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第20話

咲夜との雑談はその後も色々と続いた。

相談と言うよりそっちの方が気が楽だし、何より咲夜の個人的な話を聞くのが新鮮だった。


「父さんはわりとすぐ女性に手を出す人だったらしくてね~・・・。まぁ・・・血は争えないよね・・・。」


「はは・・・。」


咲夜は両親が既に亡くなっている。

その詳細はさすがに聞けないし話さないけど、自分と双子のお兄さんの見た目は母似だと言っていた。


「双子ってさぁ・・・不思議な感覚とか共有出来たりすんの?」


「不思議な感覚ぅ?・・・・・まぁ・・・・強いて言うなら心身の不調が移ったりはすることあるよ。」


「ええ!マジでぇ?そうなんだぁ・・・。」


「西田って一人っ子だっけ?」


「そうだよ。兄弟ほしかったなぁ・・・。」


咲夜はお茶を飲んで考え込むように黙った。


「俺は実の兄弟じゃなくても晶や小夜香ちゃんがいたからなぁ・・・。実質女兄弟もいたようなもんだし・・・そういう意味では恵まれてたかな。」


「そうなんだ・・・。桐谷も一人っ子って言ってたし・・・翔は確か妹もお姉ちゃんもいるんだっけか。」


「みたいだね。妹さんが小夜香ちゃんと同じクラスで友達らしい。」


「え!そうなんだ。」


「・・・そんなことよりさ、ちょっと気になってるんだけどさ・・・」


咲夜は食べ終わったお菓子の箱をゴミ箱に放り込んで、少しにやつきながら問いかけた。


「何となくこの人いいかもなぁっていう人は、西田の中にいるの?」


そう言われてぽやっと浮かぶ芹沢くんの顔。そして次にチラっと佐伯さんの顔が浮かんだ。


「え~・・・?いるにはいるけど・・・好きかもって言うほどまだよく知らないかな。・・・咲夜はさ、小夜香ちゃん?だっけ、いつ好きだなぁって自覚したの?」


咲夜はもう今の彼女と1年以上交際していて、産まれた時から一緒に居た幼馴染らしい。


「ん~・・・子供の頃から一緒にいたけど、10年くらいほとんど会ってない時期があってさ、再会したのは彼女が15歳の時かな。それでまぁ・・・俺のことも美咲も晶のことを気にかけてくれてたからさ、俺は本家の事情から離れて暮らしてたけど、当主だった二人は日常らしい日常なんてなかっただろうし・・・。小夜香ちゃんは優しいから、普通の学生らしい生活を取り戻せるように取り持ってくれた存在なんだよね。何となく離れて暮らしてたから、美咲ともぎこちない関係だったんだけど、小夜香ちゃんが皆をまとめて一緒にいてくれたから、また家族になれた・・・みたいな。そういうところがさ、結局好きだったのかな・・・無自覚だったけどね。ハッキリ自覚したのは、気になってる人がいるって小夜香ちゃんから聞いて・・・散々一緒にいる自分じゃない誰かを好きなんだって思ったら悔しくてさ・・・ショック受けたんだよね~。それで、ああ、俺好きなんだなぁって。」


「へぇ・・・そうなんだなぁ・・・。散々咲夜が悩んでる時、ちょいちょい断片的に話は聞いてたけど・・・好きだなって思ってからめっちゃ頑張ったん?」


「そりゃ頑張ったよ・・・。そもそも小夜香ちゃんはベースとして俺に対して家族意識が強いからさ、そこまで異性として意識されてない感じだったし・・・。落とすまで半年かかりましたよ、ええ。」


咲夜は苦笑いしながら髪の毛をかき上げた。


「ほほ~百戦錬磨の咲夜でも半年もかかるんだ・・・。」


「何その百戦錬磨って・・・桐谷にも言われた気がするけど。」


「え、ん~・・・俺のゼミの女子たちが言ってたけど、『咲夜くんから微笑まれただけで好きになっちゃう』って。実際入学してからかなりの人数から告白されたんじゃない?」


咲夜はげっそりした表情をしながら視線を落とした。


「え~・・・?そうなのかな・・・いちいち覚えてないし、俺はそれどころじゃない人生を生きてるから・・・。」


「はは・・・。」


「でも大学生になってホントに良かったなって思うのはさ、大学は2月が春休みの期間でずっと休みじゃん?」


咲夜はニヤリとして言った。


「え、うん・・・受験あるしな。」


「それがすごくありがたいんだよ・・・。バレンタインっていう惨劇がないからね。」


「惨劇ぃ・・・・?」


咲夜はどこか疲れ切った目をして、思い出を振り返るようにボーっとした。


「元は1207年2月14日に、司祭であるバレンチヌスが撲殺された日だっていうのに・・・歴史関係なくお菓子業界の策略に踊らされて流された現代人がチョコレートを意中の相手に贈る日になっちゃったんだよ。」


