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第14話

温かい日が続いてきた5月下旬、近所に住む芹沢くんがうちに遊びにやってきた。


「お邪魔します。」


「いらっしゃ~い、どうぞ~。」


畏まって緊張した様子の彼を招き入れると、彼は持ってきた紙袋を差し出した。


「あの・・・おうちに伺うなら、以前のお礼も込めて持って行きなさいと母が・・・。」


「え、ああ・・・わざわざありがとう。なんか気ぃ遣わせちゃったなぁ。今度から遊びに来るときはこういうの大丈夫だからね。」


俺が念を押して言うと、彼は頷いてそっと靴を脱いで上がった。

二階の自室で待ってもらいながら、飲み物を用意して戻ると、芹沢くんは借りてきた猫のように正座して床に座っていた。


「芹沢くん、ソファに座ってていいよ?」


「あ・・・はい。」


飲み物を置いて俺はゲーム機が置いてある棚を開けて、あれこれ取り出した。


「芹沢くん何やりたいかな~。俺実はそんなに複数人で出来るゲーム持ってなくてさ・・・。」


ゲームソフトを取り出して見せると、彼は側にやってきて覗き込んだ。


「いっぱいありますね・・・。あ、これ知ってます。」


「あ~これはパーティーゲームだから一緒に出来るね。これにしよっか。」


芹沢くんはまた大人しく頷いた。

彼は元来大人しい子なんだろうな、俺があれこれずけずけ個人的なこと聞いても大丈夫なんだろうか。

手っ取り早く親しくなるには会話だろうけど、距離感も大事にしてあげたい。

双六形式で進めていくパーティーゲームを楽しみながら、当たり障りないことを聞いていくことにした。


「このゲーム2年くらい前のだけどさ、芹沢くんは中学生の時にやってた感じ?」


「はい、シリーズで出てるのは知ってるんですけど、この最新のだけ買ってもらって・・・まえのうちで弟とよくやってました。」


「へぇ!弟いるんだ。今も弟くんと遊んだりするの?」


「いえ・・・うちの親最近離婚して、俺は母さんについてくるかたちで引っ越したので・・・。弟は父さんと一緒にいます。」


あれ・・・俺いきなり地雷踏んだんじゃ・・・


「そう・・・なんだ。ごめん、込み入った事話させちゃって。」


「いえ!そんな!別に離婚に関しては・・・俺も弟もそこまでショックなことじゃなかったんで・・・。あの・・・喧嘩ばっかりしてたとか、家庭内暴力がとかそういうことはなくて・・・お互い仕事が忙しい人で、疎遠になっちゃったみたいな感じなんです。」


「そうなんだ・・・。そっかぁ・・・まぁ色んな家族の形があるし、仲が悪いわけじゃないならいいよね。俺も芹沢くんみたいな可愛い弟ほしかったなぁ・・・。」


呟くように贅沢を口にすると、芹沢くんは少し照れた様子を見せながらもじもじしていた。


久しぶりにプレイしたゲームだったけど、思いのほか盛り上がって、芹沢くんも奮闘しながら楽しんでくれていた。

小一時間程して終えると、二人して飲み物を口にして息をついた。


「ふぅ・・・どうする?他のゲームする?もし映画とか観たかったらパッドで観れるけど。」


俺がゲームを片付けながらいると、芹沢くんもコントローラーをしまいつつ言った。


「いえあの・・・出来ればゆっくりお話ししたい・・です。」


照れくさそうにそう言うので、まぁ家だしまったり話したいって感じかなと思い、二人で片づけを終えて、またソファに腰かけた。

熱中して汗をかいた額を拭ってから、改めて彼を見るとさっきまで嬉々として遊んでいたのに、緊張が戻ってきたように視線を泳がせていた。


「・・・芹沢くんはさ」


「え、はい!」


「ふ・・・元々大人しい子?それとも俺の前だけ?」


顔を覗き込むように尋ねると、彼は少し顔を赤らめてなかなか俺に目を合わせてくれない。


「すみません・・・。俺その・・・今まで好きな人とかそこまでいなくて・・・。何となくあの子可愛いなぁって女の子に対して思ってたことはあっても、自分から積極的に関わろうとしたこととかなくて・・・」


「そうなんだ。じゃあ二人っきりの家にきて、部屋で話すっていうことは、芹沢くんにとってはめっちゃ頑張ってくれてることなんだね。」


「はい・・・すみません・・・西田さんからしたらめんどくさいですよね。」


「いやそんなことないけど。でもまぁ、そんなに気を張らなくていいよ。好きって気持ちを伝えてくれたのは嬉しかったし、知り合ったばっかりだからさ、気兼ねない友達から始めようよ。」


