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だから早く寝なさいって言ったでしょ!

作者: aqri

「いい加減起きなさい!」


 お母さんの怒鳴り声にビクゥ! と全身震わせて飛び起きた。時計を見れば七時十五分、やばい遅刻する!

 ベッドから飛び降りて鞄を掴むと階段、は下りずに上の段から床まで飛び降りる。しかし私の着地点にはレゴブロックが散りばめられている、地味に痛いやつだ! でも大丈夫、私は鉄板仕込んだスリッパ(裏側はゴムなので滑らない)を履いてる!


ズダム! バギン!


 何個か壊した、しょうがない。バタバタとダイニングに走り込もうとしたが一度立ち止まった。凄い勢いで飛んできた包丁とキッチンバサミと鉈を全部柄の部分を掴む。

 前も同じことあった時に避けたら全部壁に刺さって「ちゃんと掴みなさい! 後ろに爆発物があったら爆発してるでしょ!」と怒られたのだ。ついでに壁の修繕もやらされた。

 ダイニングに入り椅子に座る、前に鞄からゴムマットを取り出して椅子に敷いてから座った。配線が見えたから今日は電気椅子だ。


「アンタまた制服で寝たの!? 皺になるからやめなさいって言ってるでしょ!」


 台所でお弁当を詰めながら母が振り向かないまま左手で何かを投げた。めっちゃシュワシュワ言ってるハンディタイプのスチームアイロンだ、触るところ間違えたら火傷する。

 鉄を仕込んだ鞄をクッション代わりに受けてから、通常の30倍になっているスチーム威力を通常まで戻してからスカートにスチームをあてる。


「だって着替える時間もったいないんだもん」


 チーン、という音と共にトースターからパンが時速130kmで私目がけて飛び出してくる。それを素手で皿目がけて叩き落した。良かった、今日のパンは画鋲がついてない。

 テーブルにはコーヒー、砂糖、ミルク、ジャムが5個ずつ置いてある。えーっと、絵具じゃない本物のコーヒーがこれ、刻んだドクツルダケが入ってない砂糖がこれでコカインが入ってないミルクがこれ、青酸カリが入ってないジャムがこれか。一つずつ選んで勢いよく朝食を済ませる。

 ゴムが溶けたような鼻に突き抜けるにおいがし始めたので椅子のゴムが焦げてきた。たぶん5分以内に食べないと椅子の電力がもう一段階あがるなこれ。


「毎朝毎朝、何でもっと早く起きないの! 夕べは二時十八分に布団に入ったわね!」

「だってゲーム面白くて」

「またイケメンとデートするやつ!? 電子の世界に異性を求めないの! ハルキ君は資産もないし子供作れないし身代わりにもならないし保険金もかけられないでしょ!」

「いいの! ハルキ君にはそういうの求めてないの!」


私がハルキ君に求めてるのは優しい言葉ときらきらした笑顔なんだから!


「夜はちゃんと寝なさい! 成長ホルモンが出るのは十時から二時でその時寝ないと意味ないのよ、おっぱい大きくならないわよ!」

「え、マジ!?」


今日からちゃんと寝ようと固く誓った。

 お母さんのスマホから電話の音が鳴った。お母さんは食洗器に食器を入れている途中で「ちょっと出て!」と言ってくる。スマホを取ってタップしようとしたが、表示された文字は


【جلالة الملك】


「何語!?」


 思わず叫んだ。するとお母さんが「もう!」と言ってカウンターを飛び越えてスマホを取り謎の言語を話し始めた。

 お母さんが食洗器の前からどいたので食器をすべて食洗器に向けて投げ込む。全部陶器だから割らない、かつ確実に納めなきゃいけない。昔はよく割ったっけ。ナイフ投げを一日100回やらされたのは苦い思い出だ。電話が終わったお母さんはスマホをポケットにしまった。


「アラビア語やってないの!?」

「高校の必須科目にはないよ!」

「じゃあ今日からやりなさい! アラブ諸国は経済に影響するんだから」


ああ、また言語の勉強が増えた。これで9か国目だ。まだタミル語だって途中なのに!


「そんなに覚えなくていいって!」

「何言ってるの! 突然拉致されてバラされる寸前で逃げ出してそこが知らない土地だったらどうするの! 世界主要都市の公用語くらい覚えなさい!」


 覚えなさい、の時に強烈な蹴りが来た。今日はサバットか、でも靴履いてないなら威力が半減……って、安全靴履いてるし! 家の中で靴履くなって言ってたくせに!

 いや違う、これ安全靴に見せかけた足をすっぽり覆う形のスリッパ! 手芸とDIYと破壊工作が上手いと何でも作っちゃう!


