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第11話

バイトを終えて、桐谷のうちの最寄り駅で降り立ち、俺はコンビニに寄っていた。

そこで泊まりにいる物を色々とカゴに入れていると、ふと生活用品を置いている近くで足が止まった。

コンビニでは必ず置いてあるコンドーム・・・いや・・・何でする前提なんだよ、おかしいだろ・・・

そういうつもりで行くんじゃないしな・・・つーか買ってきてたらさすがに桐谷でも引くんじゃねぇかな・・・

そう思いつつさっと目を逸らせてその場を離れて、会計を済ませてコンビニを出た。


「ふぅ・・・飲み物も買ったし・・・」


店を出ると存外疲労が溜まっていたのか、体が重たさを感じながらスマホを取り出した。

桐谷にもうすぐ家に着く旨を連絡して、トボトボと暗闇の住宅街を歩いた。


最近急に暑くなったけど・・・夜は涼しいな・・・


そう思いながら歩いていたものの、周りが暗いからか、ふと分かれ道で桐谷のうちがどちらかわからなくなった。


「あっれ・・・やっべ・・・一回しか来てないと夜はわかりづらいな・・・。」


前回は桐谷の後をついて行って向かったので、住所を聞いたわけじゃない。

コンビニまでは店が何軒かあったし、明るかったのでわかったけど、住宅街に入るとわかりづらい・・・。

まだそこまでコンビニから離れていないし・・・戻って・・・いや、電話して住所聞いてマップ見たら早いか。


ポケットからスマホを取り出そうとしたとき、ふと前方から足音がして顔を上げた。


「西田み~~っけ。」


「あ・・・お?おう・・・?」


俺がポカンとしてると、桐谷は平然としながら俺の持っているコンビニ袋に視線を落とした。


「何買ったん。」


「え、ああ・・・飲み物とか・・・新品の下着とか・・・。いや、てか何でいるんだよ。」


「迷ってねぇかなって。」


「・・・迷ってました。」


俺が苦笑いを返すと、桐谷もふっと笑った。


「そうだろ。まぁ暗いとこなへんわかりづれぇからな。・・・こっちだぞ。」


そう言ってまた歩き出す桐谷の半歩後ろをついていった。

すると彼はチラっと見える片目を向けて振り返る。


「・・・手でも繋ぐ?」


「・・・ふ・・・からかってんなぁ?わかるぞそういう顔で言うと。」


「ふぅん?そうか。したいかしたくないかの話だよ。」


また前を向いてそんなことを言うので、俺の脳みそが勝手に卑猥なことへと変換した。


いやいやいやいやいや・・・俺も溜まってんなぁ・・・脳みそピンクじゃんか


俺が煩悩を振り払おうと悶々としていると、桐谷はまたチラっと見て首を傾げた。


「しかめっ面してどうした。」


「・・・・どうもしねぇ・・・。」


桐谷のからかいや優しさに流されてしまうと、俺はその気になって彼を襲ってしまう気がした。

そんなことしたところで、桐谷は何とも思わない上に、何となく俺の要望に応えてくれそうだし、気持ちも伴ってないのに体だけ満足して、それでも桐谷は何とも思わない・・・という虚しい結果になる。

相手と心を通わせて気持ちをぶつけながら、愛し合って満たされるっていう経験がある俺にとって、特に何でもない反応をされるのはショックでしかない。

仮に俺が桐谷を本気で好きになったとしても、桐谷にとっては何でもないことで、同じように好きになることはないんだろう。


桐谷のうちへ着くまで、何かと色々考え込んで二人して黙って歩いていた。

マンションに着いて、いざうちへ上がって、昼間と何となく違う夜のシンとした部屋の雰囲気の中、荷物を置くと桐谷はキッチンに立ちながら言った。


「風呂、湧かす?」


「え・・・いやいいよ。もう暑い時期はシャワーだけだから俺。借りていい?」


「おう。」


「あ、そうだ、買ったやつ冷蔵庫入れといて。桐谷が好きそうなコンビニ限定スイーツもあるから。」


そう言って袋を差し出すと、彼は眉をキリっとさせて受け取った。


「マジか、サンキュ。」


嬉しそうな笑顔とか見てみたいけど、桐谷ってどんな時に気分よさそうに笑うんだろうか。

まぁ食べてる時は喜んでくれるのか?