そう言って彼の頭をポンポンすると、やっと前髪からチラっと見える目を向けてくれた。

芹沢くんの髪の毛はふわふわの癖毛でかつ、細くてサラサラな黒髪だ。


「あの・・・西田さんはその・・・今・・・好きな人とか・・・いますか。」


芹沢くんは、こればかりは聞いておかないと、という目をしていた。

俺は言おうかどうか迷っていたけど、前回デートしたとき、あまりに真っすぐに勇気を出して気持ちを伝えてくれたから、話そうと思って一つ深呼吸した。


「実はさ・・・同じ学部の同級生のずっと友達だった男とさ、ちょっと・・・何だろ・・・曖昧な関係なんだよね。」


「・・・・・曖昧な関係・・・」


「えっとね・・・俺男の子を好きになったことはないんだけどさ、芹沢くんとデートしてみて、元から偏見があったわけじゃないし、ときめいたのも事実だし、好きになる可能性はあるのかなぁみたいに思ってたんだよ。それと同時に・・・前の彼女と別れた痛手を引きずってて・・・周りに結構気を遣われてたんだけど、心配してくれてたその友達・・・桐谷っていうんだけど、そいつが親身に話聞いてくれて、俺のこういうとこがダメだとか、こういう風にした方がいいっていうのを教えてくれてて、もっと好きな相手に自分らしく自分勝手に振舞えるようになったらいいって言ってくれてさ・・・恋人ごっこしてみようって言われたんだ。」


正直に話すことで芹沢くんがどう思うかはわからない。

けど遊び感覚でそんな付き合いを友達としてるような男願い下げだと思うなら今のうちだし、黙っておくのも何か違う気がした。


「それでさ、もう一月くらいかな?一緒に遊んだり、向こうのうちに泊まったりとかしてて・・・。あ、一応言っておくけどセックスはしてないからね。」


俺が付け加えると、芹沢くんは特に変わらずじっと俺の話を聞いていた。


「その人は・・・・西田さんのことが好きなんですか?」


「いや、それはないねぇ・・・。アセクシャルよりな奴でさ、男女ともにそういう恋愛感情って湧かないみたいで。全然関係は変わってない感じなんだ。友達の延長みたいな・・・。でも俺はさ、桐谷のこと言うてあんまり知らないで今まで付き合いを持ってたから、もっとちゃんと人間性を知って関わりたいなぁっていう気持ちが強くて、そのうえでお互い惹かれあうなら、恋愛感情で好きになれるのかな?って思ったりもするんだ。だからその・・・本人を前にして二人っきりでいるとさ、人間としても男としても魅力的な奴だから、好きだなぁって気持ちはあるんだけど・・・それが本当にこの先ずっと恋人として成り立つ気持ちなのかっていうのはわかんないんだよね。」


「そうなんですね・・・。」


「ごめんね、変な話して。」


視線を落としていた彼は、パッと顔を上げて俺を見た。


「いいえ、変な話ではないです。西田さんが望んでそういうお付き合いをしてるなら、いいと思います。でもきっとその・・・西田さんがちょっと相手を好きだなぁって気持ちはあっても、片思いってことですよね・・・?」


「そうだねぇ・・・」


また静かに飲み物を口にすると、芹沢くんもグラスを持ってゴクリとお茶を飲んだ。


「急ぐ必要がないなら・・・俺もちゃんと仲良くなれるように努力したいです。魅力的って思ってもらえるかは定かじゃないですけど・・・好きになってもらえるように頑張ります。」


芹沢くんはそう言って、隣にあった俺の手を両手でぎゅっと握った。


「ふふ・・・果報者だなぁ俺・・・」


彼は手を握ったままキョロキョロ視線をやって、おずおずと口を開いた。


「あ・・・あの・・・もうちょっと近くに座ってもいいですか?」


「ん?ああ、どうぞ。」


芹沢くんはピッタリくっつくように隣に座って、もう一度改めて手を握った。


「ふふ・・・そんなに手ぇ握ってたいの?」


やることなすことが可愛くて、頭を撫でてあげたいけど隣り合った手は塞がれた。


「だって・・・・どうしたらドキドキしてもらえるかわからないから・・・」


緊張した震えが伝わってきて、俯いた彼は前髪が垂れて表情が見えなかった。


「芹沢くんさ・・・前髪もうちょっと切ったら、もっと可愛い気がするな。」


繋がれた手をすっと放して髪の毛に触れると、丸くて大きな目が困惑したようにこちらを見た。


「ごめん・・・可愛いとか・・・気安い上にそんなこと言われたくないよね・・・。」


自分でしててどうかしてるな・・・と思いながら手を引っ込めると、芹沢くんはパッと前髪を両手で抑えた。


「・・・・・あの・・・・じゃあ今度切ってきます。」


「え~気ぃ遣わせちゃった~!」


「いえ、違います・・・学校でも言われたし・・・もうちょっとスッキリさせてきます。」


「そう?ふわふわした癖っ気可愛いよね。・・・あ、また可愛いってい・・・ごめん。」


口をふさぐように手を当てると、彼はうちに来て初めてニッコリ笑ってくれた。


「いえ、嬉しいです・・・。」


「・・・あ・・・ヤバイ今・・・キュンとしちゃった・・・・・・」


俺が照れて顔を伏せると、照れが移って芹沢くんも真っ赤になった。


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