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1-7 夜中の研究室

本日6話目の投稿です。

カバっと起き上がる。


大学の寮の、自分の部屋。

爽やかな朝。


思ったより頭が痛くない。

多分帰りがけにルヴァイに飲まされた、海外の高級な二日酔い用の薬のおかげだと思うけど。

逆に頭が冴えて、そしてその頭を抱える。


わ、私………

昨日、なんか色々すごいことしなかった?


ルヴァイに寄りかかって、頭を撫でてもらって……

そうだ、それから……

手を繋いで帰って、最後に、ぎゅって、抱きしめられた、ような…………


うそ、どうしよう。

この後どんな顔してルヴァイに会ったらいいか分からない。


が、無情にも講義が始まる時間がやって来た。

フラフラと講堂へ向かうと、まさかのルヴァイがあちらから歩いてくる。

とっくの昔に私には気付いていたようで、あわあわする私などお構いなしに、あっという間に目の前までやってきた。


「おはよう。体調大丈夫?」


「だっだだだだいじょうぶ」


「そう、薬効いてよかった」


そしてするっと頭を撫でられた。

顔は柔らかく優しく笑っている。

甘い、甘すぎる。

そしてこの余裕。

私は大混乱中だというのに。


ルヴァイは最後に私の頭をポンポンして、少しさみしげな顔で私を覗き込んだ。


「今日この後予定あってエリィのとこ行けないかもしれないけど……ほんとは、今日も行きたかった」


「う、うん……?」


「それだけ、覚えておいて。また会いにいくから」


「わ、かった……」


コクコク頷くと、ルヴァイは嬉しそうにふわっと笑って、またねと行ってしまった。


なんなんだ、ほんとに。

朝から頭が茹で上がりそうだ。

講堂の前で呆然と立ち尽くす。


だって、今のって……

今日も一緒にいたかったとか、会いたかったとか、そう言うことじゃ…………



「わぁ!!!」


「ひゃっ!!」


「ふふ、おはようエリィ。何してるのこんなとこで。」


レミィが爽やかな朝の日差しの中で可笑しそうに笑っている。


「お、おはようレミィ」


「うん、おはよう。ルヴァイと何話してたの?」


「っえ、あ、あぁ、おはようって……」


「ふぅん……仲いいね?あ、ほら、早く行こう?始まるよ!」


レミィと一緒に席に座る。

ざわざわとする講堂には、まだ講師は来ていないようだ。

すこし心の平静を取り戻して硬い椅子に沈み込むように座る。


「そうだ、聞いたよエリィ!好きな人いるのかーって、パパが大学まで来て絶叫したんでしょ?ほんと、面白いよねエリィのパパ」


「あれね……本当に黒歴史だわ……」


「ふふ、みんな面白そうに話題にしてたよ。暫くネタにされそうだね?」


「えぇ……?そろそろ忘れてくれると思ってたのに」


もはや医学部棟では噂などされてないんだけど。

みんなそれどころじゃないのかもしれないが。


「ねぇ、エリィ。あのとき、パパに嘘ついちゃえって、好きな人いるって返事してたけどさ、嘘じゃなかったんでしょ?」


「へ?」


「みんな言ってたよ?あー、あいつが好きなのかー!って。なんで言ってくれなかったのよ」


なんだかドキリとする。

私の、好きな人……


「サミュエルでしょ?」


レミィはニヤリと笑って私を覗き込んだ。


「………は?」


「違うの?みんなそう思ってるけど」


レミィはそう言うといつもの愛らしい笑顔でにっこり笑った。


「だって、サミュエルもさ、エリィ大好きオーラがすごいもの。良く絡まれるでしょ?」


「まぁ……絡まれはするけど、そんなんじゃないよ」


「またまた、ふふふ」


「だから、違うって………」


思っても見なかった展開に首を傾げる。

確かに、絡まれてはいるけれど。

サミュエルはどちらかというとライバルであって、そういう人じゃない。


どちらかというと………



「え、まさかルヴァイじゃないよね?」



一瞬、脈が飛んだ。



何も言えないまま恐る恐るレミィを見ると、レミィはうーんと考えながら宙を見ていた。


「まぁ、みんなが注目の魔王様だし、エリィも仲いいからね。私もあんな近くにいたらすぐ好きになっちゃうと思うけど……どっちかっていうと、アイドルみたいなもんでしょ?」


「アイドル……?」


「うん。ああいう人と一緒になる人って、相当可愛くて完璧な人じゃないと、みんな納得しなそうだし……普通の女の子じゃ、なかなか隣になんて立てないよねぇ。普通は無理だよなぁって。エリィも無理だなって思うでしょ?」


