美少女はいつだって冷たい
「以上でホームルームは終わり。起立、礼、さようなら──」
「さようなら──」
教室を出ようと扉を開いたその時、担任の蛇崩先生に止められた。
「宮島は残れ」
あぁ、過去何度も聞いたセリフ『残れ』。この言葉が使われた場合、99%碌なことがない。学年集会で耳栓して寝てただとか、授業中、ノートに不適切な絵を描いていただとか、枚挙にいとまがない。
そして『残れ』と言われて帰った場合。これは、200%、次の日生徒指導室行きだ。結構なことに、生徒にとって謎の人物No.2の教頭までついて来たこともあった。ちなみにNo.1は副校長。副校長って何してるかよく分からないが、No.1が来たら、停学だ。生徒には隠された裏の舞台での権力者。陰の実力者だ。
つまり、「今日、荷物の受け取りあるので失礼します」
なんて、口が裂けても言えないのだ。
そういうわけで、大人しく「何でしょうか、先生」と優等生風に質問した。
だが、返ってきたのは、とても優等生に見合わない言葉だった。
「今から生徒指導室に行くぞ」
「はい? 俺何かしましたっけ?」
「遅刻した罰だ。ボランティアとして地域に貢献してこい」
「……」
「早くしろ」
しばらく固まった俺を、衰え知らずの腕力が引っ張る。
「と、ところで、貢献って何するんですか?」
「それは後で説明する。俺は用があるから、先に行って待ってろ」
そう言って、1人颯爽とどこかへ行ってしまった。その後ろ姿に、俺はひたすら呪いを浴びせることしかできなかった。
ピロティの奥には生徒の立ち入り禁止エリアがある。校長や副校長、教頭など管理職の部屋が連なる一角に、会議室や例の生徒指導室も構えている。
俺が来た時にはすでに、部屋のドアが開いていた。おかしい、いつもは閉まってるはずだが。まずは、学生が先に入り、次に生徒指導担当、場合によっては最後に教頭、って流れがある。どうやら、先客がいるらしい。
中に入ると、目に入るはこじんまりとした殺風景な白い部屋。中央に島型デスク、そしてパイプ椅子が2台無造作に置かれていた。
そのうち1台に、やはり先客が座っていた。後ろ姿から、女であることが判明。恐らく、こいつもボランティアに強制参加させられる被害者だろう。一体、どんな悪業を働いたのだろうと、興味津々で隣に座った。
端的に言えば、女子生徒は相当な美人であった。ちらっと、横顔を見ただけでその顔の造形の美しさに目を奪われる。長いまつ毛が上に湾曲し、セクシーさを際立てている。鼻は高く、適度に伸びた顎が結ぶEラインは、芸術的なほどだ。
こんな美少女がいたとは、知らなかった。私立聖応高校はクラスが7つ。文系理系でクラスが分かれ、校舎や教室の階が違う。彼女はおそらく理系なのだろう。
だが、そんなことより彼女は何をしでかしたのであろうか。この教室は限られた者にしか入室できない、逆エリート御用達の部屋。いわば、VIPルームに近い。
そして、先程から観察しているが、こちらには一切の興味を示さない。ただ一点を見つめ、微動だにせず、時を待っている。まるでAIロボットのように。
静かな呼吸音だけが彼女の人間らしさを保っていた。