「お、おお・・・存じてます。」


「さすが西田。そんなこととはつゆ知らず・・・何故かお菓子にすら意味を込めて贈答品を渡してくる行事だよ。悪習だとすら思うね。下駄箱にチョコが詰め込まれててって漫画でよくあるじゃん?」


「ああ・・・ドサドサ落ちてくる感じのな・・・」


「あれ、リアルに起きたからね、俺の下駄箱。」


「こわぁ・・・」


「ホントに怖くなってその日はそれらを置いて早退したから。」


「ある意味それはメンタルつえぇんよ。」


咲夜は苦虫を噛み潰したような顔をしながら、俺をキリっと見た。


「西田だってあるだろ!そういうエピソード。」


こういう会話って翔からしたら「けっ!イケメン共が!」って唾吐かれんだろなぁ・・・


「さすがにないよ・・・下駄箱からチョコドサドサ事件なんて・・・。もらうことはあったけど・・・狙ってた子からはそなへんで買った小さいチョコしかもらえなかったし・・・本命もあるにはあったけど、ほとんど義理か友チョコだよ。」


「翔を代弁して言うわ。『本命チョコがもらえて告白されるだけいいだろ!』」


「それはブーメランでは?咲夜も貰ってるだろ・・・。俺はさ、好きだなって思ってる意中の相手からほしいんだよ・・・。」


「あれ、でも同棲してた彼女は1年半も付き合ってたんだから貰ったでしょ?」


「ああ・・・去年は貰ったよ。予約して買ってくれて。でも今年は忙しかったのか、忘れてたみたいだね。」


「ふぅん・・・。」


咲夜はそれ以上特に尋ねず、最近お兄さん夫婦の手伝いをして、子育て体験をしている話を聞かせてくれた。

俺に気を遣ってかわからないけど、4人でいる時はちょいちょい彼女の惚気話をするのに、俺と2人の時は彼女エピソードを一切話さない。


「咲夜ってさ、俺たち以外に仲がいい友達と遊んだりすんの?中高の同級生とかさ。」


「あ?ああ・・・・たま~に連絡取ったりはするけど、そこまで遊ばないかなぁ・・・ゆうて俺バイトして家で課題して・・・時間空いてたら小夜香ちゃんに会えないか聞いたり、更夜さんに聞いて手伝える仕事あったらやったりだし・・・」


「こうやさんって?」


「小夜香ちゃんのお父さんだよ。御三家の仕事を一人で引き継いでくれたからさ、美咲が育休明けたら会社を継ぐつもりだけど、俺も美咲を手伝うつもりでいるから、肩代わりしてくれてる仕事で手伝えることがあるならやってるんだよ。」


また咲夜から聞いたことない話が出てきて呆気にとられた。


「へぇ・・・そうなのか・・・。じゃあ咲夜就活しない感じ?」


「そうだね、美咲にはもう話してるし。まぁ元々そうした方がいいかなぁってずっと思ってたしね。そもそも高津家が残してる色々を、俺たちが引き継ぐのは当たり前だから。」


俺が知り得ない苦労を咲夜はしてきたのだろうと思う。

そこに産まれたというだけで背負わされてきたものが、計り知れないし俺には想像しえない。


「しっかりしてんなぁ・・・。結婚したいとか子供がほしいって気持ちがあるのもすごいけどさ、やっぱり生まれが違うからかな。」


何となくそう呟いてお茶に口をつけると、咲夜は落とすように笑った。


「そんなことないよ・・・。俺が結婚したいって思ってるのは、小夜香ちゃんにどこにも行ってほしくないからだよ。小夜香ちゃんが叶えたい夢があるなら、留学だろうが、医師免許を取るためだとか、いくらでも応援したいっていう気持ちはあるけど、本当はずっと俺の側から離れてほしくないからプロポーズしたんだよ。」


「・・・・え!プロポーズ!?いつしたん!?」


「へ?ああ・・・言ってなかったっけ・・・。去年の彼女の誕生日に。」


「結構前じゃん・・・。言ってくれりゃ盛大に祝うのに~。」


すると咲夜は屈託ない笑みを見せた。


「はは、いいよ、そんな・・・。結婚式には呼ぶから、その時でいいんだよ。」


咲夜のその幸せそうで穏やかな笑顔が、何とも嬉しかった。

たくさん苦労しただろうと思う。たくさん嫌な思いもしたと思う。話せない色々があると思う。

それでも俺たちを大事な友達と思って過ごしてくれることが嬉しい。

桐谷も翔もそうだけど、大人になってからもずっと気軽に会える存在でいられたらいいな。


10年20年経って、今を思い返す日もくるかもしれない。


「10年後って何してんのかなぁ俺・・・」


すっかり気が抜けて上半身がダレて、咲夜の肩に頭を預けた。


「10年後かぁ・・・俺、予知の力はないからなぁ・・・。西田は結婚してんじゃないかな?」


「・・・幸せそうな咲夜と一緒にいたら肖れそうだわ。」


咲夜は俺の頭をガシガシ撫でて笑った。



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