何だか上手く頭が働かなくて、ただただその言葉を聞く。

レミィがあっと焦ったような顔で、私に困ったように笑いかけた。


「ご、ごめんごめん!大丈夫だよ、エリィとサミュエルだったら、ほんとにお似合いだと思うから。ふふ、応援してるからね!」


ちょうど講師が教壇に立ったところで、講堂全体が静かになって、そのまま会話が終わった。

何だか、講義の内容が、頭に入ってこなかった。


それから、次の講義があるレミィと別れて医学棟に戻る。

ちょうどサミュエルが通りかかって近寄ってきた。


「おい、この間の論文読んだか?」


「………読んでない」


「はぁ?さっさと読めよ、次の溜まってるぞ?」


「ごめん……また今度ね」


「………どうした?なんか……いつもと違う感じだが」


「ふふ、ごめん、大丈夫。後で読んだら教えるね」


「そうか……?」


そのままサミュエルを置いて自分の研究室に戻る。


今日も罵るような言葉と、良くわからない汚いものが入った荷物が届いていた。

いつも通り、適当に分別して捨てる。


今日の分の実験データを処理して、溜まっていた論文を読む。

それから、器具を洗ったり、次の実験を計画したり。

来週は大学病院へ行くから、その準備もしないと。

あれこれやっていたらあっという間に外は真っ暗だ。

もうそろそろ帰ろうかな。


コトリとマグカップを机に置く。

窓の外には月が煌々と輝いていて、昨日の夜のことを思い出して胸がギュッとなる。


窓ガラスに、自分の姿が写っている。

確かに、そんなに気を遣っては来なかったけど。

隣に立てないほど、ダメだろうか。


レミィの言葉がまた頭に浮かび上がってくる。

ルヴァイに私は釣り合わないって、そういうことだろう。

わざわざ遠回しな表現で伝えてきた友人の言葉と態度に、思いの外ショックを受けている自分も嫌だ。

友人ならなんでも受け入れてくれるかというと、そんな事はないというのも分かってる。

レミィに、友人として期待しすぎていたのかもしれない。

依存したらだめだ。

偏らない視点で、この世界のことを見ないと。


だけど。


綺麗な人の隣には、綺麗な人しかいたらいけないんだろうか。

そんなことないって、頭では分かってる。

アホらしいことを悩んでるってわかってる。


どうしても、何度頭を振っても、ふつふつと、暗い気持ちが湧き上がってくる。


ただ、一緒にいて心地よい、それだけじゃ駄目なんだろうか。

絶世の美女でなければならないのだろうか。


夜中の実験室は、なんだか暗くてひんやりひた空気が満ちている。


さっきから、進めなければならないデータ処理が、1ページも進まない。

ポタリと涙が紙に落ちて数字を滲ませて、慌てて紙を机の上に戻した。


だから夜は嫌いなんだ。

暗くて一人で、どうしようもなく弱くなる時間。

傷ついた気持ちが、すぐに癒えない夜。


「エリィこれー」


ルヴァイが研究室にやってきた。

しまった、部屋のドアを開け放ったままだった。

というか、何でいるんだ。

今日は会えないって言ってなかったっけ。

しかも、こんな、遅い時間に……


目が合って、慌てて目をそらす。


「………エリィ」


「っ、な、なに」


「…………どうした」


「………………ちょっと、疲れただけ」


「……………………」


うまく取り繕えない。

どうしよう。

どうしていいか分からない。

こんな自分は見られたくない。

沈黙に耐えきれず、俯いて、ルヴァイに背を向けて、見えないように震える手を握り合わせる。


お願い、早く、どこか行って。

ほっといて。

私は、強い私でいたいんだ。

メソメソしている姿なんて見たくなかったって、みっともないって、言われたくない。

ルヴァイに、そんなこと言われたら、立ち直れない。


不意に頬に手が触れた。

ルヴァイの少しだけゴツゴツした、でも優しい暖かさの手が私の頬に滑り、親指の腹で柔らかく涙を拭き取った。

びっくりしてルヴァイを見上げると、心配が色濃く滲んだ真面目な目が、私を見つめていた。


「甘えるなら今だろ」


あまりにも近い距離に思考停止する。

息が止まって、胸が締め付けられたように、甘く痺れる。


「………俺には甘えたくない?」


うっかり、そのまま素直にゆるゆると首を振ってしまった。

振ってから気が付いた。

私は何をやってる?


