第2章~フラッシュバックして判断を覆すと
その時は軽く考えていましたが、以前に新小岩駅総武快速線ホームで見た事を後から思い出し、やっぱり行くのを止めようと思い直しました。
その日の仕事は、特に暇でも忙しくもなく夕方になりました。
だいたい、仕事が落ち着き始める20時位から、交代で作業着を洗濯し始めるのですが、その日に限って当直の方が、
「今日は作業着の替えもまだあるし洗濯は結構です」
と、言うのです。
そこで自分は、
「じゃあ、お先に洗濯させてもらいますね」
と、言って、機械室の外れにある洗濯機に向かいました。
「皆さん暑くて散々汗をかいているだろうに、何で誰も洗濯をしないのかな?」
と、思いながら、洗剤を入れて洗濯機を回していると、その数秒後に自分の後ろを誰かが通ったような気がしました。
「何だ…、この時間に仕事でも入ったのかな?」
と、思って、振り向いても誰もいないのです…。
その時に、右耳の奥の方で、
「キィィィィ---ン」
と、いう感じの高い音がしました。
「んっ!この近くに心霊でもいるのかな?」
…と、俄かに思いました。
ただ、今回ばかりはその波長が強い感じで、且つ、いつもより長めに思えました。
まあ、こう暑い時は頭もぼ~っとしているから、そういった事もあるのかな?
…と、思いながら、洗濯機から離れて中央監視室に戻る事にしました。
洗濯機が機械室の外れにあるものだから、中央監視室に戻るのにはボイラー室を経由して戻るのですが、ボイラー室の鉄扉を開けようと近付いた時に、
「ドカァァァァ-ン!」
という音が、その鉄扉の内側から聞こえました。
その音は、鉄扉の内側から体当たりでもしたかのような感じだったので、自分はびっくりしてその場に立ち竦みました。
「きっと、誰かがこの扉を通って閉まった音だろう?」
…と、思い、自分もその扉からボイラー室に入ろうと思った瞬間、
「ガタガタッ、ガタガタッ!!!」
…と、鉄扉が小刻みに揺れたかと思ったら、その直後に小さな音で、
「ガッ………チャ……」
…と、音がして、その扉がだいたい2センチ程開きました。
「えっ…!、何で自然に扉が少し開いたんだ?」
「扉の内側で何かあったのか???」
…と、思い、緊張が走りました。
「でもまあ、振動で開いたって事もあるのかな?」
…と、思い、ドアノブに手を掛けようとしたその時に、その2センチくらいの隙間から真っ白い物が、うにょ~っと出て来たのです。
それが、みるみるうちに手の形になり、自分が握ろうとしていたドアノブを真っ白な手が先に、
「ガッシッ-!」
…と、勢いよく掴んだのです!
「ヒィィィィィ-!!」
驚いたのなんのって、直ぐに自分は手を引っ込めて顔を背けました。
……………………………
その場で、どれくらい固まっていたかは定かではありませんが、恐る恐る振り返ったところ、そこにはもう何もありませんでした。
後で、同僚2人にその時間帯にボイラー室にいた人がいるか聞いたのですが、誰も立ち入っていないとの事でした。
それにしても、あの真っ白な手が突如ドアノブを掴んだ事が、あまりにも衝撃的だったので、暫くその鉄扉に近付くのが恐怖でした。
ただ、それが見えたのは一回だけでした。
今まで、このビルの何か所かで心霊現象が起こる事がありましたが、真っ白な手を見るのは初めてでした。
もしかしたら、新小岩駅に行くのを止めようとしたから、真っ白な手が出て来たのだろうか?
だとすると、自分にはまだ何かが憑りついているのだろうか?
やっぱり行くしかないのか…。
結局は、職場の同僚から言われた一言を切っ掛けに、普段はほとんど途中下車しない新小岩駅に、翌日の宿直明けに出向く事にしたです。