表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第6章~目には見えない真横に感じる2回の出来事~(第1部完)

 それから数ヶ月後に起きた事です。


 あの新小岩(しんこいわ)駅の一件から落ち着きを取り戻して、少しずつ忘れかけていた頃でした。


 その日は宿直明けで、前日の仕事がかなり(いそが)しかったのです。


 自分は、帰りの電車に乗るや(いな)や、シートに(すわ)ると()ぐに(ねむ)り込んでしまったのです。


 帰りの電車は、都心と反対方面なので、()いている上にゆったりと座れました。


 それ(ゆえ)に、津田沼(つだぬま)くらいまで乗り過ごしてしまう事が多々ありました。


 その日も、3人掛けのシートの右側に座って、寝過(ねす)ごさずに帰れればいいなと思っていました。


 心地(ここち)よく()ていると、自分のすぐ(となり)りのシートに、


「ズシーン!」


 …と、かなり(いきお)いよく誰かが座ってきた感覚(かんかく)がありました。


 そのお(かげ)で、寝ていたとはいえ反射(はんしゃ)的に身を()()らせました。


「…ん、誰かが隣に来たのかな?」


「この時間帯で、3人掛けのシートが()まるのは(めずら)しいな…」


「それにしても、隣に座るのにあんな勢いで座るなんてどんな奴だよ!」


 …と思い、眠たい目を(うっす)らと開きました。


「え、えっ!」


()ない…、隣には誰も居ない!」


 それどころか、3人掛けのシートの向かい側も空席でした。


 (あわ)てて車内を見渡すと、(はな)れた座席に4人程乗客がいましたが、隣に座ってきたような形跡(けいせき)はありませんでした。


 すると次の瞬間(しゅんかん)…、


(とびら)が閉まりま~す」


「プシュ~、ガッコン」


 そこは、あの新小岩駅でした…。


「うわぁぁぁ!」


 自分は、頭が真っ白になりました。


 自分がいたすぐ隣の席に、目には見えない何かが座ってきたと思うと、同じ場所に居続けるのに(おそ)(おのの)きました。


 すぐに、2つ先の車両へ移動したものの、とてものんびり寝ていられる心境(しんきょう)にはなれませんでした。


 次の小岩(こいわ)駅で、特に用も無いのに途中(とちゅう)下車をして、物怖(ものお)じした心を落ち着かせました。


 呼吸が整って目が()えてくるまでは、ここを動きたくないと思いました。


 数分後、やっと気持ちが落ち着いたので、再び西船橋(にしふなばし)駅まで乗車しました。


 そして、西船橋駅に着いてから武蔵野(むさしの)線の府中本町(ふちゅうほんまち)行き電車に乗り換える為に、改札口のある階に上って行きました。


 急いで帰る訳ではなかったので、武蔵野線の9,10番線ホームに上がるエスカレーターは、左側に乗りました。


 すると、右側後方からエスカレーターを歩いて来る音がしました。


「カツン…カツン…カツン、カツン、カツン!」


 自分に近付くに連れて、段々とその足音は大きくなりました


 ブーツで歩いた時に聞いた特徴(とくちょう)のある音でした。


 このまま、エスカレーターの右側をすり抜けて行くのかと思っていると、どういう訳か自分のすぐ(なな)め右後ろに来た途端(とたん)に、その音がピタッと止まりました。


「何だよ、()かすなら早く抜かして行けよ!」


「こっちはギリギリまで左に()っているんだから!」


 …と思い、(おもむろ)に斜め右後ろを見たら誰もいないのです!


「えっ、何で!」


「今は頭も冴えてるのに…」


 …と思い、目を大きく、


「カッ!」


 と、見開いてエスカレーターの後方を見たら、そのエスカレーターに乗っていたのは、何と!自分だけだったのです…。


 その時は、ゾクゾクっと寒気(さむけ)がしました。


「ヤバい…、総武線各停の車内から、何かを()けてきてしまったのか?」


「確か…、自分の隣に目に見えない何かが乗ってきたのは、新小岩駅からだったような…」


 この出来事が起きてから、自分は宿直明けの時にどんなに眠くても、総武線各停に乗って西船橋まで寝ようと思っても、新小岩駅に着くと何故か必ず目覚めてしまうという事が続いていました。


 一度は自分を引き込もうと(こころ)みた地縛霊(じばくれい)が、(あきら)めきれずに寄って来ていたのだろうか?


 この出来事があって何日かは、新小岩駅を通過する時はなるべく下を向くようにしていました。


 自殺の名所として有名だった新小岩駅は、快速線の4番線ホームから投身する人が多くいました。


 月曜日に人身事故が多かったのは、投資(とうし)で失敗して多額の損失を(こうむ)った方がいたからという説もあります。


 電車の人身事故が起きると、運転再開を急ぐあまりに、運転席のフロントガラスだけは返り血と(あぶら)除去(じょきょ)しますが、先頭部分の車体の返り血は完全には落とせないので、車庫に入るまで走り続けています。


 そのような、車体を実際に見た事が何度もあります。


 当時、新小岩駅の快速線ホームでは投身自殺者が多すぎて、ホームから投身している人が生身の人間なのか地縛霊なのか見分けが付かない事もよくありました。


 そんな時は、回りの乗客が騒いでいるかどうかで判断していました。


 それが地縛霊だったとしても、自分の目の前の車窓(しゃそう)には、いつの間にかギットリとした脂が()でる様に付いていて、そこに無数(むすう)指紋(しもん)浮き上がって見える事がありました。


 あと、一度だけ走行中の総武線各停に並走(へいそう)して追いかけてくる、白い着物を着た幽霊(ゆうれい)を見た事があります。


 電車の速度が出ているのに、あっという間に追い付いたと思ったら、ビターンっと車窓に顔を()り付けてきましたが、それはとても見れたものではなく、顔の半分がグチャグチャに(つぶ)れていました。


 この時は、あまりの気持ち悪さに、半日は気分が悪いままでした…。


 これまでが、新小岩駅の快速線ホームにホームドアが設置(せっち)されていなかった時のお話しでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