつもりないけどさ、寝室にまで入れたりしちゃダメだよ。入っといてなんだけど・・・」


「うん・・・。」


そこまで責めたつもりはないけど、佐伯さんは困惑したように黙ってしまった。

なるべく彼女に触れないようにしてたけど、俺は両肩にぽんと手を置いて顔を覗き込んだ。


「怒ってるわけじゃないからね?偉そうな言い方してごめん。ただ女の子は警戒しすぎてちょうどいいくらいだと思ってるから。」


佐伯さんは恐る恐る上目遣いで俺の目を見て、コクリと頷いた。

俺も何となく笑みを返して、見送りをしようとするのを断って部屋を後にした。


綺麗な真新しいエレベーターに乗って、厳重警備なエントランスを出て外の空気に触れると、何だか現実に戻ってきたような不思議な感覚に陥った。


彼女が取る言動の一つ一つに、少しずつ引っかかるところがある。

人付き合いをしてると、そういうところに気付いてしまうから、もっと知りたいと思ってしまうんだ。



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