そう思いながらシャワーを借りた。

その後着替えを借りて入れ替わりで桐谷がシャワーに入っている間、俺は何となく寝室の扉を開けて、見える範囲で桐谷の何かを知れるチャンスがないか伺った。

マンションはたぶんそこそこ新しい所なので、リビングダイニングキッチンと、この寝室の二部屋構造だけど、内装はかなり綺麗だった。

シンプルなベッドと、これまたシンプルな茶色のクローゼット。

以前映画はリビングでプロジェクターを使って観ていたので、恐らくあまり使わなくなった小さ目なテレビが隅に置いてある。

シェルフもあるけど、多少本が置いてあって、俺みたいに漫画とかゲームソフトとかを置いてる感じじゃない。

大学で使っていた教科書と、いかにも桐谷が読みそうな・・・小難しい書籍が並ぶ。

ふとクローゼットの小脇に段ボールが雑に置かれていることに気付いた。


何だろ・・・


さすがに勝手に開けるわけにはいかない。

他の場所へ視線を向けると、収納ボックスがいくつかあったり、後は小さいローテーブルにノーパソが置かれて、その下にファッション雑誌がある程度。


そういや・・・桐谷って意外とオシャレだよなぁ・・・。


床に座って雑誌を手に取った。

20代メンズのトレンドファッションが載った最新号だ。

何となくパラパラとめくると、確かに普段の桐谷の格好と似通ったモデルの男性が見受けられる。


てか桐谷も普通にモデル出来そうだけどな・・・

センスもいい上にイケメンなわけだし・・・

クローゼットの他にベッド下の収納あるのに、更にしまうとこあるってことは、それだけ服がたくさんあるってことか。

というか・・・甘い物以外にそんなにハマってることとかないって聞いたけど、ファッションは十分趣味の範囲なんじゃ・・・映画もそこそこ詳しいし・・・

本人からしたらハマってるって程熱中してるわけじゃないのか・・・

雑誌を眺めていると、オシャレでカッコイイ男性たちは、クールな出で立ちでポーズをとったり、満面の笑みで爽やかな服を着ている人もいる。


「ふ・・・そもそも桐谷がモデルしても、こんな笑顔カメラに向けられねぇか・・・」


「俺が何だって?」


ビックー!と体が震えて寝室の入り口に立つ桐谷を見上げた。


「あ・・・いや別に?」


「ビビリ過ぎだろ。何だよ、読みたいなら持って帰っていいぞ?俺もう読んだし・・・」


そう言って同じくベッドを背もたれにしながら、桐谷は俺の隣に座った。

というか若干密着してる感じで距離近い・・・

風呂上りでいい匂いを漂わせながら、グレーの髪の毛を雑にかき上げて、俺が開いたページをじっと見た。

視界が狭いからか、若干首を振りながら雑誌の内容を思い出すように眺めている。


「・・・ちゃんと乾かしたか?」


俺が髪の毛に触れると、やっぱり生乾き感否めない状態だった。


「カラーリングで傷めてんだから、ちゃんと乾かさねぇと酷いことになんぞ~?」


毛先をつまんで、視線を落とした桐谷の白い頬に触れて、そっと指で撫でた。

桐谷は特に何も気にすることなく、俺の小言もスルーして手元の雑誌のページをめくる。

色素をほとんど失くした右目は水色で、何となく合わせるように左目と同じ動きをするものの、何も光をとらえてないのかもしれない。


「桐谷・・・」


俺が近くで名前を呼ぶと、やっと彼はいつもの生真面目な顔を向けた。


「あ?」


最初桐谷と話してる咲夜を見かけた時、ちょっと怖そうだなぁって警戒したっけ。


「俺がさ、桐谷を下の名前で呼んだら嬉しい?」


「・・・はぁ?なんで?」


「ふ・・・呼び捨てされたりさ、その人しか呼ばない呼び方を恋人同士はするもんなんだよ。それが嬉しかったりすんの。」


「あ~・・・。けどそれはお互いがお互いを好きな場合なんじゃねぇの?」


「ごもっとも・・・。じゃあ俺を好きになってよ。」


何も考えずにそう言って、あの時みたいにそっとキスをした。

甘い音を立てて何度か重ねても、桐谷は相変わらず嫌がる素振りもなく受け止めていた。

そっと舌を入れると、やっぱり同じようにそっと絡めるように撫でる。


つーか・・・桐谷キス上手いよなぁ・・・


何となくそんな気がした。そこまで上手い下手がわかるわけじゃないけど。

適当に女の子に絡まれたら、キスくらいはしてんのかな。

でもその気持たせたらその後も絡まれるっていう厄介なことになるのは、桐谷もわかるはず。

そうか・・・前回講義室で鳥野さんに絡まれてたのはそういうわけか。


脳内でそんなことを考えながら、何度も何度も激しいキスをしているうちに、体は素直に反応してしまう。

そっとまた甘い音を立てて唇を離して、尚も何でもない表情をしている桐谷の肩に頭を乗せた。


「はぁ~~・・・」


桐谷はいったい何を考えてキスしてたんだろうか。


「・・・生理現象起きてんぞ。」


「うん・・・気にしないで。」


桐谷は軽くため息をついて俺の頭を雑に撫でた。


「さて・・・風呂上がりだし限定スイーツ食うか。つーかお前の分なかったけどいいの?」


「ん・・・俺はそんなに興味ないし・・・。」


「興味ねぇからって美味そうなもん食わねぇのは損だろ。」


それを聞いて思わず笑ってしまった。


「ふ・・・ふふ・・・」


「何だよ」


「じゃあ・・・桐谷が美味そうに見えたら俺も食べていいの?」


桐谷はしばらくじっと俺を見て、考えるように目を伏せる。


「なるほど・・・。キスして盛り上がって、西田は俺が美味そうに見えたのか?」


「・・・・白くて細いのに手はわりと大きいし、指も綺麗で顔も綺麗だと・・・美味しそうには見えるよ。」


「ほう?お前カニバリズムか?」


「違うわ!物理的に食うわけないだろ。」


「そこは『なんでやねん!』って言うんだよ・・・。」


桐谷のペースになっていなされて、ニヤニヤしながら立ち上がる彼の背中を見るしかなかった。



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