1-3 食べ方研究
本日2話目の投稿です。
「はい、これ」
「ありがとうー!」
パパが帰った……というか、追い返した後。
暫くしてルヴァイが壊れてない魔道具を持ってきてくれた。
喜んで受け取ると、なぜだかじっとルヴァイに見られた。
真顔だ。
なんか目が紅い目が光ってるように見える。
怖い。魔王だ。
なんだかわからないけど思わず後ずさる。
「え、ええと……何か?」
「……いや、何でもない。一応さっき壊れてたとこは修理してるけど、他におかしいところあったら教えて」
「はーい!」
「で、使い方わかるの?」
「…………教えて頂いても宜しいでしょうか」
「………わかった」
ガチャガチャと機械をいじるルヴァイは、なんだかちょっと元気がない。
どうしたんだろう。
その顔を覗き込む。
「……どうしたの?」
「…………うん」
いつもの余裕たっぷりで少し意地悪なルヴァイの妙な様子に首を傾げる。
なんだろう。
あれかな。
お腹すいたのかな。
「あ、そうだ。チョコでも食べる?これ美味しいよ」
研究室の自分の机の中からお気に入りのチョコを取り出す。
ちょっとカカオが多めでビターなやつだ。
適度な甘さでお気に入りだ。
「はい」
一つ摘んで手渡そうとすると、ルヴァイは私とそのチョコを交互にちらっと見ると、口をパカッと開いた。
「っえ!?」
「……機械油、手についたから」
「あ、あぁ……なるほどね」
恐る恐るその口にチョコを放り込む。
私の手からチョコを食べるルヴァイの様子が妙に甘くて狼狽える。
「……うん、うまい」
「そ、そそそそうでしょう!お気に入りなのよ!」
「もう一個」
「っはい、どうぞ……っ」
もう一つ摘んでルヴァイの口元へ持っていくと、ルヴァイはちらっと私を見て、ふっと柔らかく笑った。
そして嬉しそうにパクっと食べた。
……不覚にも、可愛いと思ってしまった。
「……気に入った?」
「うん、もう一個」
「食べすぎじゃない?」
「最後」
「しょうがないなぁ〜」
そしてまた一つ摘んでルヴァイの口へ持っていく。
何だかめちゃくちゃ嬉しそうだ。
そんなに美味しかったかな。
私もつられて嬉しくなる。
そしてまたルヴァイがパクっと私の手のチョコを食べた時。
部屋の入口でバサバサと紙がちらばる音がした。
サミュエルが呆然とした顔で立ち尽くしている。
「あれ、どうしたのサミュエル」
「な、にしてる」
「あぁ、この魔道具の使い方教えて貰ってるんだけど……」
するとルヴァイが手を拭きながら立ち上がり、下に落ちた紙をさらりと集めてサミュエルに手渡した。
「はい、落ちたよ」
「………あぁ、悪い……」
「………」
何だこの空気。
絶妙な顔をしているサミュエルとルヴァイの背中を交互に見る。
首を傾げていると、ルヴァイがほんの少し振り返って呟いた。
「………ちょっと部品足りなかったから取ってくる」
「え?」
「これ、割れてたから」
そう言うと、いつの間にか割れていたガラスの部品を手に持って出ていってしまった。
これ、そんな壊れやすい魔道具だっただろうか。
気をつけないと。
「あれ、それでサミュエルどうしたんだっけ?」
「っあぁ、これ……さっき渡したやつから、漏れていた」
「うわ、また長い論文だね」
「……他国の論文だ。有名な教授のだから読んだ方がいい」
「ほんとだ。ありがとう」
ペラペラと紙をめくる。
魔力と身体が反発する難病か。
サミュエルは本当に勉強家だな。
素直に感心していると、サミュエルが何だか難しい顔でこちらを見ていた。
「なによ?」
「いや……その」
「??」
「……お前の想い人はルヴァイなのか?」
「っはぁ!??」
突然の話題に真っ赤になる。
あれか、さっきのパパのせいだな。
「あ、あのパパの話は忘れて……」
「……違うのか?」
「な、何でサミュエルにそんな話しないといけないのよ……」
やばい、ここを深堀されたら困る。
サミュエルの父親も自分の親と同じ政界にいるのだ。
うっかり嘘がバレて面倒なお見合いとかになるのは避けたい。
何か他の話題を……
「えぇと、ほら、サミュエルもチョコ食べる?」
「……っは!?」
突然真っ赤になったサミュエルは、何だか少しオロオロした後、口をほんの少し開いた。
何だろう。
あ、そういえば。
「ごめん……サミュエル、甘いの好きじゃなかったね」
「っえ、あ、そ、そう、だな……」
今度は何だかしゅんとしてしまった。
ルヴァイといい、なんか今日はみんな変だ。
「なにしてるの、二人とも……」
今度はミーちゃんがやってきた。
何だか一応笑ってるけど、顔が引きつってる。
ミーちゃんまで変なのはどうして。
「……重要論文を持ってきた。ミリアルは読んだか」
「あぁ、これ。うん、読んだよ。家の方に送られてきた。長かったけど興味深かった」
「そうか………じゃあ、エルリーナにこれは渡しておく。ちゃんと読めよ」
そう言ってサミュエルは論文を押し付けて帰っていってしまった。
「変なの」
「………あいつどうしたの、エリィ」
「うーん、論文置きに来ただけみたいなんだけど、なんか変なのよね。ルヴァイも変だし」
「そ、そう」
「あ、ミーちゃんも食べる?チョコ」
「お、それ美味しいよね」
良かった、ミーちゃんがいつもどおりになった。
チョコを摘んで、差し出されたミーちゃんの手のひらにのせる。
ミーちゃんは嬉しそうにチョコをポイッと口に入れるとモグモグ食べた。
「うん、普通はこうだよね」
「何が?」
「さっきルヴァイが、機械油で手が汚れてそうだから直接口に入れてって」
「っっごほっ!!」
「ちょ、大丈夫ミーちゃん」
「っっあぁ、大丈夫。そ、そう。いや、それはルヴァイの言うとおりだと思うよ。うん、口に入れてあげてよかった。機械油がついたチョコとか嫌よね」
「うん。まぁ、そうだよね」
コクコク一生懸命頷くミーちゃんも、やっぱりおかしい気がする。
……まぁいいか。
私もチョコをポイッと自分の口に入れる。
うん、美味しい〜!
