美少女はいつだって冷たい
革靴の音が遠くから聞こえる。コツ、コツ、コツ。その音が徐々に大きくなり、ついに来たかと思えば、ダンボールを持った私服の男性が通り過ぎていった。どうやら事務の人だったらしい。私服に革靴ってどういう組み合わせだよ。
この部屋に来て30分。先生はまだ来ない。少女からも反応がない。動かざることロボットの如し、まだペッパー君の方が愛嬌ある。
カリッ、カリッ、カリッ、カリッ
正確な打刻音が、教室の静けさを象徴する。
何度時計を見ても、短針は変わらない。
悠久に感じる時が精神を蝕む。
永遠の命とは、このような苦しみ味わうのだろう。終わりがあるから、良いのだと。
改めて、現状を俯瞰する。
俺の隣には美少女がいた。その距離およそ50センチ。フローラルな甘い香りが脳を刺激。電気信号は荒ぶり、脳の血流が暴走。心臓の鼓動はまるで地震のように激しい。
これが、高校生男子の性だ。
美少女を前にすれば、可能性が無くとも期待してしまう。あり得ないと分かっているのに、期待してしまう。高校生とチョコレート。バレンタインデーとカツカレー。
だが、冷静になると悲しいものだ。
なぜなら、俺が勝手に興奮してるだけなのだから。
事実、彼女からは、話しかけんなオーラがぷんぷん漂ってくる。
造形が整う美人であるが故、その無表情が怖い。リカちゃん人形から薄気味悪さを感じるのと似ている。だが幸い、日本人形の不気味さまでには至らない。あれはやばい。
カリッ、カリッ、カリッ、カリッ
乾いた機械音が時を刻む。あれから5分。
まだ先生は来ない。あとどれだけ耐えればいいのか
カリッ、カリッ、カリッ、カリッ
乾いた機械音が時を刻む。あれから2分。まだ先生は来ない。あとどれだけ耐えればいいのか
カリッ、カリッ、カリッ、カリッ
乾いた機械音が時を刻む。あれから1分。先生はまだ来ない。もう耐えられない。
「あのー、はじめまして。自分、宮島と言います」
カリッ、カリッ、カリッ、カリッ
乾いた機械音が時を刻む。あれから20秒。まだ返事は返ってこない。
あれ?
カリッ、カリッ、カリッ、カリッ
乾いた機械音が時を刻む。あれから1分。無視された。
清々しくも無視された。
華麗なるシカト。
ひょっとして、挨拶したのは、俺の脳内シュミレーションであって、現実でなかったかもしれない。
いかん、いかん。あまりに気まづくて、現実逃避していたようだ。
咳払いし、心を整える。
「はじめまして。僕、宮島って言います」
カリッ、カリッ、カリッ、カリッ
「あ、あのー、僕宮島って言うですけどー」
カリッ、カリッ、カリッ、カリッ
「ふっ、あの、えっと、え?」