 運が良ければ骨折、運悪ければ粉々になりかねないお母さんの蹴りをかわして洗面所に走る。速攻歯を磨き出ようとしたら扉があかない。ドアノブには鍵穴が見えた。洗面所に鍵なんかついてなかった、ということは鍵があるはず。はっとして歯ブラシを調べたけど何もない。そううまい話なんかないか、と思ったけどお父さんの歯ブラシをへし折るとちゃんと鍵が埋め込まれてた。父親の物を触りたくないという思春期の娘の心を抉るトラップ。

 鞄を掴んで中にこっそり入れられたらしい暴発しかしない拳銃を放り投げ、瞬間接着剤を仕込んだ靴の中敷きを一枚捨ててから靴を履いた。念のため踵を二回地面に打ち付けるとちゃんとつま先から隠しナイフが出てきた。よかった、身を護る物はいじらないでくれてる。

 玄関を開けようとしたがガチン、と鍵がかかっている。しかもタブレットと小型の機械がくっついて「入力画面」と表示されている。


「パスワード!? 時間ないのに!」


 やばい、あと二分で家を出ないと家中にガスが噴射される! お母さんがニヤっと笑ってから毒ガス用マスクつけてるし!

 自分のスマホをセキュリティレベルマックスにあげてからUSBで繋ぎ、ハッキングしてロック解除を試みる。以前自分の部屋のドアにも同じことされて、システムにウィルス送り込んだら10種類のウィルスが返ってきて私のスマホは壊れた。その後「爆弾だったら即爆発するでしょ! 安易にウィルスに頼らない! ちゃんと解きなさい!」と怒られた。

 ピー、と音がして解除成功。やばい、あと一分切った! ドアを勢いよく開けて勢いよく閉める。するとドアからドガガガ! と凄い衝撃が伝わってきた。ゆっくり開けて一応周囲を確認してから外に出ると、玄関には小さな斧が三本刺さっていた。勢いに反応して射出されるタイプか、危ない!


「いってきまーす!」


 家の中に叫んで外に出た。とてつもないスピードで突っ込んできたマチェット付きドローンをジャンプで避けて、宙にいる状態のところに飛んできたアーチェリーの矢を素手で叩き落した。

 着地して走り出し、5メートルの距離にはもう待ち合わせに来ている友達の姿。


「お待たせ!」

「おはよ」


小学校からの友達の涼花が手を振る。じゃあ行こうか、となった時。


「お弁当忘れてる!」


 お母さんの声と共に凄い勢いで投げられたのはお弁当が二個。ええええ、まったく同じ見た目!? さすがにわかんない、あ、でも弁当箱包んでるハンカチの結び目が片方はあやつなぎになってる! 中身がばら撒かれないよう簡単にほどけない結び目はお弁当じゃない!

 本物のお弁当をキャッチしてあやつなぎのお弁当は安全靴で思い切り空に向かって蹴り飛ばした。それは空中でパパパパン! と音を立てて激しく爆発する。爆竹かな、いや、威力強いから火薬増やしてるっぽい。


「お弁当ありがと!」


 お母さんは家の中からグっとサムズアップをしてくれた。ふうやれやれ、やっと落ち着いて学校に行ける。

 涼花は超頭よくて私立の進学校に行った。私は県立。高校は別れちゃったけど、駅まではこうして一緒に行ってる。


「いやあ、ちょっと遅れたごめん」

「いいよ、会話と音全部聞こえてるから」

「えええ、ほんと? うわ、恥ずかしい」

「恥ずかしいっていうか……まあいいけど」


 言いながら涼花はホイっと紙パックの紅茶をくれた。ありがたい、ちょっと喉乾いたんだよね。ストローを刺して一口飲む。


「ぶぇっふぇ!!?」


 凄い声と共に口に入れた物を吐き出した。ゲホゲホせき込んで、紙パックをよく見れば有名メーカーと見せかけて手作りだ! ロゴがパチもんだし製造元が「お母さん」って書いてある! 紙パックの底を見るとスペイン語でお母さんの字。


“夜更かしするから頭が働かないの! ちゃんと寝なさい!”


くっそー、やられた! サムズアップしてくれたから合格だと思ったのに! 中身はデスソース! ストローだから匂いが嗅げず口に入れるまで気が付かなかった!


「昨日おばさんから、このタイミングで渡してくれって頼まれたんだけど。これから私があげる物全部疑われたらいやだから、今回だけですよって条件つけた」

「あ、ゲホゲホ! ありっ げえっほ! がとぉほえっほ!」


 今度はちゃんとしたやつ、と付け加えてから涼花は水をくれた。それを一気に飲み干す。ふ~、おいしい! その様子をじっと見つめる涼花に、どうした~? と聞くと真面目な顔をして聞いて来る。


「なんか年々凄い事になってる気がするんだけど。本当に家業継ぐのに必要な事?」

「まあね。どんなお客さんがいるかわかんないじゃん?」

「高校の友達に話しても誰も信じてくれないから、一応、改めて聞くんだけどさ」

「なに?」



「光の家って、フリーランスの傭兵でも殺し屋でもSPでも武装組織でも黒の組織でもなくて、普通の居酒屋なんだよね?」

「うん」



END

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