幸せ!!
ニコニコしていると、ミーちゃんが呆れた顔をしていた。
「………エリィってさ、バカだよね」
「は!?なんで突然けなされなきゃいけないのよ!」
「うそうそ、ごめん。エリィはほんと可愛いなって思って。ほら、先生呼んでるよ。もうこんな時間だし早く行こう」
「なんと、了解です。行こう」
そうして私とミーちゃんは同じ教授の部屋へ向かう。
私達の研究室が研究しているのは、魔導具を使った治療技術の研究だ。
医療魔術だけでも外科手術のような治療行為は可能だけど、術者の腕前や魔力量、精神状態に影響を受けやすい。
魔導具を使えば腕前のブレは小さくなり、精神状態の影響も受けにくくなる。最終的には魔術が使えない者にだって執刀が可能になるかもしれない。
ただ、あまりこの分野は人気がない。
手間もかかるし……大体花形の医者は魔力量が多い医療魔術師だからだ。
現状は頭も良ければ魔術もできて手が綺麗……つまり器用な選ばれしものだけが花形の最先端医療を開発できる、というのが現状だ。
ガチャリと扉を開くと、白髪にちょび髭の小さなお爺ちゃん教授が迎え入れてくれた。
「おぉ、おかえり。ちょうど新しい魔導具が届いたよ」
「わぁ!最新のメス!!」
箱には20本位の鋭利なメスが並んでいる。
「見た目は普通のと変わらないんだけどね、他の物より魔力を通しやすくなってるんだ」
「これなら魔術のスキルが多少低くても使いやすいかしら?」
手にとって魔力を流してみる。
「どう?」
「うぅん………微妙?」
「そっかぁ……」
「ふふ、ごめんね。私の魔力センスが無いだけかも」
「そういう人でも医学の心得があれば執刀できるのが目標なんだから、エリィが使えるレベルじゃないってことはまだまだってことよ!」
ミーちゃんが朗らかに慰めてくれる。
そう、私は、あまり魔術が得意ではない。
医学の成績は抜群なんだけど。
そういう面では、サミュエルの研究室の人達とは違って、体質的に優秀ではないのだ。
だけど、世の中には似たような人が沢山いる。
もし、そんな人々も医療で成績を残せるようになれば。
この世界は、もっと良くなるはずだ。
「ふむ。とりあえず、いつものアレを見せてもらおうかな?」
「ガッテン了解!準備します教授!」
ミーちゃんはいそいそと的を取り出した。
紐にプランプランぶら下がっている川芋だ。
「お願いします!エルリーナ様!!」
「ふふふ、しょうがないねぇ君たち」
私はメス3本を手に持つと、すっと構え、投げた。
スパパパン!と川芋が一刀両断され、そして背後のベニヤ板に全てのメスが突き刺さる。
「わーお!いい切れ味!」
「ふむ、中々今回は良い品のようじゃな」
「すごいねエリィ」
あれ、感想が一人多いと思って振り返ると、ルヴァイが魔道具の部品と一緒に、酒瓶を一本持って入口に立っている。
教授がそれを見てワナワナとちょび髭を震わせた。
「そ、それは……!」
「二十七代ロッケリーニ酒造のNo.7です、教授」
そしてルヴァイはニヤリと笑って酒瓶を掲げた。
「みんなで飲みます?」
「「「ルヴァイ様ー!!」」」
夜の研究棟。
我がちょび髭先生研究室は、あっという間に魔王ルヴァイ様に掌握されてしまったのだった。
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