遅れて真っ赤になった私を見て、ルヴァイは優しく目を細めた。

そしてそのまま私の頬にあった手を後頭部に滑らせ、ルヴァイの肩口に優しく抱き寄せた。


魔道具の油や薬品の匂いに混じって、ルヴァイのなんだか良くわからない甘い香りがする。

抱き寄せるルヴァイの腕や、私の顔がくっついているルヴァイの肩と胸の辺りが、自分のとは違う硬さと力強さがあって、嫌でも自分ではない誰かに抱きしめられていると実感させられる。



涙がまた溢れてくる。

どうしちゃったんだろう、ほんとに。

私がどんどん、弱くなっていく。


なぜか、クックッとルヴァイの胸が笑いだした。


「なんでそんなにメソメソしてるの?」


「………すみません」


「なんで謝るの」


「………………お見苦しいところを………」


「見苦しい?」


ルヴァイが優しく頭を撫でる。

思わず心地よさに力が抜けて、ルヴァイの胸にすり寄ってしまう。


「………めちゃくちゃ可愛いよ」


「っうぇ!?」


「何その声」


また面白そうに笑ったルヴァイは、少し身体を離して私の顔を覗き込んだ。


「甘えていいっていったじゃん。だから、謝らなくていい」


「……はい」


「で?何で泣いてるの?」


「……………強くないから」


「なんだそれ」


不貞腐れる私を見てまた面白そうに笑う。

でも、からかうようなその声に、心配と優しさが滲み出ていて胸を締め付ける。

ダメだ、やっぱり、このままじゃ………


「よ、弱くなるから、やめて」


「………ん?何を?」


「………………やさしく、するの」


「…………」


失敗した。

何を言ってるんだ私は。

柄にもない乙女な事を言ってしまった。

ルヴァイの顔を見れなくて俯く。

私にはそんなセリフは似合わない。

ルヴァイも、何言ってんだこいつ、みたいに思ってるんじゃないだろうか。

沈黙が、胸を突き刺す。


「っご、ごめん、その……柄にもない事言って」


取り繕う声が震える。


「こんな、私みたいなのが……弱音吐くのは、やっぱり、ちょっと……」


何言ってるんだろう。

こんなことが言いたいんじゃないのに。

馬鹿みたいで、格好悪くて、嫌になる。


「………エリィ」


思っていた以上に真剣な色を帯びた声がして、ビクッと肩が揺れる。

そんな私を、ルヴァイは抱きしめている手で、そっと撫でた。


「どうせまだ自分のこと『可愛くない』『細長い』『冷たい』『凹凸がない』『愛らしくない』『強さがだけが取り柄』『女らしい事は似合わない』女だとか思ってんだろ?」


的確すぎる。

さすがの分析力だ。

悲しくなるし、ムカつく気持ちになったのに。

なぜか、どうしようもなく懐かしい気持ちになって、なんとも言えない混ざりあった気持ちでルヴァイを見上げる。


ルヴァイは想像以上にずっと優しくて、甘い表情をしていた。


「それ、全部勘違いだからね」


再びポタリと頬に落ちた涙を、ルヴァイの優しい手が拭う。


「エリィは、華奢で、凛としていて、芯が通った美しさがあって、スラッとしていて、すごく……綺麗だよ」


ほんのり紅い瞳が、仄かに優しく光る。

その深い色合いに吸い込まれそうな気持ちになる。


「それなのに、内面はバカで天然で強くて、一生懸命で努力家で……明るくて面白くて、でも弱くて強がってて……そうやって頑張って立ってる姿が、めちゃくちゃかわいい」


心のなかに引っかかっていた何かが、棘が抜けたようにその掛け金を外して、じわりと身体が熱くなるような気がした。


ルヴァイが近い距離で私を覗き込んでいる。

優しくて、でも芯に熱さのある視線が、私を絡め取る。

ルヴァイは、少しだけ困ったように艶っぽく笑った。


「でもやっぱり、もうちょい甘えてほしいな」


「……あ…まえ……?」


「……エリィの、弱いところも全部、見せてよ」


優しく頬を撫でられる。

ふわふわする。

段々何も考えられなくなってくる。

なんだか、溶けてしまいそうだ。


ルヴァイの視線が、なんだかとろりとして、熱を宿した。


「エリィ」


吐息のかかる距離で囁かれた声が耳から胸に響いて甘く痺れる。

ほんのり光る紅い瞳を、ぼんやりと見上げた。


「キスしていい?」


なんだか心地よく響くその声に溶かされるように、ゆっくり近づき視点が定まらなくなったその顔に閉ざされるように目を閉じた。


唇に触れる柔らかくて優しいその感触と暖かさに、あぁ、幸せって、こういうことを言うんだなぁって、バカみたいな事を考えていた。


読んで頂いてありがとうございます。


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